スモールプールズ

スモールプールズの物語は、そのほとんどが幸運な偶然の一致で占められている。ヴォーカルのSean ScanlonとギタリストのMichael Kamermanの出会いは2007年のSXSWで、当時二人はそれぞれ別のバンドに所属していた。音楽好きで気の合った二人は、鳴かず飛ばずのバンドでフラストレーションを抱えていた悩みも同じで、ついには力を合わせて一緒に東海岸を後にする決意を固めた。こうして2011年にLAへと出発した彼らだが(「持ち物を全部ヴァンに投げ込んで、ニュージャージから大陸を横断したんだよ」とKamerman)、どちらにもしっかりとした計画があったわけではなく、とにかく頑張って音楽を作って、その間食いつないでいければ、ぐらいな気持ちだけだった。「そのうち何か起きるべくして起きるだろう、って感じだった」とヴォーカルのSean Scanlonは思い起こす。そしてたまたま、その何かが起こったのだ。ベーシストで、ポートランドへ移住したばかりのJoe Intileとあちこちで顔を合わせることが続き(Joe Intile自身が同じようにあちこちで顔を合わせていたのがドラマーのBeau Kutherで、こちらはポートランドを追い出されて、仕事でLAにひょっこりやってきたばかりだった)、役者が揃ったバンドは、急成長する彼らのサウンドのテンプレートとなるだろう3曲をかき鳴らすために、アトランタでスタジオの時間を予約した。

 

「最初は、手当たり次第思いついたアイデアばかりだった」とKamermanは言う。「でも一度音を出してみて、みんなそのことに気づいたんだと思う。ぼくらが成長過程で耳にしていた音楽はどれも同じで、みんな親が好きだったビリー・ジョエルやポール・サイモン、スプリングスティーン、エルトン・ジョンなんかを聴いていた。だから目指すべきなのは、自分たちが良い音楽だと思ったものを書くよう、常に懸命に努力することだった。そして実際に出てきたのが、思いがけず住むことになったこの新世界から現れたといえるサウンドだった。LAで悪戦苦闘しながら1年が過ぎ、ようやく作ってきた曲が出口となったんだ」

 

 今大注目のLAのプロダクション・チーム、Captain Cutsとレコーディングした2013年のデビューEP『Smallpools』に収められた楽曲は、そんな彼らの真価を発揮したものだった。口火を切ったトラック“Dreaming”でバンドは国内の注目を集めるようになり(Jimmy Kimmel Liveにも出演)、最終的にこの曲は450万回以上の視聴を記録した。フル・アルバムの制作に取り掛かりたいと願いつつも、翌年は大部分を北アメリカ全土のツアーに費やし、ウォーク・ザ・ムーン、ネオン・トゥリーズ、グループラブ、MS MR、トゥエンティ・ワン・パイロッツ、トゥー・ドア・シネマ・クラブ(ロラパルーザとファイヤーフライ・フェスティバルへの出演はもとより、彼ら自身の年を締めくくるヘッドライン・ツアーもあった)といったバンドと演奏した。ツアーに費やしたそんな時間は、いろいろな意味で、バンドにとって貴重なレッスンだったことに気づいたという。

 

「アルバムに収める曲を書きながら、同時に多くのライヴ活動もしていた。それが音のダイナミックさに大きく影響したんだ」とSean。「最初は主にオープニング・アクトをつとめていたから、その立場をできるだけ利用しなきゃならなかった。そうやって他のバンドたちとツアーをしたのはラッキーだったよ。他のアーティストを観に来たオーディエンスの前に立って、自分たちを証明する機会を得る。それはぼくらにとって学校みたいな感じだった。どうやって自分の強みを操作してオーディエンスを味方につけるか、っていう特訓コースだね。それにぼくらの存在を見つけてもらって、徐々にファンベースを育ててゆく機会でもあった」

 

 デビュー・アルバム『Lovetap!』に収録された14曲は、この1年をライヴに費やしてきた成果を見せつけている。プロダクション・チームのCaptain Cutsと再びタッグを組み、ツアーの合間にレコーディングしたこの新作の基盤にあるのは、スモールプールズの初期の音楽から変わらない約束~一緒に歌いたくなるサビを持つスタジアム規模のポップ・アンセム~だ。“Dyin’ To Live”や“ American Love”といったトラックは、初期のスモールプールズのトラックで仄めかされていた、切迫したハイパー・メロディシズムといった音がゲートから飛び出している。4人のバンドメンバーそれぞれが成熟したアーティストであることを考えれば、スモールプールズの音楽が持つ純粋なポップ性は偶然の産物ではない。ぴっちりと密閉された楽曲の数々が、ちょうどいいタイミングで飛び出して舞い上がるのは、彼らのDNAに組み込まれているかのような素晴らしいインディーポップのおかげなのだ。『Lovetap!』の眼の前にある大きな躍進は、終わりなく続くツアー、多くの経験、そしてKamermanの言う「曲を書くために何時間も一緒にひとつの部屋に閉じ込められて、バンドでの自分たちの役割に気がついた」結果である。なによりもそれを証明しているのが、アンセミックで素晴らしくおおらかなファースト・シングル“Karaoke”だ。

 

「前はカラオケなんか大嫌いだった」とSeanは説明する。「でもマイクとLAへ引っ越してから、まだスモールプールズが結成される以前のことだけど、一緒に楽しむようになったんだ。よく歌っていたのはニュー・ラディカルズの“ You Get What You Give”。あの歌を歌っていると気持ちが楽になった。ぼくらは家賃を払うためにあくせく働いていたから、一緒に曲を作る時間を見つけるのも大変だった。そんなぼくらにとって、カラオケは一風変わったはけ口だったんだよ。好きな歌を歌いに行って、自分たちを奮起させることができる。最終的にぼくらだって自分たちの歌を作ることができたようにね。覚えているのは、遅くまで飲んだり歌ったりしたある日の翌日、車で仕事に向かいながら、「そうだ、おれたちだってやるんだ!」って気持ちになったことだ。それはつまり友だちと一緒に祝杯をあげて楽しくやるってこと、人生を肯定するってことさ」

 

 2015年はスモールプールズにとって重大な年になりそうだ。長いこと制作過程にあったデビュー作がついに世界に向けてリリースされ、バンドはおびただしい数のツアーだけでなく初のSXSWにも出演。そして何よりもメンバーみんなが幸せを感じているのは、何年も続いたこの苦難がやっと実を結びはじめたことなのだ。「ぼくらはみんな、成功しなかったいくつものプロジェクトに時間を割いてきたんだ」とドラマーのBeau Kuther。「もうそろそろ諦めた方がいいのかと思い始めていたとき、今まで取り組んできたことが突然日の目を見はじめた。これって人を好きになることに似ているよ。精一杯プッシュするのをやめたとたんに振り向いてもらえる、みたいな。まあそれが、このバンドの根本的な物語なんだ」