ジ・インターネット『エゴ・デス』国内盤発売記念して紅一点Vo.のシド・ザ・キッドのインタビュー大公開!
輸入盤でのヒットをうけて遂に本日発売を迎えたジ・インターネット『エゴ・デス』国内盤。ニューヨーク・タイムズ紙から「彼らの最高傑作」と絶賛されるなど、本作は発売直後から各方面で大きな称賛を浴びて来ており、早くも今年No.1ソウル・R&Bアルバムの呼び声が高い。国内盤収録のボーナス・トラック『Famous/フェイマス』と『Missing You/ミッシング・ユー』は、二曲とも出来たばかりの未発表の新曲となっており、10月30日に本国で発売されるLPレコードを除いて、CDに収録されるのはこの日本盤のみだけであり、世界に先駆けて日本で最初に公開されるという非常にスペシャルなものになっている。そこで国内盤発売を記念して、ジ・インターネットのヴォーカル、シド・ザ・キッドの貴重なオフィシャル・インタビューを大公開。来日への意気込みを含めて、非常に興味深い内容となっているので是非チェックだ。
―まずは満を持しての日本正式デビューおめでとうございます。
シド「あはは、ありがとう」
―日本正式デビュー作であり、そしてあなた方にとって3枚目となる『Ego Death』について詳しく訊かせて下さい。まずはこの「Ego Death」というタイトルの由来を教えて下さい。
シド「タイトルは、そうね…。(自分達が)謙虚になることを表しているわ。ここまで来る間に私達のほとんどが、それぞれ個人的にも抱えてきた問題や困難を乗り越えるためには自分自身を見つめ直して謙虚にならないといけないという経験をしてきたから。そこから今回のタイトルが生まれた感じね。実際にタイトルを付けたのはアルバムを作り終えた後だったの。自分達の<今>を反映させるものにしたかった。6人全員のね。マットがこのタイトルを思いついたんだけど、私は最初反対したの。でも1週間後ぐらいにやっぱりこのタイトルがピッタリかも!って思って、最終的にこのタイトルにしたってわけ」
―「<エゴを殺して、謙虚になる>という気持ちであるということはそのタイトル命名の由来からわかりましたが、あなた方のこれまでの音楽キャリアを通して、あなたの「Ego」は変化していきましたか?また変化してきたならどのように変わりましたか?
シド「私の場合、あまり期待を持たないようになったわね。そして色んな批判/非難に対して感情的にならないようになった。音楽業界ってとても<面白い>のよね。アートに対する情熱をビジネスにしてるじゃない?でもアートは示唆的で、それに値段をつけるのは本当に難しいこと。必ずしもアーティスト個人の考えなどが尊重されるわけじゃなく、これはビジネスで、お金を稼ぐことが大事なのだということにやっとアルバム数枚出した後で私たちは気づいたの。レーベルが絶対にノーと言うような新しいことをやってみて、それが大成功したらレーベルには愛されるかもしれない。もしくは、レーベルの言う通りにやってみたらうまくいくかもしれないし、いかないかもしれない。そういう世界じゃない?そんな屈辱的な経験を重ねてきたことで、この世界では全てがビジネス上のことで、個人的、感情的に受け止めてはいけないし、誰にも期待してはいけないってことが痛いほどわかったわ」
―正直、あなたがそんな風に感じていることは不思議に感じました。外側から見ていると、Odd Futureはもっとアートを尊重していて、そういった政治的な部分がないレーベル、クルーなのではないのかなと思っていましたので。
シド「そうね…。基本的にはOdd Futureは他とは違うわよ。ただ過大評価され過ぎてた感じはあるわね。私達のショーは全て即ソールドアウト。ショーを立て続けにやって、要求がどんどん高くなっていった。Odd Futureということで過大評価され過ぎている前評判にも助けられつつ、私は何もない状態からショーを組み立てていった。だから、とても不思議だったわ。Odd Futureという看板で盛り上がってたことは、私が初めて注目されるキッカケでもあったけど、同時に、私が創り上げたものそのものはあまり注目されなかったことは、そうね…。ほろ苦い経験だったわ。今、私達がここまでやってこれて誇りに思ってるし、たくさんの人達が私達のことをちゃんと見て、私達がどう成長してきたかわかってくれてるのはとってもクールだわ」
―前二作のアルバムカバーは抽象的なイラストでしたが、今回はそれとは違う趣のカバー写真ですよね。今作において初めてバンド・メンバーの写真をカバーに選らんだ意図はありますか?
