Nick Moon "CIRCUS LOVE” Pre-Shows - Live & Talk –
3月20日(火)&3月21日(水・祝) レポート
ソロ名義のデビュー・アルバム『CIRCUS LOVE』の発表を3週間後に控えたニック・ムーンが、東京・青山の月見ル君想フにて、“Pre-Shows”と銘打った世界初のソロ・ライヴを二夜にわたって開催。うち二日目の公演が行われた3月21日は、春分の日だというのに「英国にいるみたいだ」とニックを苦笑させるほどに寒い雨の一日となったが、会場は、新しい出発を切る彼の姿を目撃するべく集まったファンの静かな高揚感に包まれていた。
なにしろ『CIRCUS LOVE』は、ラップトップ上で、エレクトロニック・サウンド主体で形作った作品。それを独りでどう再現するのか?もちろん、単にプログラミングされた音に合わせて歌うわけではなかった。背景に巨大な月(ムーン)が投影されたステージ(彼のために誂えたようだが、会場の名に因んだ常設のセット)に現れたニックは、右手にループ・ステーション、左手にはキーボードを配置。まずは弾き語りの『SPACE 666』でウォームアップすると、2曲目『So Well』以降は左右の機材を駆使してテンションを上げていく。そう、まるでレコーディングの過程を辿るように、曲ごとにシンプルなビートを土台に、自分の声、キーボードの音、その他様々なノイズを取り込んで加工し、ループして、さらにヴォーカルを乗せて満艦飾の壮大なサウンドスケープを構築。KYTE時代のどちらかというと“静”のイメージに対し、圧倒的に“動”のショウを見せつける。
しかもKYTEの曲はプレイせずに潔く『CIRCUS LOVE』の収録曲でまとめ、計11曲中10曲を、勉強中の日本語のMCを交えて、アルバム音源とも大きく異なる解釈で披露。殊に『I Seem To Love』や『Cameron』は、クラブ空間にも通用するダンス・アンセムにスケールアップさせていた。それでいて、アルバムのフィナーレでもあるラストの『You& Me』では弾き語りに戻り、美しい円を描いてセットを完結させたニック。途中、機材トラブルで音が乱れる場面もあったものの、申し分ない第一歩を踏み出したと言って差し支えないだろう。
文―新谷洋子
◎3月20日TALKコーナー(ゲスト喜多建介&山田貴洋(ASIAN KUNG-FU GENERATION)レポート
約60分のパフォーマンスの後、MUSICA編集長の有泉智子氏を司会に迎えてのトーク・コーナーがスタート。KYTEのファースト・アルバムを聞いてファンになり、初来日公演に行って以来友人になったという喜多氏。その喜多氏との縁もあり、2013年のフジロックの際に出会ったという山田氏。一足先にアルバムを試聴したという二人が「ニックのメロディーメーカーとしての新たな魅力が発揮された作品のように感じましたね」(山田)「KYTEの頃はもっとアンビエントで、今回はエレクトロニック寄りなんだけれど、共通してびっくりするほどメロディーがいいんですよね」(喜多)と友人として惜しみない賛辞を送ったところでニックが登場。
まずは二人が、「今回アルバムがダンサブルになっていたこともあって、踊りたくなる感じがしたし、ライブ・アレンジも全部わかって楽しめた。一人なのに思ったよりもライブ感があって」(喜多氏)、「こんなにたっぷり聴けるとは思っていなくて。ニックのピアノの弾き語りが貴重だったな、って」(山田氏)と伝えると、ニックは「ドウモアリガトウ。エレクトロニック・ミュージックが面白いのは、ライブの度に違ったアプローチができることなんだ。それが醍醐味だよね」とやりとり。ニックが5年前にアジカンのスタジオに遊びに行った時に、今回のアルバム・デモを一緒に聞いたという話題も。フロアーからの質問の流れで普段は穏やかなニックが、“ことサッカーとなるととてもアグレッシブになる”という意外な一面も飛び出し、和やかにトークは進行。
“なぜかとても魅了されて”4月からしばらく日本滞在し音楽活動を行うというニックに、「今回のアルバムも東洋的な音やフレーズを感じた」(山田氏)「ニックさえ良ければぜひコラボも」(喜多氏)と応援。ついでサプライズで、6〜7月に開催されるアジカンツアーのオープニング・アクトを務めることがニック本人から語られ「とても光栄だし、ありがたく思っています。ヨロシクオネガイシマス」とコメントし会場が大いに沸く瞬間もあった。
最後ファンへのメッセージとして「毎回日本に来る度に暖かく迎えてくれて本当に感謝しています。東京にいたら他にも色々楽しいことがあるだろうに、僕のライブに来てくれて本当に嬉しいよ。アリガトウゴザイマス」と語りトークショーは終了。Thank you! を繰り返しながらステージを後にするニックの穏やかな人柄と、迎える二人の暖かな友情が印象に残るトークショーとなった。
文―中村まき
◎3月21日(水・祝)TALKコーナー(ゲスト ホリエアツシ(ストレイテナー))レポート
ニック・ムーンの“Pre-Shows”の第二夜、ライヴに続いては初日と同様にゲストとのトークが行なわれ、KYTEの大ファンで個人的な交流もある、ストレイテナーのホリエアツシ氏が登場。KYTEのライヴには初来日の時から通い、ent名義で彼らの曲をリミックスしたこともあるというエピソードをホリエ氏が披露したところで、着替えを終えたニックが加わり、トークがスタート。音楽について、日本について、ファッションについて、はたまたお酒について(ニックはビール好き)、多彩なトピックでオーディエンスを楽しませた。
そんな中でもやっぱり音楽の話となると、気心の知れたホリエ氏の意見はニックにとって興味深いようで、耳を傾けながらしきりに頷く。「今のやり方が君の声に合ってると思う」とのライヴの感想には、「独りで機材を制御するのは厄介だけど、怖いながらも楽しいね」と応じ、「アンビエントでディープだったKYTEと違って、リズムはダンスっぽくてメロディはポップで、僕の気分にもぴったり」というアルバム評には、「実際、カラフルでメロディックなポップをやりたくてね。ただアンビエント音楽は相変わらずよく聴くし、ライヴにはその要素も出てるんじゃないかな」と説明を補足。そして、共にバンドとソロ・プロジェクトを体験している両者はふたつの違いも論じ、「曲作りをしていて、バンド用なのかソロ用なのか分からなくなることってない?」とニックがホリエ氏に訊ねる場面も。
またニックはオーディエンスからの質問にも答え、日本に興味を持ったきっかけを問われると、次のように語った。「ツアーで来る度に新しい発見があったし、どの都市もユニークなんだ。英国はどこも似通って見えるんだけど。そして日本の人はみんな優しいよね」。このあとは一時帰国し、アルバム・リリースをもって改めて日本での活動を本格化させる彼。「桜を見逃しちゃうけど、しょっちゅう日本に戻って来れるからすごく楽しみだよ」とうれしそうな表情を見せ、ホリエ氏との再会を約束してトークを締め括った。
文―新谷洋子