ザ・ナインズ

 

 

ザ・ナインズは、1991年、カナダ、オンタリオ州にあるオークヴィルという街で、マルチ・ミュージシャンでシンガー・ソングライターのスティーヴ・エッガースを中心に結成されている。作品によってバンドの編成や構成メンバーが変わったり、作品自体がスティーヴのソロ・プロジェクトになったりするが、オリジナル・メンバーのアンドリュー・ウェッブ(G)、アーロン・ニールセン(Ds)の2人に加え、サム・タロ(G)、ポール・マカロック(B)、ビル・マジョロス(G)、ウォーレン・クリフ(Ds)といった数人のミュージシャンたちが入れ替わりで参加しているグループだ。

 

 ザ・ナインズは、1998年、カナダを代表するバンド、ベアネイキット・レディースが主催するレーベル、ペイジ・ミュージック(ディストリビュートはEMI)からリリースしたアルバム『Wonderworld Of Colourful』でデビューを果たした。ベアネイキット・レディースは88年に発表したアルバム『Stunt』がベストセラーとなるなど、グラミー賞に2度もノミネートされる実力派だ。このアルバムの制作時にフルに参加したのは、スティーヴ・エッガース(B・Key・Vo)のほか、アーロン・ニールセン、サム・タロの二人で、アンドリュー・ウェッブがエレクトリックとアコースティックのギターで13曲中5曲に参加している。

 

99年10月には、アメリカのティーンに人気だったドラマ・シリーズ「ドーソンズ・クリーク」(ケイティ・ホームズ、ミシェル・ウィリアムズ出演)でデビュー・アルバム『Wonderworld Of Colourful』収録の「Days And Days」が使用されて話題となり、同年の後半には、ユニバーサル・ミュージック・カナダから、4曲入りの「Four Song」EPを発売した。このEPは、カナダのカレッジ・チャートやアンダーグラウンドなポップ・シーンで人気となったが、スティーヴは“ザ・ナインズはこの時はまだ進化している最中で十分じゃなかった”と認めている。そのためか、同じ頃彼らは、同様のティーン向けドラマ「サンフランシスコの空の下(Party Of Five)」や「Joan Of Arcadia」などに音楽を提供しているほか、カナダのグローバル・テレヴィジョンのコメディ「The Jane Show」のテーマ・ソングも手がけていたが、ポップ・ミュージックのメイン・ストリームの流れに乗り切ることができなかった。

 

 しかし2001年には、セカンド・アルバムとなる『Properties Of Sound』をカナダを含む北米で発売。この作品は日本のみ収録のボーナス・トラック2曲が追加され、オリジナルとは別ヴァージョンのアルバム・カヴァーで18曲入りのアルバムとしてエアー・メイル・レコーディングスから2002年発売された。またスタジオ・ワークが中心だったザ・ナインズは、この頃からライヴ活動にも力を入れ始め、デビュー・アルバムのレーベル・オーナーでもあったベアネイキッド・レディースをはじめ、ロン・セクスミスやスーパー・トランプのロジャー・ホジソン、モトリー・クルーのヴィンス・ニールといったさまざまなアーティストのオープニング・アクトとしてステージに立つようになった。

 

そして2作目の『Properties Of Sound』から約5年後となる2006年には、サード・アルバム『Calling Distance Stations』を自身のレーベル、T.A.S. Gold Recordingからリリースする。このアルバムは、XTCのアンディ・パートリッジやジェイソン・フォークナー(スリー・オクロック/ジェリーフィッシュ/グレイズ/TVアイズ)がソングライティングやプロデュースで、ベアネイキッド・レディースやスローンなどの作品で知られるジョアン・カルヴァーリョがミックスで参加している。アルバムは極上のポップ作品として一部マニアの間では話題となり、ポール・マッカートニーやブライアン・ウィルソンを彷彿とさせる楽曲は、ゆっくりとだが確実にザ・ナインズの名を広めていった。

 

約1年後となる2007年にリリースされたのが『Gran Jukle’s Field』で、このアルバムは、前作に引き続きジェイソン・フォークナーが参加しているほか、新たにブルウの協力を得て制作されている。ブルウの名はポップ・フリークには馴染み深く、ビートルズと、そのビートルズを敬愛するジェフ・リンが率いるグループ、ELOに大きく影響を受けたアーティストとして知られ、2006年には、マイク・ヴァイオラや、アンディ・スターマー(ジェリーフィッシュ)の協力を得てL.E.O.なるグループ名で、ELOとビートルズへのオマージュたっぷりのアルバム『Alpacas Orgling』をリリースしている。

 

 ザ・ナインズは、デビューからこれまでデモやレア・トラックス集などを含めると13枚のアルバムと2枚のEPをリリースしているが、その中でも、『Calling Distance Station』から3曲が選ばれていることからも、ザ・ナインズにとって本作と並び重要な作品と言えるだろう。最後にザ・ナインズのディスコグラフィーを記しておこう。このアルバムを聴いて他のアルバムにも興味を持った人はぜひチェックしてほしい。どのアルバムからもジョン&ポールやブライアン・ウィルソンと通じる良質なポップ・センスを感じ取ってもらえるはずだ。

 

 

《The Nines Album Discography》

●Wonderworld Of Colourful(Page Music / 1998)

●Properties Of Sound(Nines Music / 2001)

●Calling Distance Stations(T.A.S. Gold Recording / 2006)

●Gran Jukle’s Field(T.A.S. Gold Recording / 2007)

●Poralities(demo and rare tracks)(Nines Music 1997 / 2011)

●The Nines(T.A.S. Gold Recording / 2013)

●Night Surfer And The Cassette Kid(Soundtrack)(T.A.S. Gold Recording / 2015)

●Alejandro’s Vistions(Music From The Motion Picture)(T.A.S. Gold Recording / 2016)

●Colour Radio(American Transistor)(T.A.S. Gold Recording / 2017)

●Shipwrecked(Eggers Songbook, Vol.1)(T.A.S. Gold Recording / 2019)

 

《Live, EP, Mini Album, etc……》

●Four Songs(EP()Universal /1999)

●Winter Snow & Icicles(Mini Album)(T.A.S. Gold Recording / 2007)

●Nine Lives(T.A.S. Gold Recording / 2014)

●Circles In The Snow(Tapes And Transcripts vol.1)(T.A.S. Gold Recording / 2015)

●Rare Cuts And Unreleased(T.A.S. Gold Recording / 2015