リッチ・ロビンソン最新インタビュー公開!
今週最新アルバム『ハイ・ウォーター・Ⅱ』を発売するザ・マグパイ・サルートのリッチ・ロビンソン最新インタビューが到着!
──今年1月の来日公演でも、あなたたちのようなロック・バンドを求めている人がまだたくさんいることが改めて実感できたのではないでしょうか?
リッチ:まあ、俺からすると、実際のところ、一番売れているレコードというのはいつの時代も同じで、今も変わらずザ・ローリング・ストーンズ、ピンク・フロイド、ザ・ビートルズ、ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』といったロックンロール・ミュージックなんだ。エアロスミスもそう。これらの偉大なバンドは今でも特定の人たちを魅了し続ける。一定の年齢層と言われるかもしれないけど、俺が知っている若い人たちだって、これらの名盤を愛してやまない。ディランだってそう。『セルフ・ポートレート』といった彼の昔の作品をみんな遡って聴いている。俺が子供の頃に聴いて心を掴まれたレコードが、今も愛され続けている。なぜかというと、今世に出回っている音楽のほとんどが不誠実だからだ。今時のポップ・ミュージックのほとんどが陳腐なものばかりで、レコードを売ることだけを目的に作られたものだ。人間ならではの喜怒哀楽、悩み、結びつきといった生きてく上での本物の感情に多くの若者は触れる機会がない。ネットに費やす時間が長すぎてね。コンピュータやSNSにばかり時間を費やしている。おかげで多くの人にとって全く深みのない世の中になってしまったよ。もちろん今でも素晴らしい音楽を作っている若手バンドもいる。でも大方のポップ・ミュージックに関していえばそうだ。先ほど挙げたストーンズやビートルズ、ディラン、ニール・ヤングの音楽や、ブラック・クロウズや俺が作る音楽というのは、昔から生身の人間の体験を歌にした。愛すること、失うこと、悲しみや驚嘆。そうした経験を通して世界を見てきたんだ。
──日本の後はまたアメリカ・ツアーを回っていましたが、特に印象に残っているライヴなど、ありますか?
リッチ:いいライヴなら、いくらでもあったよ。ガヴァメント・ミュールとのツアーでも、エイヴェット・ブラザースが俺たちのライヴに飛び入りしたり、ウォーレン(・ヘインズ/ガヴァメント・ミュール)も1曲一緒にプレイしたりした。彼らのホーン・プレーヤーがめちゃくちゃ良くて、一緒にWarのカヴァーに参加してくれた。あれも最高だったな。そんな調子で充実したツアーだったよ。
──あなたたちがデビューした時にはまだ、レコードの売り上げとツアーという2本柱があった。それが今や、以前あなたが話していたように「バンドを機能させるためにはツアーせざるを得ない」、レコードの売り上げには頼れない時代が来た。ミュージシャンとして暮らしていくのは、昔よりもさらに大変なのでは?
リッチ:それは間違いない。ミュージシャンにとっては厳しい時代だと思う。昔は、本があって、映画があって、そして音楽があったのに比べると、いろんなことがシフトした。ツアーをするにしてもお金がかかるし、かと言ってそれをサポートしてくれる人も会社も昔ほどはいない。業界全体で、バンドがツアーすることを支援しなくなってしまったのは、残念なことだよ。俺にもその原因はわからないけど、大きな世代間ギャップがあるんじゃないかな。自分が若かった頃にはなかったようなものが今はある。俺たちは想像力を駆使して娯楽を楽しんでいたけれど、今ではコンピュータがそれに取って代わった。おかげで、何かが欠けてしまっている。何が欠けたかといえば、それは人間的な経験だよ。人は、人間的な経験をもとに創作をするものなのに、そういう創作をするクリエイターが、サービス業になってしまった。ユーザーが欲するものしか提供しない。ユーザーがあっと驚くようなものや新しいものを与えようとしないで、ただただアイスクリームを与え続けている。お金がないから、レーベルの人間も保守的になり、作る音楽は薄められて……という残念なサイクルに入ってしまった。そもそもアーティストは“異なる”観点から物事を見て、それを表現するからこそ聴く人にも何か違うものを与えることができるんだ。そういうことができない今、どうでもいい音楽が溢れかえっている。ちょっとかっこいいから、お金儲けがしたいからという理由で音楽を作る人って、どうなんだろうね? そういう人には、必ず払わなければならない代償がくると思う。本来純粋であるべきもの=音楽が、濁ってしまっている。
──リスナーの姿勢も、昔とは違いますよね。ネットで配信されるフェスを観て、観た気になっている。でも、実際に行って見なければわからないことは山ほどある。
リッチ:会ったこともない知らない人と友達になって、自分のプライバシーをさらけ出すというコンセプトがもう、俺には理解不能なんだ。大勢の人が夢中になっているSNSは、結局自己プロモーションだよね。実際、多くの人は“そこにいること”を楽しまず、無我夢中で写真を撮ってアップしている。そこにいるからこそできる経験を逃しているってことが、まるでわかっていないよね。ライヴに行くということは、音楽を聴きに行くだけの行為ではない。自分とバンドだけがそこにいるんじゃない。他に何百人、何千人というお客さんがいるわけで、バンドがステージに登場した瞬間の空気感、そこには匂いだってあるし、隣の人に触れる触角だってある。ありとあらゆる感覚を駆使して、そこにいることを楽しめるはずなんだよ。“参加している”という感覚は、その場でしか味わえない。音楽が中心にあって、そういう感覚を周囲の人と共有しているということが特別なんだ。ライヴというのは、とても人間らしい経験なんだよ。歴史的に見ても、テレビではライヴ音楽を完璧に再現できたことはない。『デヴィッド・レターマン・ショー』にしても『サタデイ・ナイト・ライヴ』にしてもね。音楽が持つ純粋さを、画面を通して視聴者に伝えることはできないんだ。ネットのライヴ配信も同じだよ。今は、生活している間中、どこかで音楽が流れている。しかも質の良くない音楽が流れているから、自然と音楽に対する耳が閉じてしまって、音楽を敬う気持ちがなくなっているんじゃないかと思う。だから『アメリカン・アイドル』みたいな番組では、スタバでバイトしている人がある日突然スーパースターになる。みんな、スーパースターの登場だ!って言うけど、そうじゃない、普通の人だよ。ある瞬間だけもてはやされて終わるんだ。文化としての音楽が低俗化していると言わざるを得ないよ。
──では、そんな時代にあってマグパイ・サルートの音楽は、どんな役割を果たしたらいいと思いますか? どんな存在でありたいと思いますか?
