松本隆 スペシャルインタビュー



今野:
はい。じゃあ、ありがとうございます。では、コンピューター関係の質問に移りたいのですが。松本さんは、コンピューターとはどういう付き合い方をされているのかを、お聞かせ頂きたいのですが。
松本:
インタビューで聞かれると文房具って(笑)。どっちかっていうと作るのが好き。自作するのが。
今野:
えっ?! 何をですか。
松本:
コンピュータ。
今野:
コンピュータ自体を作るんですか?
松本:
うん、あれ、あそこで動いてるのがそう。
今野:
えっ!! DOS/V? DOS/Vを作られてるんですか。
松本:
趣味の一つ。
今野:
凄いですねえ。じゃ、秋葉原とかで色々部品を買ってきて。
松本:
そうそう。『インターネット・マガジン』にも書いたよ(笑)。
今野:
その趣味はどういうところからきてるんですか?
松本:
プラモデルとか作るの好きだったり、トランジスタ・ラジオも作ったしね。結構、作るのが好きみたい。で、コンピュータは最初凄い苦手だったんだ。ハード・ディスク変えるとか、メモリを足したいとかいう時に、詳しい人にお願いして来てもらったりするじゃない。その都度頭を下げるのが嫌になっちゃって。じゃあ、自分で作っちゃえって(笑)。
今野:
しかも偉そうに言われますもんね。
松本:
みんな親切なんだけど(笑)。なんか不毛だなって思って。じゃあ、このブラック・ボックスみたいなものも、自分で作っちゃえば仕組みが分かるなって思って。で、ある日、部品を買いに行って、『自作のススメ』みたいな本とか雑誌も2〜3冊ついでに買って(笑)。その写真を見ながら作ったら出来ちゃったんだ。動いたら結構、感動したね。“ほんとに動いた”ってさ。でも必ずトラブルあるんだ。越えられないハードルが一個あって、それを解決するのに頭も使うしね。もう5〜6台作ったんだけど。
今野:
あっ、そんなに作られてるんですか。そこにあるのは何台目ですか?
松本:
これが一番新しいのだね。
今野:
CPUはどれくらい。
松本:
僕が今、自宅で使ってる自分用のやつは400。メモリが240か。
今野:
えっ!! メガですか? 240メガ。
松本:
うん。RAMが。
今野:
そんな…、化け物マシーンですね。
松本:
で、ハードディスク18ギガ…。
今野:
うわあっ!! それで何をやられるんですか、いったい。そんなのは普通、ビデオ編集のマシーンしかないですよね。
松本:
スピード狂ですね(笑)。
今野:
こないだ太田さんにお聞きした時、昔、松本さんがスポーツ・カーを買って、それでみんなで深夜ドライヴしたっていう話を聞いたんですけど、やっぱりそういうマシーンはパワフルじゃないと駄目なんですか?
松本:
うん。結構、機械好きだよね。だから機械も優れた機械が好き。ポルシェ好きだったし。今は2台ともメルセデス。機械フェチかもしれない(笑)。昔はアルピナB7ターボっていう、セダンの形をしているけど、中身はレーシングカーみたいな化け物マシンに乗っていた。でもプラグがすぐにかぶるから、新品のプ ラグをポケットに入れてね。ようするにお仕着せの既製品が嫌いなんだ。コンピューターで、「imac」が出ると、みんな騒ぐじゃない。でも「imac」も所詮は既製品だから、それよりも世界に一台しかない自作のマシンの方が可愛い。作るのに苦労しても、それも巨大な知恵の輪と同じで、解き方が新しい娯楽になってしまう。他にもコンピューターあるから、インターネットで新しいドライバーを世界中捜し回ったりしながら、楽しんでる。
今野:
凄いですね。じゃあ、インターネットはそのような使い方をされているんですか? 新しい情報を得るために。
松本:
インターネットは基本的に…、情報ですよ。無料で全部の新聞読めるわけだから。それからドライバーね、ドライバー捜し。
今野:
よく行かれるサイトはどういうところなんですか。
松本:
…最近、サッカー・サイトが多いよね(笑)。
今野:
中田クンのサイトとか?
