サマソニ直前!現代英国ライヴ・バンドの最高峰、フォールズ・ロンドン最新ライヴレポートが到着(reported by Akiko Shimizu)
フォールズ最新ライヴ・レポート(LONDONアレクサンドラ・パレス)
5作目のアルバム『エヴリシング・ノット・セイヴド・ウィル・ビィ・ロスト・パート1』を3月にリリースし、ツアーとフェス出演で快進撃を続けるフォールズ。そのハイライトとなるロンドン、アレクサンドラ・パレス公演が6月21、22日の2日間に渡って行われた。
初日、会場への最寄駅ウッド・グリーンに降り立つと、濃いヒゲをたくわえ、ハデな柄のシャツを着た「ヤニス的」ラッズ(ジェントルマンとは違う、もっとカジュアルなちょい親父がかった若者たち)が、そこらじゅうにあふれていた。会場に着く前から、すでにフォールズの世界が濃く展開しているのだった。
アレクサンドラ・パレスは、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンからブラー、フローレンス・アンド・ザ・マシーンまで歴史に名を残すバンドが数々の名演をくり広げてきた由緒ある会場。キャパ1万人のここをフォールズは2夜連続ソールドアウトにした。
サポートの2バンド、キエフとYAKの演奏が終って、フォールズ登場。オープニングの「On The Luna」から、エネルギー全開! 圧倒的な喚起力を発揮するフロントマンのヤニス・フィリッパケスに煽られて、フロアの人波は大きく揺れ、ハデなジャンプ・アップ&ダウンをくり返す。「Mountain At My Gates」「Snake Oil」と重量感あるナンバーから大ヒット曲「My Number」へとなだれ込む。バンドも観客も全力疾走のまま。どこかで、息継ぎをしたり力を抜いたりするという発想はまるでないようだ。ショーは「Sunday」で前半の頂点を迎えた。「夏至にふさわしい曲を贈ります」の紹介で始まったこの曲は、それまでの激しいリフの連続とは打って変わった美しいアンセム。客席から大合唱が巻き起こる。リリースされて3ヵ月ばかりの新作からの曲だが、もう誰もが10年もこの曲を知っているような歌いっぷりだ。さわやかな夏の一夜に最高のアンセムをこれだけ大勢の人と共有した時間は、誰にとっても忘れられない思い出になることだろう。「Sunday」の歌詞は、実は混沌とした現代社会の不穏をテーマにしたもの。だから、大合唱には楽しい高揚感だけでなく、共に不安な時代を生きる共感も含まれて、それが会場の一体感を特別なものにしているように思われた。
「Syrups」「Exits」といった新作からの曲が続き、それに「Spanish Sahara」などの旧曲がバランスよく配された本編は、『Holy Fire』からのヒット曲「Inhaler」で幕を閉じた。ステージと客席がダンスと合唱で一体になる光景はもちろんライヴでよく見られるものだが、「Inhaler」では、フォールズとフォールズ・ファンとの間に見たことも聞いたこともないようなタイトな一体感があった。キレのよいバンドの演奏に、観客も最高にキレのよい反応を返すからだ。本日はバルコニー・ジャンプはなかったが、ヤニスが終盤ピットに降りてきてハイタッチと握手大会。ファンとの熱い交流をくり広げた。昨年、レコーディング中にオリジナル・ベーシストのウォルター・ジャーヴァースが脱退するハプニングがあったが、アルバムの仕上がりもライヴもその痛手を全く感じさせない。ウォルターの代わりにツアー・メンバーとして参加しているエヴリシング・エヴリシングのジェレミー・プリチャードは、不思議なほどバンドに溶け込んでいた。
アンコールを待つ間に場内を見渡してみると、何とみんなの汗が蒸発してあたりがかすんで見える。フォールズのライヴではどうしてここまで踊れるのか。それはきっと、あらゆる場面にあらゆるリズムが用意されているからだ。プリミティブなトライバル・リズム、ロック本来のダイナミックなグルーヴ感から、ファンクの躍動感、エレクトロニック・ビートまで。スロー・アンセムにすら力強い脈動が波打っているし、歌詞そのものがリズムになっている曲もある。繊細な部分も軽やかな側面もあるアルバムの音を、ステージではすべてドトウの骨太ライヴ・サウンドに置き換えてしまうアレンジ力も見事だ。
場内かすんだままインターバルが終わり、バンドが戻ってきてアンコール。1曲目はン? 知らない曲。それもそのはず。最新作『ENSWBL パート1』に続いて秋にリリースが予定されている『同パート2』からの新曲が披露されたのだ。タイトルは「Black Bull」。続けて「What Went Down」「Two Steps Twice」と3曲のアンコールで、総計18曲のフォールズ・ライヴは幕を閉じた。
今年で14年選手となる彼らの若さと熟練の良きバランスが取れたクオリティの高い内容だった。もう一つ、彼らが変則リズムの奇妙なマス(math)・ロックの実験に励んでいた初期からフォローしてきた者にとってこの日のライヴは、アルバムを出すごとにスケールアップしてきたバンドが、初期の実験精神をどこかに保ったまま、巨大なマス(mass)・スタジアム・バンドへの道を駆け上がっていく姿を見届ける体験でもあった。
このライヴを野外で見てみたい!と思っていたら、それから何日もしないうちに、フォールズはグラストンベリー・フェスティバルの「シークレット・セット」枠に出演し、ここでもスーパー・ダイナミックなライヴをやってのけた(こちらはTV中継を見ただけだが)。シークレット・セットとは、いわばお楽しみ企画で、直前まで出演者の名前が伏せられた出演枠だが、どこかで事前に情報がもれたらしく、何と同時進行していた別のライヴの観客たちがこちらへ押し寄せてしまう盛況ぶり。ステージ前のアリーナに人が入りきらず、もはや何万人集まったのかもわからないほど、丘の上の方まで人でぎっしり埋まる事態となった。アレクサンドラ・パレスでもグラストンでも、彼らは現代英国のライヴ・バンドの最高峰としての面目躍如の渾身のステージを見せた。
そのグラストンのステージ裏でNMEが取ったインタビューを聞いていたら、ドラマーのジャック・ビーヴァンが、ステージでお披露目した新曲「Black Bull」は次のアルバム『パート2』の音を象徴する曲、と言っていた。とすると、次作は一層ヘヴィなサウンドになりそうな気配だが、どうだろう?
メンバー:
ヤニス・フィリッパケス(vo, g)
ジャック・ビーヴァン(dr, perc)
ジミー・スミス(g)
エドウィン・コングリーヴ(key)
<ツアー・メンバー>
ジェレミー・プリチャード(b)
セットリスト:2019年6月21日
- On The Luna
- Mountain At My Gates
- Snake Oil
- Olympic Airways
- My Number
- Black Gold
- Sunday
- Syrups
- Providence
- Spanish Sahara
- Red Socks Pugie
- Exits
- In Degrees
- White Onions
- Inhaler
- <アンコール>
- Black Bull
- What Went Down
- Two Steps Twice
(レポート:清水晶子Akiko Shimizuロンドン在住ジャーナリスト)