アナ・ジョンソン
 『スパイダーマン2』のサウンドトラックへの大抜擢で、スウェーデンから世界に向けて羽ばたいたアナ・ジョンソン。自分の生きてきた道のり、そしてそこから得た「信念」を曲に映すシンガー・ソングライター、アナの歩みは、スウェーデンにある人口13000人の小さな町、スンネからスタートする。建築家の両親と3歳違いの兄のもとに生まれたアナは、幼い頃から聖歌隊で歌ったり、6,7歳の頃にはマイケル・ジャクソンに夢中だったりと、ごく自然に音楽に親しんでいった。

 「小さい頃から絵を描くのが大好きで、普通に絵画に親しんでいたと思う。両親も、美術の世界に私が興味を持っていることを知っていたから、そっちに行くように薦めてくれたかな。でもまあ、二人ともそういう面を持っていたら、子供もそういう風に育つのかな。(出身地スンネは)犯罪もないし、小さな平和な町よ。環境が素晴らしかった。近所の人はみんな知り合いだし。大都会だったら、自分の知らない人に囲まれて居心地が悪かったかもしれないけど、小さな町に住んでいたから、都会に出て行く心の準備が出来たんだと思う。とってもいい子供時代をすごせたと思うな」



 3歳上の兄はドラマーでもある、アナ。一緒にCDを聞いたり、貸し借りをしたりして、音楽への関心を深めていったのもこの頃だったという。そんな彼女の最初の転機は、高校2~3年にかけてのアメリカへの交換留学だった。漠然としたアメリカへの憧れを抱いていた少女は、13歳のときにはじめたスノーボードの腕が認められて、留学先でプロに。スポンサーを得て、アメリカ各地の試合に出場してゆくことになる。自分で留学を決め、そしてプロになって、まさに「自分の道は自分で切り開く」というアナならではのエピソードだろう。



 約1年後に、スウェーデンに帰国。音楽の方向に進んでいこうか、それともデザインや広告方面の勉強を進めていこうかと悩む中で「どうせバイトをするなら、好きなことをやりたいから」とレコード店での仕事をはじめる。

 「閉店後もお店に残って、ビールを飲みながらみんなで試聴会をしたりとかね(笑)。すごく楽しかったな。今だって、またレコード店のバイトに戻ってもいいくらいよ。こんな音楽もあるのかっていう発見もあって、自分の見識が広くなったというのはあるわね。兄とテープを交換してたといっても、やっぱり好みは偏ってしまうし、好きなものしか聴かないってところもあったけど、お店で働いていると、いろんなものが聴ける環境だしね」



 音楽への想いが更に深まってゆく中で、アナ自身も18歳のころから曲を書き始めた。プロとしてやっていきたい、しかしその方法がわからないアナがまず起こしたアクションが、オーディションへの応募。『ポップスター』というスター発掘系テレビ番組でのオーディションに応募し、合格。そのままエクセレンスという5人組のガールズ・バンドの1員になった。エクセレンスはすぐさま人気を得て、1年ほどの活動で、アルバムを1枚リリース。だが2枚目の作品の曲作りをしている際に、「自分のやるべき音楽は、これじゃない」とはっきり気づいたアナは、グループから脱退する。

 「何も考えずにオーディションに行ったら受かってしまって、どういう展開になるのかは私自身にもわかっていなかったし、多分誰にもわからなかったと思うな。結果的に音楽性がR&B色の強いグループになったんだけど、私はそれにはちょっと満足できなかったのね。ただ、この経験のおかげで自分のことをより多く知ったと思う。なにせ当時は『音楽だっ

たら何でもいい!』っていう感覚だったから。でも、音楽は本当に好きなんだけど、何でもいいって訳じゃないんだってことに気づけた。自分の嫌いな音楽に没頭したら不幸になってしまうことに気づいただけでも、ある意味良かったと思う。音楽は好きだけど、特定の音楽はダメなんだっていう、自分を探す旅に出ていた時期と言えるかな」



 この頃に知り合ったスタッフたちからの「自分で作って歌うといいよ」というアドバイスに力を得て、アナは黙々と曲を書き始めた。先に音楽出版社と契約し、そこからゴーストなどのプロデューサー・チームを紹介される。大好きなスノーボードも我慢して、1年半ほど曲作りに没頭した。自分を見つめ、自分の本当にやりたいこと、自分が歌っていきたい音楽を追求したこの時期に生まれた作品が、彼女のデビュー作『ザ・ウェイ・アイ・アム』には詰まっている。そして、音楽出版社からの紹介で現在のレコード会社と契約。「この作品を作っているときに、はじめて自分がどういう人間なのかがわかった」というほどに、自己追求の日々を反映させたデビュー作が完成した。

 「アルバム全体でこれを目指そうとかいう目標は、なかったな。ただ、とっても個人的なメッセージがたくさん入ってるし、自分は自分らしく生きて生きたいっていう気持ちを全て歌詞にぶつけたから。ちょうど自分の気持ちがそういう時期だったから、ソングライティングに全て現れていると思う。言葉遊びが好きね。だから、ちょっとした皮肉めいたフレーズが入ったりするのは自分らしい特色かも」



 好きなアーティストとして、フー・ファイターズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、エリカ・バドゥ、そしてジェインズ・アディクションらの名前を挙げるアナ。いつか一緒に仕事してみたいプロデューサーは「リック・ルービン!」という、生粋のロックンロール娘でもある。ただ、大切なのは「ロック」であることではなく「あたしらしく」あるかどうか。自分だけにしか書けないパーソナルなことを追求していきたい、とアナは目を輝かせる。