石丸幹二デビュー30周年記念アルバム オフィシャル・インタビュー公開!
◎石丸幹二の歴史がここに
(インタビュー&文:宇田夏苗)
1990年、ミュージカル「オペラ座の怪人」(劇団四季)のラウル子爵役で鮮烈なデビューを果たした、石丸幹二。 以降、数々の舞台、テレビや映画など映像の分野で活躍し、現在は「題名のない音楽会」(テレビ朝日系)の司会も務めている。
2010年からはソロアーティストとして、アルバムリリース、コンサート活動を精力的に行ってきた。ディスコグラフィーを見ると、石丸が取り組んできた音楽の幅広さ、あくなき音楽への探究心に驚かされるばかりだ。
そんな石丸のデビュー30周年特別企画として、ベスト盤『The Best』と多彩なゲストとのデュエットを集めた『Duets』が2020年10月7日に同時発売。これまでにソニー・ミュージックからリリースしたソロ・アルバム、シングルから石丸自身が選曲、それぞれ新録音も1曲ずつ収録されている。 まさに石丸幹二の歴史がつまった、ふたつの“決定盤”のリリースを記念し、本人へのインタビューをもとに、収録曲を紹介していきたい。
◎今回のアルバムについてお聞かせください。
デビュー30周年を記念して、2枚のアルバムをお届けできることになりました。『The Best』『Duets』ともに、ライブ録音も含まれています。普通のレコーディングや舞台ではなかなか実現できない、フルオーケストラの皆さんとの共演です。『The Best』の初回生産限定盤は3曲のライブ映像を収めたDVD付。劇場の客席にいらっしゃるような気分でお楽しみいただければ幸いです。
◎『The Best』について
01 僕の願い(ノートルダムの鐘)
ディズニーの人気アニメーション映画の日本語吹き替えを、劇団四季のキャストが行い、私はカジモド役を担当しました。アニメに合わせて歌が歌えて芝居ができる。「こんなに楽しいことはない」と思って現場に入ったものの、実際に声を合わせてみたら、画面の唇の動きと合わない。これは大変な仕事だと気づきました。吹替えは単に声をあてる作業ではない、心の動きを声にすること。すると、自然とカジモドになっていて、30代初めの私にとって新たな発見でした。
02 愛せぬならば(美女と野獣)
私が演じたビーストのコスチュームはまるで防具のようで、それをまとって歌い、芝居をして、最後に変身して元の王子の姿に戻ります。そこではマジックの中で全部のコスチュームを剥がしていくことを、毎回違わずにやり遂げなくてはならず、今振り返っても過酷な作業でした。この楽曲はミュージカル化に際して新たに追加された曲。舞台をご覧になっていらっしゃらない方にも楽しんでいただきたいですね。
03 恋のさだめは(ラヴ・ チェンジズ・エヴリシング)(アスペクツ オブ ラブ-恋は劇薬-)
20代半ばから40代初めまで過ごした劇団四季時代、ほぼこの作品と共に歩みました。私が演じた主人公のアレックスは冒頭、この楽曲で「恋とはどういうものなのか」と歌うのですが、初演の時はまだ若かったせいか、歌のエッセンスを伝えきれていない自分に歯がゆい思いをした記憶があります。年を経るにつれ人間の心の豊かさを感じていき、経験を積み重ねると歌えるナンバーだと実感しました。
04 普通の人間(壁抜け男~恋するモンマルトル) featuring 島 健
ミシェル・ルグランは以前から尊敬する作曲家でしたが、“ジャズのルグラン”との印象が強かったんですね。まさかミュージカルで出逢えるとは。舞台上では3人のミュージシャンとセッションのように歌います。ルグランならではの魅力あふれるメロディラインがあり、ジャズのような即興演奏もあり、心地よさとスリルを味わいながら心情をのせていきました。レコーディングで島健さんとは一発録りで、本当にジャズ的即興のようなスリリングで親密なパフォーマンスになったと思います。
05 セイリング(ニュー・ブレイン)
劇団四季を退団した後の、ミュージカルとしては1作目。作曲家のウィリアム・フィン自身の半生を描いた作品でもあり、彼の人生を想像しながら向き合っていましたね。私が演じたゴードン役はLGBTQのキャラクターで、ロジャーという恋人がいます。劇中ではロジャーがメインに歌い、ゴードンがデュエットしていくところ、私がその両方を歌うという一人二役での録音になっています。
06 愛と死の輪舞(ロンド)(エリザベート)
