解説:野田努(ele-king)

 まずは曲のタイトルだけ追ってみよう。“願わくば決して水面から出てこないことを(Hope We Never Surface)”、“墨雲(Ink Cloud)”、“最後の炎の明かり(Light The Last Flare)”、“オレらはぐれ者たち ─かならずズタズタにしてやる ─(We Discordians/We Must Stick Apart)”、“この世の楽しみにサヨナラして(As Wordly Pleasures Wave Goodbye)”……。

 トゥ・ローン・ソーズメン(ふたりの孤独な剣士たち)の、いや、ひいてはアンディ・ウェザオールの美意識がどこにあるのか、こうしたタイトルは抽象的で曖昧だがしかし確実にある世界観をほのめかしている。それをどのように受けとめるかはもちろん聴き手の気持ちに関わっているとは言え、やはりこうしたウェザオールのセンスなくして、僕たちはここまで彼の音楽を延々とチェックし続けることはなかったかもしれないのだ。

Two Lone Swordsmen アンディ・ウェザオールというこの長いキャリアを持つDJには、すでに数々の“伝説”がある。アシッド・ハウス・エクスプローションの1988年、ロンドンではそのムーヴメントの中心的な場所にいたウェザオールは、DJの最中に客に殴られたDJとして、あるいはまた、アシッド・ハウス・パーティでいきなり1970年代のパンクのレコードをかけたDJとして、数々の“伝説”を残してきた。1970年代のパンク・ロックに触発され、反抗的な思春期を送り、ザ・クラッシュに感動して入れ墨を入れたことで中産階級の家から追い出されたウェザオール、それはパンクのロマンティシズムとアシッド・ハウスとを結ぶ貴重な糸のようでもあった。プライマル・スクリームのプロデューサーとして、そしてボカ・ジュニアーズ(ちなみにこの名前はアルゼンチンの有名なサッカー・チームから取った)のメンバーとしてその存在感を増していったウェザオールが最初に自らがリーダーシップを取ったプロジェクトはセイバーズ・オブ・パラダイスだった。