音楽評論家、大鷹俊一のジミ・ヘンドリックス 短期連載コラム(第3回)が到着!
1968年10月16日発売、全米アルバム・チャート1位を獲得したザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの3枚目のアルバムにして、生前発表されたジミ最後のスタジオ・アルバム『エレクトリック・レディランド』の誕生から半世紀。
リマスタリングが施されたオリジナル・アルバム、未発表デモ、アウトテイク、ライヴ音源などを加えた3枚組CDに長編ドキュメンタリー、ハイレゾ音源を収録したBlu-ray1枚を加えた、計4枚組仕様の『エレクトリック・レディランド 50周年記念盤』の日本盤が本日発売となった。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/jimihendrix/info/499023
これまでにジミ・ヘンドリックスの日本盤CDライナーノーツを数多く手掛け、著書『定本 ジミ・ヘンドリックス ―その生涯と作品―』(ミュージック・マガジン)を執筆した、音楽評論家、大鷹俊一氏による『エレクトリック・レディランド50周年記念盤』の魅力に迫る、短期連載コラム第3回:“1968年9月14日”が到着。
第3回『1968年9月14日』
ジミ・ヘンドリックスといえばライヴ。
というわけで『エレクトリック・レディランド50周年記念盤』にもCD-Disc3<ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル>が入っている。1968年9月14日、LAの名物ライヴ会場、ハリウッド・ボウルでのステージだ。以前からブートレグとして音は出回っていたもののオーディスンスが録ったソースで音が遠かったり観客たちの声も大きく入ったりと残念なものだったが、ただ、そんな状態のものでも演奏は強烈なテンション高いプレイだとはマニアには知られていた。それのサウンドボード音源が最近見つかったとして、今回収録となったわけだ。
※Jimi Hendrix Experience: Live At The Hollywood Bowl Sept. 14, 1968
同年2月から始めた初めてとなる本格的な北米ツアーを敢行しながら、同時並行でニューヨークに戻ってはレコーディングを続け、さらにどんどんと思いつく新しいアイデアをステージで試したりといった緊張感溢れるスケジュールをこなしていたのが、この頃にはようやくレコーディングも完了。約1カ月後にはサードにして初の2枚組アルバム『エレクトリック・レディランド』が発売と、達成感と充実感がストレートに爆発するライヴとなっている。
聴きどころはなんといってもパフォーマンス1曲目の「アー・ユー・エクスペリエンスト?」から、まだ正式リリース前だった「ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」、そしてブルーズ・フィーリングを押し出しまくる「レッド・ハウス」と続く前半の長尺もの三連発で、とくに「ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)」に入る前のMCでは“とてもファンキーな曲。ただファンクっていうものがどんなものか、まだ探っているところだ”なんて言葉が聞かれて、それと演奏が絡み合うと、大きな意味が広がっていく。演奏そのものも文句無く熱い。
ただし、残念ながら音質はお世辞にも良いとは言えなく、
ドラムはダンゴ状態で、「フォクシー・レディ」は中盤で切れるし、テープを替えた為「ファイア」は途中から始まるといったお粗末ところもあるのだが、それを凌駕して演奏そのものは熱く、素晴らしい。
後半のクリーム最大のヒット曲「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」の心を込めたカヴァーの後には興奮した観客たちが、ハリウッド・ボウル名物のステージ前のプールに入っていくのも納得だ。とはいえこの当時のステージ周りの電気系統関係の原始的な環境の中では、水がステージ周辺に来たり、水気のある観客が抱きついてきたり、ジミたちが危険を感じるのも当然で、ジミやノエル・レディング、ミッチ・ミッチェルたちが必死に、“落ち着け”“プールから上がれ”“下がれ”といって呼びかけるのが、じつに生々しいドキュメンタリーとなっている。
そんな観客の興奮がジミの炎を大きくしているのも事実で、いつも以上にスピード感がある「今日を生きられない」は聞きものだし、逆に癒すように歌われる「リトル・ウィング」などの流れは、音の悪さを忘れさせてくれるはず。
そしてウッドストックの演奏を誰もが連想する「星条旗」から「紫のけむり」へと展開するエクスペリエンス・ヴァージョンは、やはりプリミティヴな魅力に満ちているし、本来であればギター、ベース、ドラムスだけの最小限の音が描き出すイマジネイション溢れる空間のはずだが、音が悪いせいでさまざまなノイズ成分も一緒に襲いかかってくる。それもまた当時のジミヘン・ライヴの現実でもあり、そこには音の悪さを越える何かがあると総合的に判断がなされたのだろう。
単体のライヴ盤とするには厳しいが、しかしこのボックスにはふさわしく、1968年9月に生きるジミ・ヘンドリックスがここには詰まっている。
<Photo Chuck Boyd (c) Authentic Hendrix, LLC>
大鷹俊一(おおたか としかず)