シド「マットがそうしようってアイディアを出して来たの。みんなに私達の顔を知ってもらう、というのが目的ね。あなたの言っていたように、今までは自分達の顔を出してこなかった。それが多少なりとも影響して、私達は足踏みしていた気もするの。だから単純に顔を知ってもらいたいってのが理由ね。今回のアルバムで私達がどんな顔をしているか、私達は黒人で、私達はとても若くて、こういう私達がこういう音楽をやっているのってことを知ってもらいたいなぁと思ったのよ。体を鍛えているマッチョなタイプじゃないってね(笑)」
―前作「Feel Good」もバンド・サウンドに重きを置いた仕上がりになっていましたが、今作はさらにバンドとしての作品作りに注力しましたか?今回の作品でサウンド的に目指したものは?
シド「今回、私個人的にはいつも以上にハードなドラムを聞かせたかったの。自分のヒップホップへの愛を表現したかったから、パワフルなドラムでやるべきだと判断したの。他のバンド・メンバーのサウンドは自然に生まれてきたわ。スタジオでそれぞれがそれぞれとコラボレーションすることで生まれてきた音。新しいメンバーであるギターのスティーヴとキーボードのジャミールとの相性も抜群だったわ。」
―前二作のアルバム「Purple Naked Ladies」「Feel Good」と「Ego Death」に明確な違いがあるなら、それは何でしょうか?
シド「より強い自信。そしてよりハード」
―ハードというのはサウンド的だけでしょうか?それともリリック面も?
シド「そうね、サウンドが。リリックもそうね。だから両方ね」
―本作を制作するにあたって一番のインスピレーション源となったものは何ですか?
シド「これというものはないわね。前作を作り終えてから私が個人的に経験してきたこと全てからインスピレーションを受けたものの集積という感じ。ジェームス・フォーントルロイやジム・ライトと仕事したこと、ブライアン・ケネディとの仕事で彼がトラックをプロデュースする様子を間近でみたり、コラボレーションや人間として本当の自分を見つけたり、あらゆる感情を吐き出したり、忘れたり…。全てのことね」
―「あらゆる感情を吐き出したり」という点は、歌詞にも反映されていると思うのですが、“Just Sayin”など今作では特に恋愛パートナーに対するリアルな感情の機微(ドロドロしたマイナスの感情も含めて)が表現されているように思いました。やはりこうしたリリックは実体験に基づくものですか?
シド「そうね…。今作は私が初めてシングル(恋人のいない状態)で制作したアルバムなの。たぶんそれって大きく影響していると思うのよ。特にそれぞれの曲のトピックにね。ラヴソングはより少なく、人生の現実みたいな曲が多くなった」
―“Gabby”でのジャネル・モネイとのケミストリーは最高でした。彼女とはどういった経緯でコラボレーションする運びになったのでしょうか?
シド「マットのお兄さんがジャネル・モネイと仕事してるのよ。それでマットも長年彼女のことを知っていて、今回一緒に何かやりたいと思ってたの。ちょうど、確か、グラミーの時だったと思うんだけど、彼女がLAに来たときにうちに来てくれて、彼女がラフのメロディーにハミングを始めて録音し始めたの。ちゃんとしたリリックを書く時間もなかったから、結局私が後で書いた歌詞を歌って入れたんだけど、彼女の声をそのまま残すことにしたのね。なんとなくサンプリングしてるみたいな感じになってクールかな、って」
―では、この曲のインスピレーション自体は、彼女が歌い始めたものから生まれて発展して”Gabby”になったと。
シド「そうね…。まぁ、インストは元々あったものだけど」
―この"Gabby“に実在のモデルは存在する?
