なんて盛りあがっているうちに道に迷ってしまったのである。高速を降りる場所を間違えてからすべてが狂った。したり顔してアトランタの道路事情を説明していた1時間前の自分が恨めしい。思えばMAGICでルーサー・ヴァンドロスの「NEVER TOO MUCH」が流れてきた頃からぼくは異常に興奮していたのである。何しろ当方、ヴァンドロス好きが高じて自分の音楽制作ユニットに『NEVER TOO MUCH PRODUCTIONS』の名を付けてしまった身。冷静でいられるわけがない。車内はラジオに合わせて歌うぼくの歌謡ショーの趣となった。目的地を知るのもぼくだけならハンドルを握るのもぼく。画伯とN氏はジャイアンのワンマンショーに付き合わされているのび太の気分だったかもしれない。
 自己嫌悪半分、泣きたい気分半分でとりあえず目に入った『WAFFLE HOUSE』へもっともらしく車を突っ込む。ワッフルハウスとはアトランタの郊外をドライブすると数分に一軒の割合で出会うワッフル屋のチェーンである。どの店も大きな駐車場がある。低層のモーテルの1階にあることも多い。無論ワッフルを食べずとも1ドルほど出してコーヒーを飲むだけのために入ってもよい。アトランタに滞在してここに寄らないことはない。頻度でいえば東京にいる時のコンビニに近いかもしれない。ほんとはふたりにこんな形で紹介したくはなかったのだけれど。
 店は実直を絵に描いたような年老いた白人の店長と若い無口な黒人の従業員がふたりで切り盛りしていた。といっても先客は2人しかいなかったのだけれども。ワッフルをホットチョコレートで流し込んで暖をとり、地図を広げてみる。バックヘッドからそう離れてはいないようだ。画伯とN氏のふたりも初体験の『WAFFLE HOUSE』が至極気に入った様子。画伯は店の目立たないところにおいてあるジュークボックスが気になっている。ぼくが説明する。信じられないだろうけれど、今でもこうした需要のためにメジャーのレコード会社は少数ではあるけれど7インチのドーナツ盤を作っているんだよ。そのうちほんのわずかな枚数が好事家のためにマンハッタン・タイムズスクエア脇のHMVあたりで売られていたりするんだ。機会があれば買えばいい。
 1曲25セント、5曲1ドルでプレイすることができる。ポケットを探ればクウォーターは2枚きり。さんざん選んだ挙げ句にエクスケイプの〈UNDERSTANDING〉、そしてもう1曲、アトランタ在住のソングライター / プロデューサーのダリル・シモンズの手によるドゥルー・ヒルの〈IN MY BED〉という2曲のスロージャムを選んだ。やがてエクスケイプの看板・ターシャの歌声が聴こえてきた。老朽化著しいジュークボックスはいくぶん迫力に欠ける音量、そして音響ではあるけれど、それでも旅情を掻きたてるには十分だ。〈IN MY BED〉が終わる前に店を出ることにした。さもないとジュークボックスに入っている曲すべてを聴きたくなってしまうだろうから。












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