おすすめの言葉

We Want Jazz によせて

小川 隆夫

We Want Jazz 私の一枚

名だたるジャズのオーソリティにも、一人ひとりに名盤との出会いとドラマがあります。おすすめアルバムをご紹介いただきました。(五十音順)

We Want Jazz によせて

小川隆夫

小川 隆夫音楽評論家

「BLUE GIANT」のヒットが影響しているようで、ジャズが再び話題になってきた。ところが、ジャズは聴きたいけれど、なにから聴いていけばいいかがわからない。そんなひとにお薦めなのが「We Want Jazz」だ。これは米コロンビアが保有する膨大なジャズのカタログから、選りすぐりの作品をラインアップしたもの。

ジャズといっても幅は広いし、奥が深い。しかしこれらは、いずれもジャズ初心者のマスト・アイテムである。同時に、長らく聴き続けてきたひとにも、漏れていればこれを機に入手することをお薦めしたい。

米コロンビアはメジャー・レーベルの中でもっともジャズに力を入れてきたレーベルだ。1917年に史上初のジャズ・レコーディングを実施した会社である。その後も、ルイ・アームストロングやベニー・グッドマンなどの作品を発売することで、ジャズをリードしてきた。

しかし、目覚ましいのは50年代以降のことだ。学生の間で大きな人気を誇っていたデイヴ・ブルーベックと契約し、次いで迎えたマイルス・デイビスによって、ジャズの歴史を塗り替える業績を残したのである。ほかにも、チャールズ・ミンガス、セロニアス・モンクなどのヒット作を連発。60年代から70年代にかけては歴史に残る優れた作品をいくつも制作してきた。中でも、マイルス・デイビスは55年から30年間米コロンビアに所属し、数々の名作を残している。

一方、現在のSMEは、もうひとつのメジャー・レーベルであるRCAを吸収し、そちらのカタログの権利も保有している。これらを合わせれば、100年以上におよぶジャズ・レコーディングの主要なものの多くがカヴァーできる。そこから作品を選りすぐって発売するのが「We Want Jazz」だ。

1回目は、米コロンビアに残されたマイルス・デイビスの全作品、2回目は、デイヴ・ブルーベック、セロニアス・モンク、ソニー・ロリンズ、ビル・エヴァンスなど、RCAに残された名盤を含むラインアップである。いうならば、ジャズの魅力とエッセンスを詰め込んだシリーズだ。これらを通し、ジャズを身近に感じていただければ幸いだ。

We Want Jazz 私の一枚

石若 駿

石若 駿ドラマー

マイルス・デイビス:E.S.P.

21マイルス・デイビス:E.S.P.

私が中学一年生の頃、偶然ラジオからこのアルバムの2曲目「Eighty-One」が流れて、この澄んでるけどスモーキーな空気感に物凄く衝撃を受け、アルバムもフルで聴きたいと思っていた矢先に、クリスマスプレゼントで貰ったアルバムです。紙ジャケでの再発盤でコレクションしたくなる肌触りでした。実家にあったマイルスといえば「マイルス・イン・トーキョー」しか聴いたことなかったのですが、一連のライヴ盤から後の第一弾である「E.S.P.」に出会い、それ以降のスタジオ盤から見受けられる、マイルス達のクリエティブな音楽への向き合い方に、とにかく刺激を受けたのを覚えてます。

大江千里

大江 千里ジャズピアニスト

デイヴ・ブルーベック:タイム・アウト

56デイヴ・ブルーベック:タイム・アウト

1曲目の「トルコ風ブルーロンド」が大好き。5拍子で途中でスイングに変わるところとかめちゃくちゃいい。もちろん有名な「テイク・ファイヴ」も!僕は「Boys&Girls」というソロピアノ・アルバムの中で「格好悪いふられ方」を「テイク・ファイヴ」にしたてあげたことがあります。このアルバムはアルバム・ジャケットもものすごく良くて、オシャレというかなんかLPのまま小脇に抱えて歩きたくなるような。ジョー・モレロ(ドラムス)、ジーン・ライト(ベース)のコンビが淡々としてるけど輪郭がはっきりしてて安心して楽しめるジャズアルバム。

ジャズの入門編?いえいえ、僕なんか深すぎちゃって今だに毎回聴くたびに背筋が伸びるアルバムです。メロディ、リズム、モード、など素敵なアイデアがてんこ盛りで発見が多いアルバムです。

