リッチ・ロビンソン ロング・インタビュー全文公開!
ザ・マグパイ・サルートのデビュー・アルバム『ハイ・ウォーター・ワン』のリリースを記念して、リッチ・ロビンソンのロング・インタビューを全文公開!
●あなたの中で、新しいバンドへの意欲が芽生え始めたのはいつ頃で、特別なきっかけはあったのでしょうか? またマーク・フォード(g)とスヴェン・パイピーン(b)が加わった経緯を教えてください。
ジョン(・ホッグ/vo)はまだその時いなかったんだ。俺は自分の作品『フラックス』のツアーをしていて、ウッドストックでライヴをやるチャンスが訪れた。その時、何か違うことをしたいなと思ってね。ツアーや演奏をすればするほど音楽的に繋がりがある人と演奏できることがどれだけ特別か感謝するようになっていて、そのつながりがマークとエド(・ハーシュ/key/16年11月死去)との間には存在していた。スヴェンとももちろんあった。
ブラック・クロウズ時代は、エド、マーク、スヴェンが提供してくれることはいつも素晴らしかった。あとソロ作品を全部一緒に作ったドラマーのジョー(・マギストロ)ともそのようなつながりがあったんだ。だからショウをやる時に何か違うことをしたくて、まずマークに連絡をして一緒に演奏しないか聞いて見た。内容がまだ決まっていない中でもマークは「行くよ、何をするんであっても行きたい!」と言ってくれた。それは凄く嬉しかったね。マークが来ることが決まった後にエドに連絡したら、彼も来ると。ただ週末に演奏する、それだけのはずだった。俺がソロ活動する時のバンドと一緒に演奏してもらうために招待して、ただの楽しい週末を予定していたんだ。
金曜、土曜、日曜で3つのショウを行なうから、「この20曲を練習してきて。そこからどうなるか様子を見よう」と伝えた。彼らが来てから楽曲に色々と追加をしていったんだけど、本当に楽しかった。何か特別なものを全員が感じていたんだ。そしてショウを行ない、その後俺は再び自分のツアーをやり遂げた。ツアーの途中でテキサスに行ってね、その時、「もし、あれをバンドにしたらどうだろう?」と思い始めたんだ。このフレキシブルな状況が好きだった。俺のソロ活動におけるバンドのメンバーがいたり、ブラック・クロウズのメンバーがいたり、俺との関係の歴史が長い人がいて浅い人もいて。それがいいなと思ったんだよ。
「なんていう名前にしよう? どの曲を演奏しよう? とりあえず、ライヴを予定してチケットを売ってみるのはどうか?」という感じで始まったんだ。段々発展していくうちに、「ジョンを呼ぼう」ということになってね。ジョンとはHookah Brown(02年にリッチが立ち上げたバンド)でも一緒にやっていて、バンドはうまくいかなかったけど、彼自身は素晴らしい。だから「ジョンを呼んで歌ってもらおう」ということになりライヴを告知したら、20分で最初のライヴのチケットが完売しちゃった。「ここには可能性がある」と感じたね。それで5人のバンド・フォーマットに削って、マーク、エド、バック・ヴォーカリスト、そしてピアニストやヴィブラフォニストも加わった。
みんなでツアーを行なった後、「カヴァーとブラック・クロウズの曲を演奏していたらアルバムが出来たじゃないか。それをリリースして、またツアーをしよう」ということになった(筆者註:17年6月にライヴ・アルバム『The Magpie Salute』を発表している)。今まで一緒にやりたいことをやり遂げたお祝いのようなものなんだ。そうやってすべてが始まったよ。再びツアーが始まった時、「新譜をレコーディングしよう」という話になった。「曲作りが好きだから、曲を作ろう」って。俺たちは新しくて、古い。色々な要素が俺たちを興奮させてくれる。このバンドのどこが好きかって。すべてが本当に有機的で自然なんだよ。ワン・ステップ踏んでまた次のステップを踏む。
●マークとは、彼が06年にブラック・クロウズを離れた後も連絡を取り続けていたのですか?
あまり連絡は取っていなかったんだ。2012年に洪水(ハリケーン・サンディ)があって、ブラック・クロウズの倉庫がやられギターが全滅。マークのギターは高いところにおいてあったから大丈夫で、その後、倉庫の中身を全部LAに動かした。友達経由で彼に、ギターをLAに動かしたことを伝えたよ。その後、俺の父が亡くなった時にマークが連絡をくれた。それで、今回の話で誘ったら来てくれたんだ。
●新しくやるのはどんなバンドで、どんなサウンド、といったコンセプトはいつ頃から固まり始めたのですか?
