2年ほど前にライトの車の助手席に乗って辿りついたモアハウス大を、記憶だけを頼りに目指してみた。が、途中から見慣れない景色につつみ込まれてしまったのである。素人考えで何度か軌道修正したのも裏目に出た。
 さっきから白人をまったく見かけなくなったということはディープな方向に向かっているのだろう。道が細くなる。右側は林、左側はスーパーマーケット。ええい、ままよ。スーパーに設置された巨大な駐車場にとりあえず車を突っ込んでみる。
 道を尋ねようかと入ったスーパーの客は年老いた黒人が多勢を占めた。ちょっとすすけた感じの店内は活気がなく、ぼくと画伯はちょっとあてが外れた感じだったが、N氏ひとりだけは「肉が安い」と感心したり、現実的な視線を失わなかった。
 スーパーの出口の左手には並んで2軒のソウル・フード・レストランがあった。そのうちの1軒『IDA'S COUNTRY KITCEN』にぼくたちは入った。20人も入ればいっぱいになるカフェテリア方式の店内は、けっして新しくはないが掃除がきっちりとなされているし、採光も十分に行き届いており、清潔な雰囲気だ。当然のように店員も客も黒人しかいない。ぼくらも彼らにならってチキンやブラック・アイド・ピー(豆の煮物)、ターニップ・グリーン(かぶの葉の煮物)、それにコーン・ブレッドなどをプレートに取り分け、席に着いた。
 数人の客のなかにひとりアン・ヴォーグのテリー・エリスに似た妙齢の黒いスーツの女性がいて、彼女のスカートの深めのスリットにぼくらの目は釘付けになった。フライドチキンを気だるく頬張っている。壁の一面だけが鏡張りになっている。鏡越しに視線があったので声を出さずに「ハイ」と口を動かすと、彼女は直にこちらを見て「ハイ」と答えた。こういうコール&レスポンスが旅の価値を高めてくれる。コールを見ていなかった画伯はその経緯を知らぬまま彼女の「ハイ」をいきなり聞いたわけで、ぼくを尊敬の眼差しで見つめる。N氏は黙々と食べ続ける。一部始終を知る厨房の初老の女性が微笑を投げかける。
 道に迷うのも悪かないね。ぼくは昨日と同じように自分の過失をごまかす形で迷い道こそ旅の醍醐味と説く。今日ばかりはふたりも心から納得してくれるだろう。









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モールUNDERGROUNDでプリクラ。画伯の表情を見よ!
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