松本:
中田のサイトは、“誰か助けて”がリアルだった(笑)。
今野:
あれで終わっちゃってますもんね。
松本:
(爆笑)、凄かったねあれは。ああいうのなんか、生きてるドラマだよね。
今野:
ワールド・カップの時は面白かったですよね。
松本:
ワールド・カップは面白かったねえ。僕ね、ドイツの携帯借りて、それ某有名電話会社から借りんだけど、ドライバーがドイツ語なんだ。インストールしようとすると文字化けしちゃう(笑)、それで、1分間いくらだか分かんなくて。なんかもうヨーロッパ付いたら繋がるかどうかも心配じゃない? 日本でそれって試せないから、向こうに行って実際やってみないと分かんなくて。最初、イタリアのサルディニア島ってリゾートに行って携帯でモバイルして、“あっ! 繋がった”って喜んでた。いい気になって、インターネットしてたら、電話代だけで1分間290円。帰ってきたら、…電話代が10何万(笑)、事務所に怒られた。
今野:
確かに、モバイルでインターネットでいろんなとこで出来ますけど、海外の時に困りますよね。
松本:
あれじゃさあ、実用なんないよね。スピードは9600だから、一番ノロいでしょ。1スタート・ページを開くだけで、朝起きて歯磨いて帰ってきてもまだやってる。気分はかっこいいけどね。イタリアの田舎町のプロバイダーにアクセスして、そこから日本のサイトにメールをして…、気分はいいけど値段が天文学的。
今野:
そうでしょうね。その辺を解決しないと、まだ、使えない感じですね。では、あと、御自分のサイトの宣伝をしていただいたほうが良いかと。
松本:
僕のサイトは「風待茶房」といって、10月29日にやっとアップしたんだ。詩のデータベースは完成してるんだけど、全部載せると、何か凄い量でね。小出しにしていこうと思って。最初、誰にしようかって、3秒くらい迷って、太田裕美さんに決めた。これはなんか…この人から始めるのがスジって感じで。プラウドリー・プレゼンツ(笑)。
今野:
じゃあ、いろんなゲストを呼んで…
松本:
一応カフェで、僕がマスターだから、常連さんの他に三月に一人ずつ特別なお客様をお呼びしようと考えてる。詩は全部で二千曲位だから、月に100曲ずつアップしても一年と8ヶ月かかる計算だね。裕美さんだけでも100曲近くあるよね。
今野:
詩のデータベースとゲスト以外に、松本さんのレポートというかダイアリーとかはないんですか?
松本:
そういうコラムみたいなのも月1回ぐらい書こうかなと思ってる。週刊ってとこもあるけど。常連はロックのライターの川勝正幸氏とラッパーのかせきさいだぁと、ぼくの旧友で写真家の野上眞宏の3人。「風待茶房」ははっぴいえんどの「風街ろまん」のもじり…。他のメンバーには無断使用だから怒られるかもしれないけど、昔タイトル考えたのも僕だから許してくれるじゃないかと。 なんか、最近の自分の気持とかを自己分析してみると、はっぴいえんどから始まって、作詞家時代があって、小説も書いて映画も作って、時代の巨大な螺旋階段を大きく一周したみたいな気がしてね。気がついたら今の気分がはっぴいえんどを作ろうとしてた頃の気分にとっても似ていて、戻っちゃったみたいなんだ。人間って大きな歴史のなかで、やっぱり出発点にリンクしてるんだね。それはなんか、自分でも面白いなって思ってね。 それで「風街」じゃなくて、いい風を待ってる意味で、「風待ち」。で、“茶房”ってのはcafeで、なんでカフェかっていうと…、ヘミングウェイの頃のパリのカフェが好きで、フロールとかドゥマゴとかフーケとかあるじゃない。実際にパリとか行ってお茶飲んでると、ここでサルトルとボーボワールがお茶飲んでたとか、コクトーがここに座ってたとか、ヘミングウェイが酒飲んだ場所がある。そういう場所って言葉の火花が今でも散ってるような気がする。で、もう一つね、やっぱり仲間でも友達でもいいんだけど、出逢いたいなって思う。出会いの場っていうのは既成のメディアだと決まっちゃうでしょ? 必ずなんかもう、歌だったらレコード会社だったり、テレビ局だったり…、広告代理店が絡んでたりとか。なんか、自由な出逢いじゃないじゃない。でも、インターネットのなかでだったら、そういう制約が無くて、売上げとか視聴率とか、そういうものから解き放たれている。そういう自由さが嬉しいんだ。それでなんか、はっぴいえんどの頃に似てるのね。はっぴいえんどなんて全然、お金なんか気にしなかったし、ただ良いものを作りたいから作ってたじゃない。
今野:
そうやって戻られてきたところで、また音楽そのものをやられるという気持ちはないのですか?
