音楽に耳を傾けることで心の旅を満喫する人がいるように、旅の中に音楽的要素を見出すこともまた容易である。2000年2月。その数日間をぼくは親しい友人である漫画家・井上三太とアトランタの地で過ごした。
 ぼくらはともに68年生まれである。三太画伯は自分たちの世代を勝手に“ニュー大人”と規定する。何だか下品なラブホテルの名前みたいじゃないの、というぼくの異論を笑顔でかわす画伯。言葉を重ねているうちに自分もこの呼び名をすっかり気に入ってしまった次第。ニュー大人がこの10年間で失ったものは自由な時間だが、その分財布は厚みを帯びた。そのことを否定するつもりはない。金策する必要なく本やCDを好きなだけ買えるのは楽しいことだ。女の子を喜ばせるために気がねなく美味しいレストランに行けるのもいいね。そこで恥をかかぬためのスーツが必要なら買いましょう。
 もとより散策に杖を必要とする年齢ではないが、ロンドン・ナイツブリッジの高級百貨店ハロッズで仏頂面した従業員に入店を断わられるバックパッカー・エイジでもない。無頼を気取るのはやめよう。ハングリーぶるのは格好悪いよ。ただ、やんちゃは捨てられないね。日本を発つにあたって、とりあえずホテルだけは確保した。かといって多くを求めているわけではない。空調と水回りと電話回線がしっかりしていること。近くに深夜営業のスーパーまたはデリがあること。願わくばジムとプールを備えていること。
 これはニュー大人の旅日記である。旅にはレコード・ジャンキー転じてレコード会社勤務となったN氏も同行した。男3人旅。共通項は、ニュー大人であるということ、そしてバカの付く“R&B愛好者”であるということ。




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