その後ぼくらはピーチツリーロードをいったん11thまで北上、今度は『EAR WAX』へ。ここでぼくは94年に「COLOR ME BLUE」という素晴らしいバラッドをものにしたティナ・ムーアという女性の幻のセカンド・アルバムをCDで手に入れた。キース・スウェットのプロデュース曲も含まれているという豪華な内容にもかかわらず、いい加減なレーベル名が記されている。おクラ入りになったものを業者がまとめて叩き売ったらしい。1枚2ドル。安いのは嬉しいが、長年の探しものがこんなに安いのも、ねえ。ちょっと考え込んでしまうよ。そもそもこのアルバム、RCAからリリースされるはずだったが。アーティストやプロデューサーの合意のもとにリリースされたものなんだろうか。
 それまでスコッティ・ブラザーズという準メジャー・レーベルにいたムーアを大手のRCAに引き上げたのは、スコッティの元副社長にして時のRCAのアーバン部門トップ、ケヴィン・エヴァンスである。彼はかの『フォクシー・ブラウン』、『ジャッキー・ブラウン』で有名な女優パム・グリアの夫だったことでも知られている。辣腕ゆえ、業界内に随分と敵も多い。数年前の一時期エヴァンスと親しくしていたぼくは、マンハッタンのRCA本社に呼び出された折り、彼から直接ムーアの新作の話を聞いていた。がしかし、彼から依頼されたロームという男性シンガーのリミックス作業において、ギャラの支払いの件が原因でぼくとエヴァンスはその後没交渉に。ロームはRCAを離れ、エヴァンスは首脳陣に解雇された。こういった経緯から、正直、ティナ・ムーアの新作のことは諦めていた。
 そんな矢先の2ドルである。アトランタのピースなレコード店のディスカウント・コーナーでぼくはひとり感傷的な気分になってしまった。これは恋に似ている。


 再び『FOX THEATRE』付近まで南下、右折してチリドッグの店『VARSITY』へ。『FOX THEATRE』完成の前年1928年に開店したというこの世界最大のドライブインでは1日1万5千個のチリドッグを売る。
 この店で画伯はその狂気を開花させた。ぼくが持参したビデオカメラに向かってのひとり英語弁論大会は、時差ボケと満腹という理由だけでは説明できないほどのばかばかしさ、いや、可笑しさにあふれていた。卑猥なことを言っては「アイムナスティ」「アイムソーリ」と弁明、不可解なギャグにぼくとN氏が怪訝な顔をするたびに「ユーノー」と付言。グループ旅行の常として、この会話パターンはその後3人全員によって何度も執拗に繰り返されることに。
 まだまだ元気だね。じゃあ、今日の締め、バックヘッドに戻って『LENOX SQUARE』脇の『TOWER RECORDS』に行こうか。あそこなら24時までやってるから。










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モアハウス大の学食で美メロ隊に声をかけてきたフィリップ。日本語専攻。フィラデルフィア出身のラーメン好き
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