そもそも、バンドを作ろうと思って始めたわけではないからね。ただ自然な流れに身を任せていたから、コンセプトもなければ、特に計画もしなかった。俺にとってバンドの本当のスタートは『ハイ・ウォーター』を作り始めたとき。その時に人数を減らして、シンプルなバンド編成にしようと決めた。これがコアとなるバンドで、これがやりたいこと。やりたい曲を演奏して、書きたい曲を書く。去年は楽しくて最高で、今はそれがバンドとなり、これからはここにフォーカスをあてたいよ。
●本作『ハイ・ウォーター・ワン』のレコーディングをしたのはいつで、その時にはもうある程度の曲は揃っていたのでしょうか? マークとジョンが手がけた曲などは、レコーディング中に書かれたものなのですか?
実は2枚分、28曲を一気にレコーディングしたんだ。去年ツアー中に書き始めて、大量の曲ができていた。40曲くらいかな。マークとジョンも何曲かあったよ。だから1月に3人でナッシュヴィルに集合して全員の持っている曲を出し合って、何がかっこいい、何が上手く行くかという話をした。そこで完璧に準備をしたわけではないけど、そこからスタジオに入って、最終的に何が上手く行く、いかないって言うのを判断してったよ。レコーディングはそんな感じの始まり方だった。
●収録12曲の中で、このアルバムの方向性を決定づけた曲、または全体像を象徴している曲というのがあったら、教えてください。
出来上がった後に見返すと、「ハイ・ウォーター」がこの作品の深みに触れていて、旅に連れってくれる曲だと思う。興味深い要素が詰まっていて、アルバム全体の流れを作っているね。
●すでに来年『ハイ・ウォーター・ツー』のリリースも決まっているそうですね。
まず、みんなに最初の作品を吸収してもらいたくて、『ワン』と『ツー』、別々のリリースにした。ゆっくり楽しんでもらいたくて。一度に28曲は情報量が多いからね。消化するのが大変だろ。だからゆっくり出していこうと思ったんだ。
●マグパイ・サルートの音楽には、ハード・ドライヴィングなロックンロールの要素もあれば、様々なルーツ・ミュージックを昇華したアメリカーナ的な要素もあり。さらに言えば、ディープなソウル風味もあり。生々しく、有機的です。ポップ・ミュージック隆盛の時代にあって、こういう音を鳴らす意味があるとしたら、それはどんなことでしょうか?
目的はいつもピュアなもので、ただ、“音楽を作る”ということだけだよ。本当にそれだけなんだ。俺は好きな曲を書いているだけ。それ以上は考えない。今周りで何が起きているとか、何が合うとか、合わないとか考えない。ただ自分にとっていい音だな、と思える楽曲を書く。その結果、みんなが納得してくれて、選んだ曲に対して喜んでくれて、これらの楽曲を聴いてつながりを感じてくれたら嬉しい。聴くことによってみんなの1日が少しでも良くなったり、辛い時を乗り越える助けになったりすることを願っているよ。俺たちの音楽が“本当の音楽”というものが成し得ることをしてくれるといいな。
●あなたにとってマーク・フォードはどんなギタリストですか? 彼のギタリストとしての魅力はどこにあると思いますか? あなた自身のギターとの相性はどのように見ていますか?
これは、説明できないことのひとつだね。ただ、相性がいいとしか言えない。なんだか具体的な理由は未だに説明できないんだけど、1日目から一緒にうまくやれたんだ。今回はさらに関係性も深くなったしね。クロウズ時代は、クリスの独自のプランがあったからあまりマークと時間を過ごせなかったりもした。だからウッドストックで初めてじっくり時間を過ごせたんだよ。人を個人的に知ることができるのは興味深いよね!
●あなたがジョンのヴォーカルに求めたのは、どんなことでしたか?
彼はすごく声域が広くて、技術的にもすごい歌手だ。だけど、弱さも感じられる声で、それがすごく魅力的なんだよ。俺はずっと彼のファンだったよ。ロッド・スチュワートも歌えるし、歌い込む曲もいける。そしてシンプルなポップ・ソングを歌える要素も持っているんだ。
●アルバム・タイトルの『ハイ・ウォーター』が示すものは、何ですか?