シド「マットが昔付き合っていた人(笑)」
―“Go With It”ではヴィック・メンサを迎えています。彼とのコラボレーションはどうでしたか?
シド「ヴィックが昔「INNANETAPE」を出した時に出版社の人が私とマットに彼の音楽を聞かせてくれて、それ以来私達はずっと彼のファンだったの。その後でどこだか忘れちゃったけど、彼と会って、意気投合して、一緒に仕事しようという話になった。それから彼が私のハリウッドのスタジオに来てくれて、『Feel Good』の後、最初に作ったトラックがあったんだけど、新たなものが生まれるヴァイブを感じて、それであの曲を作ろうって。コーラスもビートも出来てたんだけど、最初のヴァースはラップがいいなってなんとなく思って、最初はタイラーにやってもらおうと思ってたんだけど、それだったらタイラーがプロデュースした曲でタイラーと一緒にやるのがいいと思って」
―タイラーといえば、今回初めて彼をゲストに迎えてますよね。3枚目のアルバムにして初めてというのがビックリですが。
シド「実はわざとそうしたの。彼の力なしで、ある程度のところまでは自分たちの力でやれるって証明したかったから」
―実はこの質問は後で訊こうと思っていたのですが、タイラーの名前が出たので続けてお訊かせ下さい。少し前、タイラーがOdd Futureの解散を示唆するような内容のツイートをしていましたが、その件に関して感じることはありますか?
シド「彼が言ったのは、確かコンサートのことを言っていたはずなのよね…。私達は以前のように常に一緒に行動しなくなった、ということだけを言いたかったと思うの。解散したわけでもないけど、昔みたいに家で毎日ハングアウトするような感じではなくなった。全く違うヴァイブだってことだけなのよね。それぞれがそれぞれやるべき、やりたいことをやってるわけじゃない?それに一緒にツアーはしなくなった、それだけなのよね、彼が言ったのは。もう一緒にツアーすることはなくなったけど、俺達は常にファミリーだ、ってことを彼は言ってたの」
―それぞれが有名になってしまったからこその代償という感じですね。
シド「というよりも、誰もリーダーになる必要がないんじゃないか、ってことなの。グループの中にリーダーが多すぎたから」
―では、またアルバムの話題に戻ります。“Penthouse Cloud”では、昨今のアメリカにおけるレイシズム問題を捉えていますが、これまでのThe Internetではあまり見られなかったトピックかと思います。こうした問題をリリックにしようと思ったきっかけはありますか?
シド「そうね…。twitterでそういう話題を語ってるのをよく見ていて、私はtwitterでそういうことを言うのが好きじゃないのね。結局、ああいうところで語られていることはありきたりなことだったりするじゃない?でも、マイケル・ブラウン事件の不起訴が決定した翌朝、目覚めがとっても悪かったのね。それで書いたのよ。そうね、確かに今までこういったトピックの歌は書いたことなかったし、こういうインスピレーションを大切にした曲を書くべきだと思ったのよ」
―今回のアルバムの全体的なテーマは、”Let Go (手放す)”ということになりますか?
シド「そうね。自分のエゴを手放して、自分の不安な心を手放して、自分の内に秘めていたものを手放して、自分が素直に<これだ!>と思えることをありのままやることね」
―The Internetとしてもぜひ日本に来日してほしく思っています。最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
「私達も早く日本に行きたいと思ってる。今年中に行けたら嬉しいな。アジア方面には行ったことないし、日本もまだ行ったことないから、ぜひ行きたい。皆に早く会えるのを楽しみにしてるわ!」
Interviewed by:渡辺 志保
Translated by: Kana Muramatsu