新作『アンブレイカブル』全米1位記念!ジャム&ルイス日本独自インタビュー第2弾公開!(連載4回)
ジャム&ルイスとの黄金のタッグによる『アンブレイカブル』は、ホットな名前を多数並べて賑やかさを演出するよりも、むしろすっきりした制作体制によるアルバムの統一感を優先させたアルバムだ。ゲストも少なく、リード・シングル「ノー・スリープ」に参加したJ.コールと、「バーンイットアップ!」のミッシー・エリオットの2名のみ。このふたりの人選はどのようにして決められたのだろう。
(インタビュー/文:荘 治虫 通訳:渡瀬ひとみ)
ジミー・ジャム:2つの理由があった。「ノー・スリープ」が出来上がったときに、誰かにラップを入れてもらいたいと思っていたんだ。僕らはそもそもJ.コールのファンでもあったんだけど、この曲の味みたいなものを彼だったら上手く出してくれるんじゃないか。そういう繊細さを持っている人なんじゃないかって思ったんだ。作った時は、この曲がどういうものなのか、僕らには分からなかった。でも、多くの人達がこれには90年代の雰囲気が出ている、って言うんだ。「それが愛というものだから」(“That's The Way Love Goes”)みたいな雰囲気だって。それはいい喩えだって思った。そういったスピリットを醸し出してくれる人がいいと思ったんだよね。ただのフィーチャリング・ラッパーとして参加したというのではなく、有機的にレコードの一部として参加して欲しかった。ただラップしただけのものは僕はあまり好きじゃない。だから、いわばファミリーにならなくちゃいけなかった。J.コールはそういったことも出来て、そういう雰囲気を曲に醸し出してくれると思った。彼は完璧にやってくれたよ。とても深いところまで掘り下げて、歌詞も曲ととても合っていたし、すべてのフィーリングが醸造され、アプローチも、そのすべてがレコード全体と合うものを作ってくれた。そういったことに僕らは喜びを感じていた。そもそも彼のアルバムは素晴らしかったし、単純に好きだから彼に参加してもらおうと思ったんだよね。いまだにその年の僕のお気に入りのアルバムにもなっているぐらいだ。彼は素晴らしいよ。
──ミッシー・エリオットは?
ジミー・ジャム:ミッシー・エリオットは、プロジェクトの最初の頃からコラボの可能性のある人として名前があがっていたんだ。リストのトップの方に入っていたよ。彼女は才能があるというだけでなく、ジャネットとは親友の仲だから。彼女たちはずっと仲のいい友人同士で、人生の中のさまざまな場面でお互いを助け合って来た仲。いくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしてきたりね。彼女の仕事ぶりには僕らも触れていてよくわかってはいた。「バーンイットアップ!」に関して言うと、ミッシーにトラックを送った当時は「バーンイットアップ!」というタイトルはなく、ただメロディがついたトラックで、ワンコーラスが何となく出来上がっていたという感じでね。「あなたが思うようにやってみて」と言って渡したんだ(笑)。そうしたら、「バーンイットアップ!」のコンセプトを思い付いてくれて、ラップだけでなくまん中のチャント(詠唱)の部分まですべて作ってきた。曲をまったく違うレベルのものにしてくれたのさ。予想はしていたけど、彼女が作品を作って送ってきたとき、圧倒されたね。そこから僕らが曲を完成に向けて作業していったんだ。エネルギーに溢れている曲。ジャネットは実際にショウのオープニングでこの曲を演奏するんだ。初日のショウのときに、誰もこの曲を聴いたことがない状態での観客の反応が面白かった。どこかで聴いたことがあるような音だと思ったみたいで、全員が踊り出してね。反応が非常に良かったよ。ジャネットのファンは彼女がミッシーと一緒にやったということを喜んでくれていたみたい。レコードを作っている最中も「ミッシーと何かやればいいのに」ってツイートされていたから。だから、初日にああいった形でみんなが曲に反応して、「ミッシーと一緒に曲をやったんだ!」って大騒ぎしているのを観られたのは楽しかった。
