松本隆 スペシャルインタビュー



インタビューアー
今野敏博(Sony Music Online Japan ウェブマスター)
特別出演
福岡智彦(Sony Music Entertainment プロデューサー)
※福岡氏は太田裕美さんの旦那さんです。

「風待茶房」にぜひご来店ください!
風待茶房
松本隆さんのオフィシャルサイト「風待茶房」
カフェのお客さま 太田裕美さん
http://www.watch.impress.co.jp/music/kazemachi/

Robin discs Home Page
Robin discs
『誠実と冒険』をモットーに、知性と野性を兼ね備えたアーティストをお届けするのがロビンディスクの意志。1998年2月に発足。Robin discs Home Pageは福岡氏主宰。
http://www.robindiscs.com/


今野:
今回の新譜に関してのきっかけと、仕事をした時の感想などをお聞かせ下さい。
松本:
単純に、筒美京平さんの音頭取りでね…、何を考えてるんだか、急にやりたいって言われて。
今野:
久々に太田さんと会われて、歌を作ってみての感想は?
松本:
凄く面白かった。あまり時間が経ってない気がして。17年振りなのに、なんか…先週ぐらいの感じがして(笑)。
今野:
なるほど。このサイトのユーザーの書き込みもいっぱいあって、昔のをそのまま聴いてるような感じだったと。
松本:
当時作ってたものが、いいもんだったんでしょうね。良くないとやっぱり、古くなっちゃうんですよ。時代が二巡りくらいしても、埃を被んなかったっていう…。
今野:
ただ、今回これだけ年月が経つとですね、まあ普通だとテーマが変わったりしますよね。おそらく太田さんが20代の時に歌われてた曲と、いま太田さんが歌うべきテーマって、普通だと変わるのかもしれませんけども。その辺はなんかこう、考えられてたことってあるんですか?
松本:
外側から考えるほど人間の内側って、変わんないんですよ。僕らって、何ていうのかな、僕らが20代の時に40代とか50代の人たちを見上げた感覚と違うものになっちゃってる。40代とか50代の、一般にいうオジサン、オバサンとは違う中身の…、新しい大人に成りつつあるような気がするんです。それはもう世界共通に起こっていることで、今までの世代感覚の普通の物差しでは計れないような気がする。
今野:
そうですよね、例えば僕なんかも、こないだストーンズなんか観てても、昔の50代っていう感覚じゃないですもんね。今回、僕が凄く詩のなかで、非常に気に入ったのは「水彩画の日々」だったんですけれども、あの、水彩画って凄く松本さんのなかでは非常に、大きな意味が(松本・笑)、あの、大瀧さんのファーストのなかにも、水彩画って言葉が使われていましたね…
松本:
そうでしたっけ(笑)。
今野:
何か特別な思いがあるんですか? 水彩画に。
松本:
うん…、やっぱり、語彙のなかでも好きな言葉とね、そうでもない言葉とがあってね、そういうのは、鋭く受信してる人たちには分かることで(笑)。暗黙のキーワードなのかな。
今野:
実は今回、太田さんのオフィシャル・サイトのタイトルがですね、「水彩画の日々」を頂いたんですけども。ちょっと福岡さん(大田裕美さんの旦那さん)に相談して。
松本:
「水彩画の日々」は「心が風邪をひいた日」ってのから紡ぎだしたんでしょうね。“日”が“日々”になってる。日の連続が、今まで生きてきた歴史としての日々なんです。
今野:
あっ、なるほど。…それではあの、ちょっと昔のことになっちゃうかもしれませんけども、まず太田さんと初めて仕事をした時の印象とかですね、そういうことをお聞かせ頂ければ。
松本:
僕の場合、はっぴいえんどってバンドやってて、解散してやることなくなっちゃって、困っちゃった状態があってね。で、何か仕事しなくちゃって(笑)。で、ある日突然、作詞家になるって周りの友達みんなに宣言して回った。じゃあ、やってみてくれって注文が二つ三つ来て、続けてベスト・テン入っちゃった。アグネス・チャンとかチューリップが続けて入ってね、“なんだ、楽じゃーん”とか思ってね(笑)。だからいわゆる下積みっていうのがない。
今野:
その時、僕はほんとにユーザーだったんですけど、松本さんってあんな人に書くんだって凄いビックリしたんですけど。
松本:
僕もビックリして、本人が一番ビックリして。で、まあ…、そこで終わった友情もいっぱいあったんだけど(笑)。当時はだから(ロックと歌謡曲は)まったく水と油のもんで、ほんとにブルックリンからマンハッタンに一人で単身赴任して行ったよう感じで。ただね、割と僕のなかでは明確なビジョンがあって、これは多分、僕が一番正しいだろうなと思った。ずっとブルックリンにいてもしょうがないなって感じがしてたもんでね。これはみんなに悪口言われても、いつか分かってもらえるんじゃないかって思って、一人で行っちゃったんですよ。で、行っちゃった後にね、戦いだしたんだけども要するに戦いの最初、一番最初です。