黄泉の帝王トート役という人間ではないキャラクターを演じるにあたり、演出の小池修一郎氏が「他の人にはないトートを演じてみてはどうだろう。例えば爬虫類のような」とおっしゃったんです。自分の中に爬虫類のイメージがまったくなかったので、必死にヘビやトカゲを観察しましたね。この曲は、トートがエリザベートに出会って恋に落ちるナンバー。劇的に歌えたらという気持ちで臨んだ思い出があります。
07 名もなき星になる日まで~別れの曲(メロウ・ヴァージョン)
デビューアルバム「kanji ishimaru」に収録した、記念すべき初のオリジナル曲です。クラシカル・クロスオーバー=クラシックの名曲を新たにアレンジして日本語歌詞をつけて歌うとしたら、何がいいだろうと考え、この曲にたどり着きました。もともとピアノ曲なので思いのほかメロディの跳躍が激しく、歌唱は大変ですが、心に残りますよね。大切な人との別れを歌詞に著すことで、原曲のイメージを十分に膨らませられたのではないでしょうか。
08 こもれびの庭に featuring 小松亮太
フランスの国民的コメディアンで名歌手のアンリ・サルヴァドール。彼は一度引退したのち、80代でカムバックし、この大ヒット曲を世に送りました。私自身、舞台から離れていた時期に出会いました。人生が滲み出るような彼の歌唱に触れ、自分も歳を重ねた後にこういう歌い方をしたいと思いました。以来「アンリだったらどう歌うだろう」と想像しながら、さまざまな歌に挑戦しています。バンドネオンの小松亮太さんの哀愁を帯びた音色も心に迫りますね。
09 炎のなかへ(スカーレット・ピンパーネル)
10 あなたはそこに(スカーレット・ピンパーネル)
作曲家フランク・ワイルドホーンの楽曲は、大きなエネルギーを持って臨まないと歌いこなせない。「炎のなかへ」は、海に乗り出していく男たちの勇ましさを表わし、「あなたはそこに」は後半になるにつれて想いがじわじわと高まり、最後に爆発するというラブ・バラードです。パーシー・ブレイクニーを演じながらも、ミュージカル俳優として「なんとしてでも歌いこなすぞ」という気概を持って臨んでいました。
11 時が来た(ジキル&ハイド)
これもワイルドホーン作品。ブロードウェイ公演を観て以来、いつか演じてみたいと願ってきた作品ですが、いざ向き合ってみると、想像をはるかに超える体力と精神力と歌唱力が必要でした。特に代表曲である「時が来た」はオペラのアリアクラス。ワイルドホーンからのアドバイスもあり、肉食系にならねばと、相当な努力を重ねました。今では私のライフワークといえる作品です。
12 スマイル(モダン・タイムス)
チャップリンの自伝を学生時代に読んだことがきっかけで、その世界にのめり込みました。彼は素晴らしい俳優であり映画監督であり、作曲家。だからデビューアルバムでぜひとも彼の曲を入れたく、「スマイル」を選びました。もっともっとその音楽を皆さんに聞いていただきたく、今ではコンサートのたびに歌っています。
13 君は僕の歌~You are the Song(フリーク)
チャップリンの映画は、これまで舞台化されたことはなかったそうです。幸いなことに日本で「ライムライト」の上演権がおり、世界初演と銘打った公演で、私は老喜劇役者のカルヴェロを演じることに。劇中のクライマックスシーンで、チャップリンの未完の映画「フリーク」の主題歌になるはずだった本楽曲を歌いました。カルヴェロ役は、演じ手の年齢と共に熟していける役柄。チャンスがあればこれからも演じていきたいですね。
14 小さな空 featuring つのだたかし
つのだたかしさんとはシェイクスピア劇「十二夜」(11年)で知り合い、そこでリュートという楽器に出会いました。武満徹のソングスは、メロディー・ラインが優しく、リュートととても合うし、歌い手である私の心にも寄り添ってくれる。私たちの大事な持ち歌になりました。
15 ネバーランド(ファインディング・ネバーランド)
日本公演の準備を進めていましたが、残念ながら本国の事情により実現がかなわなかった作品。でも素敵な楽曲がたくさんあるんです。この曲は、私のソロ・アルバムのために上演に先立ち訳していただいたものです。歌詞の内容が、奇しくも、新型コロナの影響で誰しもが不安になっている2020年にこそ心に届くのではないかと思いました。
16 君の歌をもう一度(ラブ・ネバー・ダイ)