音楽評論家。北海道、小樽市生まれ。
ニューミュージック・マガジン社に勤務後、フリー。ブリティッシュ・ロック全般、パンク/ニュー・ウェイヴ以降の米英ロックを中心に各種媒体に書き続けている。
主な著作は『レコード・コレクター紳士録』(ミュージック・マガジン)、『定本 ジミ・ヘンドリックス ―その生涯と作品―』(ミュージック・マガジン)、『ブリティッシュ・ロックの名盤100』(リットー・ミュージックなど。また監修本多数。
過去の音楽評論家、大鷹俊一のジミ・ヘンドリックス 短期連載コラムはコチラ
短期連載コラム(第1回)http://www.sonymusic.co.jp/artist/jimihendrix/info/500954
短期連載コラム(第2回)http://www.sonymusic.co.jp/artist/jimihendrix/info/501106
|商品情報|
The Jimi Hendrix Experience / ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス
Electric Ladyland - 50th Anniversary Deluxe Edition / エレクトリック・レディランド 50周年記念盤
品番:SICP-5917~5920
価格:¥11,000+税
仕様:完全生産限定盤 / 直輸入パッケージ仕様 / 3CD+Blu-ray / 48豪華カラーブックレット
解説:大鷹俊一 英文解説:デヴィッド・フリック、ジョン・マクダーモット、エディ・クレイマー / 翻訳・歌詞・対訳付
発売日:2018年11月21日(海外:2018年11月9日)
収録曲
<CD-Disc1>Electric Ladyland
1. ...And the Gods Made Love
2. Have You Ever Been (To Electric Ladyland)
3. Crosstown Traffic
4. Voodoo Chile
5. Little Miss Strange
6. Long Hot Summer Night
7. Come On (Let the Good Times Roll)
8. Gypsy Eyes
9. Burning of the Midnight Lamp
10.Rainy Day, Dream Away
11.1983...(A Merman I Should Turn to Be)
12.Moon, Turn the Tides...Gently Gently Away
13.Still Raining, Still Dreaming
14.House Burning Down
15.All Along the Watchtower
16.Voodoo Child (Slight Return)
<CD-Disc2>At Last...The Beginning: The Making of Electric Ladyland: The Early Takes
1. 1983...(A Merman I Should Turn to Be)
2. Angel
3. Cherokee Mist
4. Hear My Train a Comin'
5. Voodoo Chile
6. Gypsy Eyes
7. Somewhere
8. Long Hot Summer Night (Demo 1)
9. Long Hot Summer Night (Demo 3)
10.Long Hot Summer Night (Demo 4)
11.Snowballs at My Window
12.My Friend
13.At Last...The Beginning
14.Angel Caterina
15.Little Miss Strange
16.Long Hot Summer Night (Take 1)
17.Long Hot Summer Night (Take 14)
18.Rainy Day,Dream Away
19.Rainy Day Shuffle
20.1983...(A Merman I Should Turn to Be)
<CD-Disc3>Jimi Hendrix Experience: Live At The Hollywood Bowl Sept. 14, 1968
1. Introduction
2. Are You Experienced?
3. Voodoo Child (Slight Return)
4. Red House
5. Foxey Lady
6. Fire
7. Hey Joe
8. Sunshine of Your Love
9. I Don't Live Today
10.Little Wing
11.Star Spangled Banner
12.Purple Haze
<Blu-ray>
・長編ドキュメンタリー 『At Last…The Beginning: The Making of Electric Ladyland』(日本語字幕付)
・アルバム『エレクトリック・レディランド』の●[Uncompressed LPCM Stereo 24b/96k]、●[Uncompressed LPCM 5.1 Surround 24b/96k]、●[DTS-HD Master Audio 5.1 Surround 24b/96k]を収録。