今野:
が、太田さん。
松本:
うん。自分の理性で、意志を持って戦ったのは太田さんが初めてだった。それまでのは、やっぱり頼まれ仕事だったから…、それほど、何ていうのかな、自分の意志みたいなものまでは出なくて。とりあえず本当に売れんのかなっていう不安もあったしね。だから腰を据えて、よしっ、戦うぞっていう意志を持って戦ったのは太田さんだった。で、試行錯誤が3枚あったのかな? 「雨だれ」「たんぽぽ」「夕焼け」ってね。これ試行錯誤なんですよ、僕のなかでは。ある程度セールスしたから、良かったんだけど。やっぱり本気で、何ていうかな、自分の世界みたいなのを構築しだしたのが「木綿のハンカチーフ」が入っている「心が風邪を引いた日」というアルバムだった。それが売れちゃったんで、あとはもう、凄く、何ていうのかな、戦いやすくなったっていう。
今野:
そうすると、松本さんの作詞家としての本当の出発点っていうのは太田さん?
松本:
そうですね、スタートラインだし。
今野:
当時は僕、よく分からなかったんですけど、例えばこの『まごころ』なんかはですね、普通“作詩・松本隆”になってるのが“構成・松本隆/音楽・筒美京平”なんですよね。
松本:
知らないなあ(笑)
今野:
そうですか(笑)、じゃあこれで話が終わっちゃいますけども、実はこれと『短編集』なんかもそうなので、他のアルバムとは違うのかな、と思いまして。
松本:
多分、白川隆三さん(担当ディレクター)に、感謝しなくちゃいけないよね。この時ってね、多分、24とか5(歳)だったと思うんだけども。とにかく…、若いのに、かなり自由にやらせてくれたんだ。
今野:
音のほうには絡んでいないんですか?
松本:
音は京平さんがやるから。僕がやっぱり一番戦いたかったのは筒美京平的な世界だった(笑)、実は。だから仮想敵が一番近くにいたんだ。あの人がイコール日本の歌謡曲だったわけ。歌謡曲のチャンピオンだからさ。この感性と僕が戦えばいいわけで、それが、うーん、いっしょに仕事できたっていうのが、ラッキーだよね。
今野:
もしかするとサウンド面の話になるかもしれないんですけども、『まごころ』なんかだと「雨だれ」が最初と最後に違うアレンジで入っていたりですね、それで詩の面では『短編集』だと頭に「白い封筒」で最後に「青い封筒」だと。非常にコンセプト・アルバムというか、僕も当時、歌謡曲を聴いてて殆どがなんかこう、全体を考えてなく作ってるようなアルバムが多いなかで…。
松本:
でもね、最初のアルバムってさあ、“ミックス・ダウンするから顔出してよ”って言われて、行ったのね。そうしたら全部の曲を6時間ぐらいで落としたんだよね(笑)。で、スタジオの隅に座ってて、この人たちいったい何考えて作ってるんだろうって思って(笑)。でもさあ、一番若いから、言えないじゃない? でもなんかこれじゃあイカンなと。結局、そういうところから変えないと、やっぱり歌謡曲はいつまで経っても歌謡曲だなと思ったね。
今野:
じゃあ、1曲30分ぐらいで落としてって感じですかね。
松本:
うん、もう悪い夢見てるみたいだったよ、後ろから見てて。平然とやってるからさ。
今野:
その時はもう、はっぴいえんどでは相当時間かけて。
松本:
相当時間かけてた。1曲6時間でも落とせないとかあったもん。当時、チャンネル少ないけどね、はっぴいえんどって面白いバンドでね、1枚目が4チャンネル、2枚目が16チャンネル。倍々でいくんだよね。32は無かったような気がするから、最後は24チャンネル。録音技術の進歩とシンクロしてた。
今野:
そうすると、例えば京平さんなんかと、そういう当時の歌謡曲の世界で仕事をすると凄く違うことが多かったわけですね。1枚目2枚目辺りは。
松本:
うん、凄くイヤだった。
今野:
それは他にTD(トラック・ダウン)の短さ以外にもあるんですか?
松本:
うん、価値観がシングル盤に集中しすぎてたんだ。僕はね、どっちかっていうとアルバム・メーカーだと思うのね、自分では。やっぱり…「風街ろまん」の人だから。シングルは極端な話、アルバムを売るためのアンテナの役割をすればいいと思っていた。アルバムでいいものを作っておくと残るじゃないですか。そのあたりの考え方が根底から違っていた。
今野:
太田さんのファンっていうのはシングル以外のファンが多くてですね、それも後で見て頂ければ分かるんですけど投票もしてありますので。例えば「ピッツア・ハウス22時」とか非常に人気があってですね、いまだに。『心が風邪をひいた日』なんですけど、当然、「木綿のハンカチーフ」も入ってますので、松本さんのなかでも非常に大きな位置を占めるのではないかと思うんですが。