松本隆 スペシャルインタビュー



松本:
その前に白川さんと大喧嘩したんだ(笑)。作る前にね。あんまり注文がうるさいからもうしないでくれって(笑)、シングル盤は、あの…、こんなこと話しちゃっていいのかな?
今野:
大丈夫です。白川は昔、僕の上司ですから。
松本:
彼は親友って言っていいから話しちゃうけど。「夕焼け」の詩を作っていたとき、詩を直せ直せって言われて、直しすぎてわけわかんなくなっちゃったことがあった。しまいにこの詩で何を訴えたいのかもわかんなくなって、これじゃあ、、自分が作詩家になった意味がないような気がした。こんなことをやりたいために、はっぴいえんどからずっと生きてきたわけじゃないよなって思って。こんなことじゃ駄目だよなって凄く悩んだ。で、いろんな葛藤の末に、シングル盤はある程度、注文聞くからアルバムだけは口を挟まないでくれって宣言したんだ(笑)。六本木の喫茶店で珈琲飲みながら議論した。そうしたら白川さんは奇跡的に理解してくれたんだ。わかったアルバムは自由に創っていいって。そうしたらそのなかの1 曲がシングル・カットされちゃったんだ。
今野:
「夕焼け」がシングルとして先に作られていて、後でアルバム用として作ったなかの1曲だったわけですよね、「木綿のハンカチーフ」は。
松本:
そう。
今野:
多分、詩も変わってる。アルバム用に作った曲なんだけど、良いのが出来たから(シングルとして)切りたいって言って、それで……、それもなんか戦いがあったような気がする。全面的に直したいというか(笑)。良いものは全面的に直さないでいいよって(笑)。それは、構成が単純すぎるから複雑にしたいとかね、ABしかないからCを作るとか。とにかく一番大きな戦いはこれを2ハーフにしろって言われたこと。当時、いわゆるアイドルのシングル盤っていうのは全部2ハーフで、それも僕、疑問に思ってて。それの論旨の一番強い意見っていうのが、テレビでこんな長い歌は歌えないっていう。でもさ、テレビっていうのは1ハーフしか歌わせてくれないわけじゃない、当時はね。だから、いくら全体の長さを縮めようが延ばそうが、1ハーフしか歌わないんだったら、いくら長くても構わないわけじゃない。だから別に2ハーフじゃなくてもいいでしょって。結構それはね、何日か論争があったような気がするな。最終的にハーフ分削ったんだけれど…、2ハーフにはしなかった。この歌はオチがあったから、オチ聴きたい人は最後まで聴くでしょ?あの戦いがなければ、たぶん今のぼくはいなかったと思う。
今野:
僕なんかはこのアルバムを聴いていて、やっぱり「青春のしおり」って曲が凄く大きくてですね、特にCSN&Yが頭に、歌詩のなかに出てきて。こういうことも歌詩に出来るのかって非常にビックリしたんですけど。
松本:
うん……うん。「袋小路」も良かったな。
今野:
これは荒井さんとは初めてのコラボレーションですよね。
松本:
そうかもしれない。
今野:
これが後々、まあ「赤いスイートピー」とか、そういう曲の原点という風に、捉えれれば捉えられるのかなという感じがします。
松本:
そうだね、このラインだよね。
今野:
アルバム・タイトルとかは松本さんが付けられたのですか?
松本:
「海が泣いている」までか。
今野:
当時、不思議だったのが曲目に一つもないんですよね、アルバムタイトルが。
松本:
タイトルが?
今野:
アルバムタイトルが曲名とは関係なくて。
松本:
ああ、そうか。
今野:
普通は割と大ヒット曲などを付けたりします。特に『心が風邪をひいた日』などでは「青春のしおり」の歌詩のなかから…
松本:
これは今でも好きなタイトルだな。この辺からマジにやってるよね。ここまではなんか、なんとなく演じてるんだと思う、作詞家を演じてるって感じ。
今野:
「木綿のハンカチーフ」の話が出たのでお聞きしますが、これは男女の会話じゃないですか。実はこれ以降も男女の会話の曲が、松本さんの作品のなかでは多くてですね、例えば「赤いハイヒール」もそうですけど、「わかれの会話」っていう『手作りの画集』に入っている曲とか。「ピッツア・ハウス22時」もそうですし、まあ広くいえば「失恋魔術師」もそうですね。その男女の会話というのは、一つのテーマとして何かがあるのかなと思うのですが。
松本:
なんかね、(太田さんが)中性的だったから、少年の言葉が凄く似合ったわけね。
今野:
デュエット曲はあっても、一人で両方やるっていうのはそんなに無いですよね。
松本:
いろんな実験してたんだと思う。言葉の実験。
今野:
あとアルバム的には次は『手作りの画集』ということになるんですけども、この辺だと、僕の勝手な思い込みからいうとですね、「遠い夏休み」とか「茶いろの鞄」とかが、特に「遠い夏休み」なんていうは非常に和風な感じがあって、今までの松本さんとはまた違う世界なのかなあと…
松本:
「夏なんです」ね(笑)。「オレンジの口紅」も好きだね。僕は「オレンジの口紅」と「茶いろの鞄」がね、「茶いろの鞄」は今でも好きかもしれない。
今野:
僕は勝手に鎌倉高校の歌なのかなって。
松本:
行ったことないですよ(笑)。
今野:
確か鎌倉高校というのはですね、路面電車が目の前に走ってて、当然、回りは海なんですよね。僕はずっと鎌倉高校の歌だと思ってたんですよ(笑)。
松本:
だから、みんなね、聴き手の人はそれぞれそういう学校があったと思うしね。
今野:
「茶いろの鞄」もそうですけど、男の子はロックに狂って、なんか不良っぽいんだけど女の子にだけは優しいみたいなところは、御自分を投影されているんですか?
