『TOOBOEワンマンツアー 2023 "美味しい血液"』オフィシャルライブレポート
TOOBOEが4月23日、東京・渋谷CLUB QUATTROにて『TOOBOEワンマンツアー 2023 "美味しい血液"』を開催した。
今回のライブは、自身初となる東名阪ツアーの千秋楽公演として、約700名を動員。ツアータイトルは、活動開始からこれまでに発表してきた楽曲が「僕だったり、皆さんの血肉となって、明日以降の日々を彩れたらいいな」という願いから掲げたものだという。おそらく、ここでの“美味しい”とは、“楽しい”を筆頭として、なにかとポジティブな意味に置き換えられる言葉なのだろう。
思えば、ボカロP・johnが新たに立ち上げたソロプロジェクトとして、シングル『心臓』でメジャーデビューを果たしたのが、まだ1年前の4月20日のこと。「心臓」にはじまり、TVアニメ『チェンソーマン』第4話エンディングテーマとして、〈血液の様な酸っぱい匂いがまた充満していたな〉と歌う「錠剤」から、さらにはMVに野田クリスタル(マヂカルラブリー)が出演したことで話題を誘った「チリソース」まで、この1年間の発表楽曲を辿っていくと、自然と“血液”のイメージが呼び起こされる。
この日のライブもまた、TOOBOEの語り口調でいえば、今まさにスターダムを駆け上がっている人間(=TOOBOE)の生命、あるいは血液がどれほど滾っているのかを見せつけようではないか、と言わんばかりのパフォーマンスだった。
そんな“血液”から連想してか。腕まくりをした淡いピンク色のシャツ、さらにはこれまで印象づいていた長髪も短くし、新たな装いで登場したTOOBOE。前日に名古屋公演を終えたばかりという“ハイ感”にも後押しされてか、やる気十分だと示すWガッツポーズでステージに上がると、まずは挨拶がわりの「毒」を披露。曲中には物言わずとも、“よければ歌えば?”といった温度感の表情で、フロアにマイクを向ける。
続く「爆弾」で、今度は言葉に出して「声、出していけば?」と煽ると、自身も犬の“遠吠え”のようにシャウトすれば、さすがに拍手が巻き起こらざるを得ない。そこから「心臓」「ダーウィン」を歌い終える頃には「初っ端から飛ばしたのでね」「見ての通り汗だくでございます」と語るくらいに、会場は熱気まみれの状態だった。
TOOBOEの歌声に酔いしれるべく、ここからの2曲はバンド隊が離れ、キーボードのみで歌唱。「水泡」で思い描かれる〈深く深い海の底〉、「濃霧」に包まれた〈湖畔の真ん中〉と、それぞれ楽曲の情景は異なるまでも、ある“共通点”が浮かび上がってきた。これがライブ後半、確信に変わる瞬間が訪れる。
ライブも中盤に突入し、いよいよ「山場」に。今年1月開催のリリース記念ライブでも「山場」に位置づけられていたあの楽曲をついに披露。「錠剤」である。会場の期待感を理解しつつも、本人は休憩を兼ねた長めのMCでその瞬間を焦らしてくるばかり。
とここで、イントロをはじめ、楽曲の要所に挟まれる“叫び声”を、会場の全員で一緒に再現したいという。本番前にお試しがてら、フロアの左右、さらには建築法によって鎮座する大きな柱の裏側にいるファンなど、フロアをブロック区切りにして幾度となく叫び声を上げさせるTOOBOE。一般的なアーティストではなかなか思いつかないだろう猟奇的な試みかつ、なかなかトリッキーな光景だったが、これが結果的にライブの熱量をまた一段階引き上げてくれた。
また、歌唱前には(もちろん冗談混じりだが)こんなMCも。「クソみたいな人生を弾き飛ばしていきましょうな。どうせクソみたいなんだから、君ら。わかってる、俺もそうだから。“今日、この日がよかったね”って弾き飛ばしていきましょう」。いわゆる“類友”理論で、会場に集まるファンもきっと自身と同じタイプの人間だと考えて、TOOBOEはそう言ったのかもしれない。とはいえ身も蓋もない。が、身も蓋もないことの蓋をガンガン開けていくのがTOOBOEスタイル。たとえ蓋の向こうに臭いものが待っていたとしても、何も考えずにその瞬間を生きるのが彼の音楽である。