水というものは、清めてくれたり、生命をくれたりするけど、破壊もする。明るくて暗いのが水だから、水をシンボルとして曲名に付けたんだ。そもそもクロウ(カラス)ではなくマグパイ(カササギ)と付けたのも、それが理由(筆者註:カササギの羽毛は黒と白)、コンセプトと合っていたから、このタイトルにしたんだ。
●エドが生きていたら、マグパイのメンバーになっていたのでしょうか?
もちろん、「イエス」。
●若い頃と今では「バンドとはこうあるべきだ」と思うことに、違いや変化はありますか? 例えばですが、お互い近い場所に住んでいた方がいいとか。
そうだね、クロウズも最後の方はみんなバラバラにLA、ニューヨーク、アトランタ、その間など色々なところに住んでいたけどそんなことは物理的なことだから、俺にとったらもう今は気にならないこと。俺が気をつけていることは、気づいたら嫌なやつにならないように、そういう罠にはまらないこと。特に若いバンドは活動を始めるとドラッグ、そして色々な嘘やドラマに巻き込まれやすいから、俺らはもうそういう罠にはまらないようにしたいね。バンド・メンバーがお互いを応援し合って、文句を言ったり、全てを個人的な攻撃として受け止めたりしないようにしたいね。
●ブラック・クロウズでデビューしてから四半世紀以上、バンドやソロ、フォーマットは変わりましたが、あなたをずっと音楽に向かわせていたモチベーションの源は、どこにあるのでしょうか? また、この先も音楽と共に生きて行く上で、失くしてはいけないものがあるとしたら、それは何でしょう?
音楽は自分の一部、自分自身だ。何かを作ることというのは自分にとって大事で、だからこれからも続けて行くよ。音楽と一緒に存在しなくてはならないのは“クリエイティブであること”。
●ライヴでは、あなたやマークのソロ曲やブラック・クロウズのレパートリーに加え、他のアーティストの曲も演奏していますが、現在レパートリーは何曲くらいあるのですか?
220曲くらいかな。それくらいあると色々(セットリストを)考えたり、変えたりできるからね。
●あなたは昔から、新しい音楽もたくさん聴いていましたが、それは今でも変わりませんか? 最近のお気に入りがあったら教えてください。
聴いているよ。すごくかっこいいバンドで、Durand Jones & The Indicationsというバンドがいるんだ。彼らは完璧に本物のソウル・ミュージックだよ。LAベースのWhite Fenceはもっとサイケデリックな感じだけど、いいよ。Fruit Batsもいいよ。
●かつて、ブラック・クロウズで演奏しクリスが歌っていた曲を、マグパイで演奏していて、新たな発見をしたり、自分自身のプレイが変化していたり、といったことに驚かされることはありますか? それとも、あえて、ブラック・クロウズとは違った形で演奏しようという気持ちがあったりもしますか?
確実に変化は全体的に感じるよ。ジョンとクリスの歌い方は全然違うし。でも、曲自体に敬意を払っているのがわかる。ジョーもスティーヴ(・ゴーマン/ブラック・クロウズのドラマー)とは演奏が違うし、でもそれでいいんだと思う。で、俺の書き方、演奏の仕方には変化がないから、そこが変わらない軸になっていて、それがすごくいいと思う。俺の個人的な意見だけど、いい組み合わせなんじゃないかな。
●お子さんたちも大きくなったと思いますが、彼らから音楽情報を得ることもありますか? 彼らは音楽の道には進んでいないのですか?
上の息子たちは音楽をやっているよ。ギターを弾くんだけど、すごく上手。そして彼らから時々最近の音楽のことを学ぶよ。Grizzly Bearや、White Fenceに似たサイケデリックなサンフランシスコのバンド….うーん、なんだっけ、名前は忘れたけど! でもたまに電話がかかってきて、「これ聴いてみてよ!」とか言われるんだ。でも、彼らには音楽を仕事にはして欲しくないな。彼らがハッピーになれることだったらなんでも俺は応援するけど、でも音楽業界はなかなか厳しい場所だからね!
●最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
何事も目的だと思うんだ。音楽を書く時、作る時、何を目的に書いているのか。それが音楽でなくても何をする時でも。もし目的が純粋で正しいものだったらきっと良いものが生まれる。それが今の俺たちであり、俺たちが集中していることなんだよ。近いうち日本に行けるよう計画しているよ!