レベッカ・ファーガソン
UKの人気オーディション番組「X・ファクター」’10年シーズン7準優勝者。控えめで美しい彼女が、若干25歳でシングル・マザーとして2児をかかえながらオーディションに挑み夢を叶えていくという物語は一躍全英の心を掴む。

シングル・マザーの母のもと3人の兄弟と2人の姉妹とともに、決して裕福とは言えない家庭に育ち、厳しい母親の影響でクリスチャン・ミュージックしか聴くことを許されなかったレベッカは、それでも音楽の素晴らしさに魅了され、自然とシンガーになることを夢見るようになる。「3歳の時にはもう歌詞を書き始めて、将来はシンガーになるんだって決めていたの。母の友達がこっそりプレゼントしてくれたシェールとホイットニー・ヒューストンの2本のカセットテープ、これを繰り返し聴いていたのを覚えているわ」

彼女の家庭の経済力では十分な音楽教育を受けることができず、レベッカはわずか14歳で衣料品店でのバイトを始め、ヴォーカル・スクールに通い、パフォーミング・アート・スクールに進学。しかし、17歳にして妊娠・・・未婚の母になることを決意すると、19歳で2人目の子供を出産。ここからレベッカの運命が大きく変わることになる。
「“これで君の人生は台無しだ”って言われたわ。しばらくは私もそう考えたけど、でも子供がいるからといって夢を諦める必要はないんじゃないかって思うようになった。むしろ彼らの存在が、私の夢への挑戦を後押ししてくれたの」

レベッカが出場したのは「X・ファクター」シーズン7。多くの競合がひしめく中、レベッカはサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」やクリス・アイザック「ウィキッド・ゲーム」などを熱唱し、その繊細ながらもソウルフルな歌声で多くの視聴者の心を揺さぶり、見事準優勝を勝ち取った。レベッカは後に知ることになるのだが、彼女が最も尊敬するアーティストであるアデルが、レベッカに80回も投票したという興味深いエピソードもある。
「オーディションへの出場によって、私は変わることができたの。人間としても強くなったと思う。一度は諦めかけた長年の夢を、今やっと現実にすることができたわ」

番組終了後、すぐにサイモン・コーエル率いるサイコ・ミュージックと契約を交わすと、早速デビュー・アルバムへの制作を開始。“彼女自身の言葉を歌う”という方針のもと、エグ・ホワイト(アデル、ジェームス・モリスン、ダフィー)、フレイザー・T・スミス(シー・ロー・グリーン)、クラウド・ケリー(ブリトニー・スピアーズ、ホイットニー・ヒューストン、ジェシー・J)といった一流のプロデューサー陣が集められた。追求されたのは、決して最先端のハイブリッドな音ではない。それは共鳴を生むような生の感情が込められた本物のソウル ― アルバム制作は決して易しいものではなく、スタジオで泣く日々もあったという。「このアルバムには私のすべての感情が詰まっている。あまりにすべてを曝け出し過ぎて、感情が高ぶり涙が止まらなくなったりもしたの。でも、だからこそ聴いている人々とそういう感情を分かち合えたらいいなって思っている。このアルバムを聴いた誰かが、“あー、彼女もこんな経験をしたのか、私の気持ちを分ってくれてる”って思ってくれたら素晴らしいことだと思う」

妥協のない11ヶ月にも及ぶ制作作業からデビュー・アルバム『ヘヴン』は完成した。1stシングルとしてカットされたのは「ナッシングス・リアル・バット・ラヴ」。呆れるほど純粋で、しかし彼女の生き様を描き出した大切なメッセージ...“愛ほどリアルなものはない。お金も家も車も、愛を超えることはできない”
「昔よく“お金では決して人は幸せになれない”って言われたわ。でもそんなの嘘だって、空っぽの冷蔵庫の前で希望を失くした日もあったけれど、今はその言葉の意味がよくわかるの。彼らは正しかった。どんなにすべてを手に入れたって、愛がなければ何も意味がないのよ。すごく偽善的って思われるかもしれないけれど、真実よ」

まだまだシャイで、うつむきがちだが、彼女は今少しづつ自信を取り戻し、シンガーとしての道を歩き出した。しかし、その背中にはもう世界へと羽ばたく翼がキラキラと輝いている。