実際、この楽曲にある〈愛に縋って堕ちていく〉ような、どうしようもなさを的確に表すMCだった。人間誰しも感じる“くたばっている感”を上手く芸術にする上で、TOOBOE以上のアーティストを知っている人がいれば教えてほしい。「歌えるか?」とマイクを向けて、〈もう一度考えておくれ 強くなりたいと思え 支配を取っ払って自由になろうぜ〉の歌詞をフロア全体で熱唱したシーンはやけに清々しく、この日のハイライトに代え難い。
9曲目「敗北」を歌い終えてもなお「まだまだ熱い曲、いっぱい残っております」と、ラストスパートに向けて期待感を膨らませる。しかも、TOOBOE曰く「ファンダムを拡大」すべく、ここからの2曲は特別に撮影OKだったほか、披露楽曲はなんと東名阪での日替わり。大阪の「Rabbit」、名古屋の「春嵐」ときて、東京は「ヒガン」。さらにはこの日の翌日の4月24日にリリースされた新曲「浪漫」も演奏するなど、サプライズの連続だった。

さて、新曲「浪漫」の〈遥か遠くの未来に 幸せ望んでもいいですか〉というサビに象徴されるように、TOOBOEが抱く希望や、誰かに抱く愛情は基本的に、“〜できればいい”や“〜してもいいですか”と、自身の想いを他者に委ね、与えられた回答を受け入れるものが多いと改めて感じられた。前述の「水泡」や「濃霧」で浮かび上がってきた“共通点”というのも、これである。
ライブの本筋から少し話題は外れるのだが、スマートフォンやSNSの普及により、いわゆる“他山の石”ではないが、どこの誰かも知らない他人の失敗が拡散され、自身のアクセス可能な場所まで巡ってくることで、同じ鉄を踏まないように思慮深くなったのが、TOOBOEやそのファンの世代の特徴といえる。よく言えば“人生2周目”、悪く言えばたとえ杞憂であったとしても、思考がぐるぐると止まらずにいる状態。そうした難しく考えてしまいがちな時代性を、“浪漫”的に解釈し、音楽として発信するのが、TOOBOEの表現する世界観なのかもしれない。
そのほか、同じくサビの歌詞で〈誰にも理解 出来ない夢を見せておくれ〉の〈おくれ〉など、彼の作風であるレトロな言い回し。音楽理論を超えて、感覚的な部分に裏打ちされたメロディセンスなどを総じて、TOOBOEの音楽はこの時代のものでありながら、どこか懐かしさも感じさせる、“令和浪漫ポップ”と謳ってよいのではないだろうか。そんなことを深くまで考えさせられた、新曲披露の場であった。
本編最後の楽曲は「千秋楽」。ライブ全編を通して、オフの少ない毎日を憂い、ステージを早く終えて「帰らせろ」としきりに文句を垂れていたが、ファンサイドはそれも愛らしい照れ隠しだと受け取っていることだろう。なぜなら「千秋楽」を歌うTOOBOEは、誰よりもステージから帰りたくなさそうにまっすぐだったからだ(本人はこのレポートを読んで「いや、本当に帰りたいんだよ」とでも言ってきそうだが)。
そういえば、この楽曲には〈いつか青い空の下 笑い合おうぜ〉という歌詞が登場する。ここでふと頭に浮かんだのが、TOOBOEの“言えば、出れる”を体現するスタンス。2022年末開催の『COUNTDOWN JAPAN』から出演オファーがなかったことで、自身の特番生配信にて4時間にわたってラブコール。その結果、来たる5月に開催予定の『JAPAN JAM 2023』への出演を控えることとなった。この日のライブは、東名阪ツアーの“千秋楽”であると同時に、さらなる大きなステージへの“序章”となる決起集会の役割も踏まえていたのだろう。
さらに9月1日には、東京・渋谷WWW Xにて、秋山黄色を迎えた対バンライブ『TOOBOE "交遊録”』を開催することを発表したほか、アンコールを締めくくる「ヤング」歌唱前には「もっと大きな会場で出会えるように頑張りますから」と宣言した後、「武道館、な」と一言。TOOBOEが約束した、日本武道館への道。自分の内側を循環する血液が、滾って仕方がなかった90分間の熱狂的なステージ。我々と同じく、“美味しい血液”が体に流れるTOOBOEの野望は、続く。
文:一条晧太