松本:
基本的には…、そうなんだよね。僕の詩は、男は全部、僕かもしれない(笑)。
今野:
「青春のしおり」のなかの、CSN&Yを聴いてから人が変わったというのは?
松本:
僕は別に、CSN&Yっていうのでは変わりはしない。
今野:
松本さんは何で変わられたんですか?
松本:
やっぱ…ビートルズだね。その辺はだから、ちゃんとユーザーを考えてるよね、当時の。
今野:
ああ、なるほど。例えばウッドストックとか。
松本:
うん。
今野:
この後、順番的には『12ページの詩集』というアルバムですが、これはいろんなシンガー・ソングライターの方が書いているので、松本さんが全体を作詞するという形ではないんですけど、そのなかでも山田パンダさんと一緒に作られてたり、ケン田村さんとも。今までの筒美さんと違う方とやられてると思うんですが。
松本:
これはなんか一回お休みって感じだね。
今野:
この次に『こけてぃっしゅ』というアルバムが出てくるんですけども、これは非常にトータル・アルバムだなって気がするんですが。
松本:
うん、そうだね。なんか僕んなかでは『こけてぃっしゅ』って大きいような気がするね。
今野:
全体的に夏っていうふうに決まっていたんですか、テーマは。
松本:
全然、憶えてない(笑)。『こけてぃっしゅ』はいい! っていうことしか憶えてない。
今野:
曲目でいうと僕なんかが好きなのは「ロンドン街便り」、どう考えてもロンドンの外交官の娘の歌かなって、思い込んでたんですけども。
松本:
(笑)多分あれだね。萩尾望都みたいなとこからきてるよね、きっと。
今野:
それは、萩尾さんのどういう?
松本:
なんか分かんないけど。ニュアンス的にね。
今野:
僕も、実は一番好きなアルバムで。ジャケットが当時、まっ白だったってことと、全体的に夏らしいアレンジで、あと心象風景という言葉もやっぱり…
松本:
アイドルにしては…はみ出てるよね。これってあれじゃない? これを発展させたものが松田聖子って感じがする。
今野:
確かにサウンド的にもそうですよね。共通する感じがします。
松本:
このアルバム…、いいよね。
今野:
太田さん自身も非常に好きらしいですね。
松本:
「自然に愛して」って好きなんだよね。
今野:
ああ、これですね。これもいいですよね。これも二人を比べてる歌ですよね。
松本:
うん。
今野:
「トライアングル・ラブ」もそうですしね。
松本:
なんか、このなかでは「自然に愛して」ってのが凄く、強く…。
今野:
この後に「背中合わせのランデヴー」があって、今度は拓郎さんとの、確か3曲だけだったと思うんですけど…。この時はちょうど編曲が鈴木茂さんだったんですよね。
松本:
ああ、そうなんだ。全然、忘れてた。
今野:
ええーっ(笑)そうですか。僕なんかが見ると、ここではっぴいえんどかな、みたいな。
松本:
まあ、はっぴいえんどって感じじゃないよね、なんか。これは拓郎とのコラボレーションって感じ。
今野:
僕はこのなかでは「花吹雪」って曲が凄い…、これ実は“友達になろうよ”って言葉が1番と2番と3番に出てくるんですが、意味合いが段々変わっていくっていうことが、凄い、感動する曲なんですけども。
松本:
……いいね…うん。
今野:
同じ言葉でいっても、意味合いが変わっていくっていうのが、詩ならではの恐ろしさみたいな。
松本:
結構、テクニックを駆使してるね(笑)これも「制服」、「卒業」と発展してゆく原点。
今野:
そうですね、そう思います。松本さんは3曲だけですね。これも『12ページの詩集』みたいな意味合いなのかな、と思ってましたけど。
松本:
もう、この辺になるとね、段々飽きられてきてるね(笑)。僕の詩が。やっぱり、どんなに上手くいく歌手でも、アルバム3枚が黄金期かな。
今野:
でも、松本さんにとって、その3枚っていうのはどれとどれとどれなんですか?
松本:
「ピッツア・ハウス」はこの後なの?
今野:
「ピッツア・ハウス」はこの後なんですよ。
松本:
「ピッツア・ハウス」が良かったね、一番好きかもしれない。
今野:
この曲を聴いた時は、たまらなかったですね。ファンのなかでも「ピッツア・ハウス」はベスト5に入るような、未だに人気がある曲みたいですね。
松本:
「ピッツア・ハウス」はね、拓郎に作った「外は白い雪の夜」の原型だね。こっちのほうが先だと思うよ。
今野:
でも、やっぱり、松本さんのなかではどのアルバムというと、やはり『こけてぃっしゅ』と。
松本:
……歌の完成度からいうと『こけてぃっしゅ』とか。
今野:
当然、『心が風邪をひいた日』は?
松本:
入るよね。あと「ピッツア・ハウス」のやつ、『ELEGANCE』。