松本:
音楽は…。
今野:
また、ドラムを叩いちゃうとか。
松本:
(笑)、ミュージシャンはねえ、やっと辞められました。ドラム辞める時って、ほんと大変だったからね、精神的に。なんか、お酒とか煙草やめるよりずっと大変なんだ。よく辞められたと思うね。あれに戻る気はないよね。やっぱり音楽はね…詩で参加する。いろいろやったけどやっぱり詩が、自分の天職だと思ってる。これは多分、死ぬまで辞めないと思うな。注文がある限り。
今野:
逆に自分でアーティストになるという気持ちは?
松本:
作詞家もアーティストなんですよ。昔は、プロの作詞家になると純粋にアーティスティックな部分を放棄しなければいけないみたいな空気があったけど(笑)。だから、あの頃ってやっぱり奉仕だったと思うのね。何に奉仕してたかって言うと、やっぱり芸能界に奉仕してた。ある時、京平さんがね、僕が勝手なことばっかりやってるって急に怒り出した、食事しながら。なんか“小説書いたり映画作ったり、そういう余計なことをするんじゃない”みたいにね。何故かっていうと“私たちは日本芸能会社に勤めてる”って言い方したから、僕そんなとこに全然、勤めたことないって言い返した。“僕は最初から最後まで自由業だから、それは全然違うよ生き方が”って(笑)。僕ってね、そういうものの考え方する人間だと思う。。日本の社会だとやっぱり名刺とか肩書から人間を見るじゃない。そういうのはあんまり好きじゃない。僕はヒット曲を作って資本社会に奉仕はするけど、自分の詩のアーティスティックな部分の放棄はしないぞと。あっ、熱くなっちゃって御免。
今野:
いえいえ、本当にありがとうございます。それから、一つだけ最後にお聞きしたかったのが、当時、筒美さんとたくさん太田さんのコラボレーションをやられたと思うんですけど、曲先なのか詩先なのか、どういう作り方をなさってたのかなと思いまして。
松本:
統計するとね、多分、半々ぐらいだったと思う。でも…、どっちがいいって一概に言えないよね。
今野:
今はもう殆ど曲先の世界じゃないですか、今の日本の音楽業界は。
松本:
それはねえ、最大の不満だね。日本の音楽に対するね。
福岡:
詩先で詩を書ける人が少なくなったのでは?
松本:
詩先で書けないってことは構成力がないってことだから。あと…、やっぱり曲もだらしない、付けらんないっていうのはね。
今野:
特に一番酷いのは、アレンジしたオケじゃないと詩が乗っけられないという人もいますよね。
松本:
それはね、楽だから。ある程度、アレンジしてあればイメージが沸きやすいから。だから、その程度だとね、アメリカで仕事出来ないよ。デビッド・フォスター曰く“アメリカ人は詩が無いと曲を作らない”って言ったのね。あの西海岸の筒美京平でさえ、そう言うんだから(笑)、もっと濃いシンガー・ソングライター系の人はねえ、おそらく詩を作ってから曲付けてると思う。
福岡:
向こうでレコーディングしたことがあるんですが、こっちからやった時に、詩は無くて曲先で“ラララー”とかって歌って、それでアレンジを組み立ててっていく時があって、すると向こうのエンジニアから“詩は無いの?”って。“まだ無いんだ”って言ったら凄い不思議がってましたね。
松本:
だから物の出来方がねえ、逆なんだ。車作るのにエンジンから作るんじゃなくて、ボディから作ってる。デザインから作って無理矢理にエンジンをはめ込むようなもんだよね。最大の欠陥だね、日本の音楽界の。でもね、そういう曲先偏重の文化を作った元凶の人はね、僕の詩にもの凄くいい曲を付けられる(笑)。筒美京平は偉大な作曲家です。みんなやりかただけは真似したけど、彼の冷徹なポーズに隠されたハート・ウォームな部分に気付いていない。でも、メロディーのためにも詩先のほうが絶対いい曲が出来るはず。言葉を乗せるのに苦労した部分が、ドキッとするほど新鮮になったりする。メロディーのこと考えるとね。…はっぴいえんどは全部、詩先。
今野:
えっ! そうなんですか。
松本:
うん。でもはっぴいえんどに触発されたような、新しい世代のミュージシャンたちはそういうことも克服してくれるんじゃないかな。
今野:
じゃあ、今日は本当にどうもありがとうございました。