リッチ:どういう意図で音楽をやっているか、俺たち自身がどういう風に生きたいか、ということがキーになると思うんだけど。俺は、いい人間でありたいし、世の中にポジティヴなものを与えたい。自分が音楽をやっている意図は、本当に純粋な気持ちからであって、それは出来上がった音楽から感じ取れると思う。自分の音楽は、誠実な本物だと思っているよ。自分なりの少し違った視点から世界を見て、それを聴く人に伝えたいと思うし、バンドのメンバーも同じ気持ちでいるはずだ。よりよく、そういうものを伝えていきたいし、向上もしていきたい。まだ音楽の全てを知っているわけではないから、もっともっと深く掘り下げて俺たちにしかできないことを見つけていきたい。そして、今のような世の中である必要は全然なくて、もっと人間的で人間臭い世の中があるんだよ、ということも伝えていけたらいいと思う。
──さて。『High WaterⅠ』に続いて、『Ⅱ』も完成しました。『Ⅰ』で作品全体のキー曲になったのは「High Water」だと話していましたが、『Ⅱ』においては、どの曲がそれにあたりますか?
リッチ:そうだなぁ。ちょっと考えさせて……。「A Mirror」は『I』と『II』を併せた中で、最初にレコーディングした曲だった。バンドで初めてスタジオに入った時に、最初に演奏した曲だ。俺にとってはそれが、まず最初に手応えを感じた瞬間だったよ。でも、「Gimme Something」と「Leave It All Behind」を録った時も、確かに新しい曲ではあるんだけど、もの凄くいいものになるという確信を得た。わかるかな。あの2曲はアルバムを別次元に持ち上げたんだ。
──本作『II』は、聴き手にどんな経験を与えてくれるのでしょうか。
「アメリカ中のRVパークを巡る旅って感じかな」
──RVパーク!!??
リッチ:Recreational Vehicle Park (キャンピングカーで行けるキャンプサイト的なパーク)だよ。言い換えるなら、アメリカ各地にあるSix Flags(有名な遊園地のチェーン)が、土地によってどう違うかを巡る旅っていうのかな(笑)。
──……(分かるような、分からないような)
リッチ:冗談だよ(笑)。突き詰めれば人間としての経験の数々さ。「Sooner Or Later」をとってもその歌詞に耳を傾ければ何か感じるはずさ。「Gimme Something」、「Leave It All Behind」だってそう。「Mother Storm」, 「Life Is A Landslide」, 「Lost Boy」にしても、アルバムの曲はどれも、悩みや、誰もが直面する普遍的な人間テーマを語っている。「今自分の目の前で何が起きているんだ?」、「この先自分はどこに向かうんだ?」、「これは自分にどう影響するんだ?」、「自分は自分のリアリティを変えられるか?」ということだよ。どれも人間臭く、思慮に富んだ内容だ。自己実現であり、多くの人が今必要としていることさ。シングルの「In Here」にしても、「本物とは何か」という問いを投げかけている。俺たちは自分たちの身を投げ出している。これが自分たちですって。そんないろいろな人間の側面にアルバムは導いてくれる。アルバムを象徴する一つのメッセージやコンセプトがあるわけじゃないけど、隠喩的な意味で“High Water”そのものだよ。“水”にはいろいろな側面がある。人の命を奪うこともできるし、食材を育て、地球を豊かにすることもできる。破壊することもできるし、浄化してもくれる。洪水で浸水したら家がダメになる。“水”が暗示するものは他にもたくさんある。それがなんとなくこのアルバムで言わんとしていることなんじゃないかな。
(インタビュー/文:赤尾美香)