テリー・エリスの携帯電話が鳴り、ほどなくして彼女は店を出ることになった。そして今度は3人全体に向かって「バイ」と言った。画伯は喜びの表情を浮かべ、独占権を剥奪されたぼくはちょっと悔しがった。N氏はといえば地図を取り出して厨房の店員に向かって現在地とモアハウス大との位置関係を問うている。だが彼女はどうも要領を得ないようでお手上げのポーズを示した。あるいはN氏の英語が解せなかったのかもしれない。  と、奥から店の主人らしき初老の男性が登場した。モーガン・フリーマンを思わせる物腰の彼はよく通る低い声でぼくたちに訊く。「何で困ってるんだね?」N氏が今度はゆっくりと現在地を教えてほしいと言った。シリアスな表情を崩さぬ主人は「イエス」と言って地図を手にした。ぼくが、モアハウス大に行きたいのだ、と続ける。すると、彼はぼくたちがちょっと驚くくらいの声量で「モアハウス?」と問い返す。今度はぼくが「イエス」と言う。彼はぼくの目をまっすぐ見つめ、おもむろに地図をたたみ始めたかと思うと、今度は目を大きく見開き、ゆっくりと頷いた。
 「オーケー、地図はいらない」
 モーガン・フリーマンは、キッチンの主人は、その長くて太い人差し指で店の外を差し、身ぶり手ぶりを交えながら明解に順路を説明した。その説明通りに道を引き返したぼくたちが、数分後にモアハウス大に無事到着したことは言うまでもない。










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