デビュー作「オペラ座の怪人」でラウル役を演じた私が、約30年後、その続編でファントム役を演じることになりました。この楽曲は幕開けのビッグナンバー、ファントムのいきなりの心情吐露です。観客のみならず恋敵のラウルにも届けんとばかりに歌っていました。
17 ラ・マンチャの男(われこそはドン・キホーテ)(ラ・マンチャの男) featuring 沖 仁
日本では松本白鸚丈が半世紀以上にわたって演じていらっしゃる「ラ・マンチャの男」。このタイトルソングはいろいろな方が歌われていて、日本のみなさんにもお馴染みですよね。沖仁さんのフラメンコ・ギターでよりスパニッシュな世界観が広がり、あたかも自分がラ・マンチャの男になった気持ちになりました。
18 サークル・オブ・ライフ(ライオンキング)
劇団四季在団中、「ライオンキング」に関わりたいと思っていましたが、私ができるキャラクターはなく……。4枚目のアルバムのレコーディングに際し、今だったらどのナンバーを歌いたいかと考えた時に、この曲が思い浮かびました。冒頭、サバンナの大地に太陽が昇っていくシーンで歌われる、未来へ向けてのナンバー。皆さんの元気を引き出せたらうれしいです。
19 マイ・ウェイ
初めてコンサートで歌った際、お客様が、特に男性の方たちが深い思いを持って頷いていたり、泣いていらっしゃるのを目にして、これは人間への応援歌なのかもしれないなと感じました。いろいろな解釈があると思いますが、私は、自身が選んだ人生を肯定し、受容する歌としてずっと歌い続けたいと思っています。オーケストラによる壮大なライブ録音をどうぞお楽しみください。
<ボーナストラック>
20 美の真実 (ラブ・ネバー・ダイ) ※新録音
「オペラ座の怪人」に出演していた私に、作曲のアンドリュー・ロイド=ウェバー氏は「ファントムはロックなんだ」とおっしゃいました。その続編の中でも、本楽曲は突出してロックなナンバー、ファントムの心のざわめきをまさに反映しています。一緒に声を合わせるグスタフ役は、19年の公演で共演したボーイ・ソプラノの熊谷俊樹君。
◎『Duets』について
01 オール・アイ・アスク・オブ・ユー(オペラ座の怪人) duet with 笹本玲奈
「オペラ座の怪人」でデビューした私は、退団までラウル役を演じ続けました。俳優としての原点であり、土台を築いてくれた役です。劇団を離れ、もうこの歌をうたうこともないだろうと思っていたら、歌手として活動を始めた私にふたたび道を拓いてくれました。笹本玲奈さんとは、井上ひさしさんの「日本人のへそ」で初共演。当時すでに多くのミュージカルで主演されていて、いつか一緒に歌えたらと願っていました。
02 ポイント・オブ・ノーリターン(オペラ座の怪人)duet with 昆 夏美
「オペラ座の怪人」で、ファントムとクリスティーヌが深い想いを胸に対峙し、挑み合うかのように歌うナンバー。劇中、一番好きな曲かもしれないですね。今の私が歌ったらどんな感じになるだろうか、と自分に対する興味もあり、パワフルかつ繊細な声の持ち主である昆夏美さんに、相手役をお願いしました。
03 メモリー(キャッツ) duet with 檀 れい
娼婦猫グリザベラとシラバブ(ジェミマ)のデュエット曲。レコーディングで私がグリザベラのパートを歌うならば、どなたにシラバブをお願いしたいかと考えた時、檀れいさん!とひらめきました。全く面識がなかったのにご快諾くださり、スタジオで初顔合わせ。じっさい、可憐なお声が役にぴったりでした。あえて女性の歌に挑戦した「メモリー」。私なりの歌への想いを感じ取っていただければ嬉しいです。
04 美女と野獣(美女と野獣) duet with 濱田めぐみ
濱田めぐみさんは劇団四季の後輩です。ビーストとベルとしての共演は、苦楽を共にした思い出深い経験となっています。劇中この楽曲は二人がダンスをしているシーンで流れるんです。歌っているのはポット夫人。いつか歌ってみたかったんですね。だから、レコーディングで、彼女とのデュエットで実現できてよかった。歌い方もお互いにチャレンジし、充実した時間でした。
05 ホール・ニュー・ワールド(アラジン) duet with 新妻聖子
新妻聖子さんとは、ミュージカル(演劇)で愛憎が入り混じった激しい男女関係を演じていたのですが、レコーディングで一緒に声を合わせるならば?と考えた時に思いついたのは、夢のようなファンタジックなデュエットだったんです。「アラジンとジャスミンになってみませんか?」と提案したら快く応じてくださいました。聖子さんの伸びやかな声は、この楽曲の世界観をさらにいっそう広げてくれ、とても楽しいレコーディングでした。
