photo by Mitch Ikeda

Andy Nixon
drums

Dan McKinna
bass

Crispian Mills
guitar
クーラ・シェイカー突然の解散から3年。ザ・ジーヴァズ結成に至るまでの間、 様々なミュージシャンとコラボレートしながら道を模索したクリスピアン・ミル ズはポーティスヘッドのドラマー、クライヴ・ディーマーや、ジェダイ・ナイツ のマーク・プリチャードらとも実験的に曲作りを行った。
それはスペースSFロックとも呼べる、独特のものだったらしいが、断片的にはま るアイディアや楽曲はあったものの、自分のやりたい方向性を見つけだせず、一 度は完成しかけたソロ・アルバムをお蔵入りにまでしてしまう。
 そんなある日、エルヴィス・コステロのバンドでのドラマーとして有名なクリ ス・トーマスがかつて所有していたスタジオ(ここで、コステロの名盤の数々が 録音された!)で一人、リハーサルをしていたクリスピアンの前に現れたのは、 そのスタジオの上の階に住むアンディ・ニクソン。良質のブリティッシュ・ポッ プをやっていたバンド、ストローでドラムを叩いていた彼と意気投合。ジャムを した途端、もの凄い閃きを感じ、同じくストローでベースを弾いていたダン・ マッキンナがそこに加わり、それまで、クリスピアンが暖めていた曲の中から一 曲プレイしてみたところ、「これこそが自分の探していたバンド」とのケミスト リーを感じ、全ての予定をキャンセルし、アルバムの制作に取りかかった。そこ には何者にも変えがたい化学反応みたいなものがあったのだ。たった2回のリ ハーサルを経て、レコーディングに入り、一ヶ月でアルバムを完成させた。「1 −2−3−4!」のタイトル通り、「イチ、二のサン、シ!」でプレイし始めた 勢いをそのままパッケージした、このアルバムは無駄をそぎ落とし、本来ロック ンロールが持っていた、エネルギーに満ちている。

 素晴らしく開放的で一度聴いたら口ずさみたくなってしまうような普遍的なメ ロディー。「多くの他者との一体感を促す」単純明快でストレートなこの楽曲群 にこそ、現在のクリスピアン・ミルズの方向性がはっきりと現れている。「感動 的な音楽は複雑だったり難解だったりする必要はまったくない」と語るクリスピ アンは解散からの2年の葛藤の中で、自分の本心から出た思いをそのまま正直に 音や言葉にすること、そしてそれを聴き手の心にダイレクトにアウトプットする ことに改めて気が付いたのだ。エレクトリック時代にシンプルながらダイレクト に響く楽曲を世に送り出したボブ・ディラン、3人編成というミニマムなフォー マットでとんでもないエネルギーに溢れた表現をしていたジミ・ヘンドリクス、 ロックバンドという少数の人間の集合体から生み出される生のパワーをステージ でこれでもかと表現し続けたザ・フー。クリスピアンが現在、自分の音楽的な柱 に据えているのは、それら偉大なる先達が発してきた「生きているロックンロー ル」なのだ。一本のアコースティック・ギターから紡ぎだされたこの曲のアコー スティックデモ(アルバムのボーナストラックとして収録されている)から伺え るのはウディ・ガスリーやボブ・ディラン。大きなアメリカ国旗と映画「ワン ス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のポスターが飾ってある部屋で書か れ、その一ヶ月後に9月11日の出来事が起こったという。失われたグッド・ オールド・デイズ、かつてそこにあったはずの魂、もうそこにはそんなものはな い。ジーヴァとは「何者にも破壊することのできない生きている魂」を意味する サンスクリット語である。彼らはこの歌を歌うことにより、その魂の存在をロッ クンロールに乗せて歌っているのである。クーラ・シェイカー時代には無かっ た、聴き手を選ばない開放的な表現。これこそがザ・ジーヴァズなのだ。