ケイコ・リー

ケイコ・リーヴォーカリスト

セロニアス・モンク:ソロ・モンク+9

68セロニアス・モンク:ソロ・モンク+9

ONE OF MY MOST FAVORITE ALBUM

いつ頃だったのか。ハリを落とした瞬間に、彼の世界に誘われた。名曲の数々、そして彼独特のスウィング感や躍動感とサウンドを感じられる、あらゆるリスナーの心を鷲掴みにする。ジャケットもノスタルジックで色褪せない。モンクの魅力が惜しみなく盛り込まれた、大好きなアルバム。音楽のあらゆる肝要さを教えてくれた一枚。いつ何時も心が躍り、ノスタルジーに浸る。彼の独特な世界は今も尚、我々を魅了し、刺激してやまない。才能を大盤振舞いしてくれた我らがヒーローのひとりセロニアス・モンク。夢がかなうのであれば、同じ時代を生きてみたかった。常しえの愛と尊敬を込めて。

後藤雅洋

後藤 雅洋ジャズ評論家 ジャズ喫茶「いーぐる」店主

マイルス・デイビス:アガルタ

43マイルス・デイビス:アガルタ

マイルスは活動期間が長いだけに、録音時期によるファンの好みも分かれているようだ。1967年に「いーぐる」を開業した私は、マイルスが「エレクトリック期」へと大きく変容する時代を体験している。その頃、ジャズ喫茶のお客の間でささやかれていたのは「私はアコースティック時代のマイルスが好きなんだよね」という声だった。

しかし当時のアルバムに記されていた「大音量で聴け」という注意書きに従って70年代以降の作品を聴くうち、マイルスの絶頂期は一時期引退の直前、日本で録音された『アガルタ』~『パンゲア』であることを確信した。彼は様々なジャズ・スタイル誕生に関与しつつ、常に前進し続けていたのだった。

佐藤 俊太郎

佐藤 俊太郎Jaz.in編集長

マイルス・デイビス:マイルストーンズ+3

4マイルス・デイビス:マイルストーンズ+3

あれは当時背伸びして聴いていたAFNから延々流されるアメリカンロックに退屈して局を変えようとした瞬間に「突然」流れてきた。そう,この曲にはまどろっこしいイントロがまったくない,いきなりテーマだ。だから他局のボタンを押す暇もなく二十歳の若造のアタマにしっかりと冒頭40秒のテーマが刻み込まれ,僕のこれまでコツコツ貯め込んできた音楽的志向はこの1曲で綺麗さっぱり書き換えられてしまった。「マイルストーン」は門外漢にジャズのカッコ良さをテーマ一発で分からせるための曲だ。ガツンとくるモノラルなら尚更いい。余談だがあの日流れた「マイルストーン」は帝王が死んだことを知らせる訃報のバックに使われたものだった。

原 雅明

原 雅明音楽評論家

マイルス・デイビス:イン・ア・サイレント・ウェイ

30マイルス・デイビス:イン・ア・サイレント・ウェイ

ビートの刻みは細かく、躍動感もあり、エレクトリック・ピアノとエレクトリック・ギターがフィーチャーされても、スペースが尊重されている。ロックでもフュージョンでもない音楽だと、新しい世代がこれを発見するのも何ら不思議ではない。ECMもアンビエントも、さまざまな音楽がここから枝分かれしていった。一方で、これはモーダルなジャズが確かに宿っている美しい音楽でもある。
いまも、何かを探し、何かを辿ろうとするときにこの音楽に戻ってくる。

林家 正蔵

林家 正蔵落語家

フィル・ウッズ:フィル・ウッズ&ザ・ジャパニーズ・リズム・マシーン

93フィル・ウッズ:フィル・ウッズ&ザ・ジャパニーズ・リズム・マシーン

当時このアルバムをLPで初めて聴いた場所は、アルト奏者本多俊之先生の自宅のリビングだった。 「アルト・サックスがこんなに巧く吹けるなんて。」と針を落とした。溢れ出す音の流れに圧倒される。激しく優しく艶っぽくも猛々しいフレーズに夢中になった。スタジオ録音にない荒々しい臨場感はライヴ盤ならではの魅力。今はなき東京新宿厚生年金会館1975年7月31日。その場に居なかった自分を悔やむ。必聴の名盤。聴かずしてどうする。