06 ソー・イン・ラヴ(キス・ミー・ケイト) duet with 一路真輝
ファーストアルバムをレコーディングするにあたり、デュエットのゲストにどなたをお迎えすればいいかまったく当てがなく……。その頃、一路真輝さんがエリザベートを演じられていて、燦然と輝く大スターの一路さんと声を合わせてみたいという思いが募りました。一路さんの艶やかな中声域の魅力が発揮された楽曲です。まるで舞台で共演しているかのような気持ちになったのを憶えています。
07 闇が広がる(エリザベート) duet with 井上芳雄
「エリザベート」という作品を代表する井上芳雄君と、「闇が広がる」を残せたのは光栄です。じつは同じ作品に関わっていながら共演がなかった(いや、他の作品でもまだ共演はないのですが)。このライブ録音では、まさに今、本公演でトート役を演じている最中、という彼にお願いしたルドルフ・パートの歌唱。どんなふうに空気が動くのか、非常に心が燃えました。
08 ただ そばにいる(モンテ・クリスト伯) duet with 花總まり
タカラジェンヌとしてトップを走ってこられた、花總まりさんと初めてコンビを組んだ記念すべき作品。フランク・ワイルドホーンの歌は、俳優に大変なパワーを求めてきます。この曲はしっとりした印象に聴こえますが、じっさいはお互いの声をぶつけ合うように進めていくハードなもの。メルセデス役の花總さんと力強く気持ちを通わせて歌いながら、エドモン・ダンテスの波乱万丈の人生を思い出していました。
09 まだ終わりじゃない(パレード) duet with 堀内敬子
10 無駄にした時間(パレード) duet with 堀内敬子
「パレード」(17年)では劇団四季の同期、堀内敬子さんと17年ぶりに共演が実りました。敬子さんのパワーは昔と変わらず健在で、しかも、作品に対する解釈はますます深まり、大いに影響を受けました。センセーショナルな結末も含めて胸が痛む内容ですが、舞台上では、妻役の敬子さんと「あ・うんの呼吸」で心を通わせることができ、柔らかな気持ちになったのを憶えています。夫婦の心情がリアルに表現された個性ある2曲を選びました。(「パレード」は2021年1月から再演を予定)。
11 リリーズ・アイ(シークレット・ガーデン) duet with 井上芳雄
東京で公演中であるにもかかわらず、大阪でのコンサートに駆けつけてくれた芳雄君に、「ぜひとも一緒に歌ってほしい」と、「シークレット・ガーデン」(18年)からこの曲を提案しました。男性のデュエット曲にはめずらしく、美しく流麗なメロディが心に響く名曲です。聴き応えのある録音ができました。
12 遠いあの日に(ラブ・ネバー・ダイ) duet with 濱田めぐみ
「オペラ座の怪人」、「ラブ・ネバー・ダイ」のクリスティーヌ役は、非常に高度なクラシックボイスを要求されます。なかでもこの楽曲は難しい。舞台上、このシーンを一緒に演じながら、どれほど、濱田クリスティーヌに心を奪われたことか。同時に、劇団時代から共に歩んできた彼女の、女優としての新たな顔に出会った気がしていました。そんな感動を残したいと思いました。
13. ありのままの(ジキル&ハイド)duet with 宮澤エマ(新録音)
3演目の「ジキル&ハイド」(18年)で、婚約者エマ役を演じてくださったのが宮澤エマさん。恋人役を演じる時、声を合わせた際の心地よさはとても大切なんですが、彼女とは第一声で「ぴったり」だと確信しました。翌年の「ペテン氏と詐欺師」(19年)では、驚くほどの振れ幅の広さを見せてくれ、「ジキル&ハイド」の再演が叶ったら、ぜひまた一緒に歌いたい……と熱望することに。
◎『Duets』には更にお楽しみがあるそうですが。
★素晴らしい方達とのデュエットに加え、『Duets』には私のヴォーカル音源だけを収めた6曲を入れました。女性パートを歌って私とデュエットを楽しんでいただけたら嬉しいです。
◎最後に一言お願いします。
デビューから30年。自分の俳優人生を振り返ってみると、舞台、音楽、映像と活動の場が少しずつ広がって来たように感じています。すべてはひとえに私を支えて応援してくださる、皆さんのお力あってのことです。この流れのまま進んでいった先、40周年の時にはどんな自分になっているのか……それもまた楽しみです。これからも応援どうぞよろしくお願いいたします。