J.コールはミックステープで注目を集め、2011年にジェイ・Zのロック・ネイションからアルバム・デビューを飾った若手ラッパー。もう一方のミッシー・エリオットは、ディヴァンテ・スウィング(ジョデシィ)~ティンバランド一派から1997年にソロ・デビューしたラッパー/シンガーで、『オール・フォー・ユー』収録の「サン・オブ・ザ・ガン(アイ・ベッチャ・シンク・ディス・ソング・イズ・アバウト・ユー)」のリミックス・ヴァージョンに参加したり、オール・フォー・ユー・ツアーのハワイ公演に登場するなど(この模様はDVD『オールフォーユーライヴ』に収録)、ジャネットとはこれまでにも共演を経験済み。「ルーズ・コントロール」などエレクトロ・ヒップホップを得意とする彼女が関わったことで、「バーンイットアップ!」に勢いとエッジが生まれている。
そんな「バーンイットアップ!」やアトランタ・ベース的な「トゥ・ビー・ラヴド」があるかと思いきや、80年代のシェレールあたりが歌っていそうなミネアポリス・サウンドの「ナイト」があったり、90年代的なビートを持つ「アンブレイカブル」があったりと、サウンド的にはかなり幅があるのが今回の特徴だ。
――サウンドの方向性についてはどのように決めていったんでしょう? ミネアポリス・ファンクを思い出すような曲もあれば、80年代前半のエレクトロ・ヒップホップ的な曲も、90年代的なテイストのビートを持った曲もといった具合に、かなり幅広いスタイルが入っていますね。
ジミー・ジャム:それはとても正しい分析だね。僕らはもうジャネットとは30年間アルバムを作り続けている。だから、このレコードは30年間かけて作られたようなサウンドになっているんだ。音的に『コントロール』の頃に戻っているものもあるし、僕らが制作してきたそれぞれの時代のサウンドを網羅している。新しい工夫もあるんだけど、最終的にはジャネットのレコードになっているのさ。ある特定のサウンドというのは特になかった。彼女がどの曲でも心地好いと感じられるようなものであれば良かった。よく使われる言葉だけど、「上手く機能しているのであれば、直す必要はない(If it ain't broke don't fix it)ということだよ。このレコードは以前のタッグによるアルバムと同じ形で作られたんだよね。基本的には僕ら3人が作りたいと思ったレコードを作ったという感じ。彼女自身のレーベルからのアルバムだし、正直なところ、彼女はレコードを作りたいと思わなければ作らなくてもいいわけだから。そういった状況が、まったくストレスのない制作で、とにかく自分達が聴いて楽しめるようなものを作ろう、とうことだった。そして、願わくは人々も僕らと同じ意見であり、エンジョイしてもらえればいいな、と。
――アルバムのコンセプトや方向性について教えてください。
テリー・ルイス:アルバム全体のコンセプトはアンブレイカブルだ。意味は、ものごととの関係性の問題。信条、家族、友人、世界、人生そのものとの関係性だったりする。どのレベルでも共感できるのがあって、どこにいて、何をやっているにしても、何らかの関わり合い、関係性の中にいる。このアルバムが総称しているのは、いまジャネットが世界とどう関わりを持っているのかということだと思う。彼女の宗教との関わり合い方、家族とのつながり、ファンとの関わり方、そういうことすべてが含まれるんだ。
――タイトルの『アンブレイカブル』はマイケルの生前最期のアルバム『インヴィンシブル』に収められていた曲と同じタイトルになりますね。このことはただの偶然ですか? それともジャネットは意識的にこのタイトルにしたのでしょうか?
ジミー・ジャム:マイケルの『アンブレイカブル』はまたちょっと意味が違っていたと思うんだ。彼のアンブレイカブルは、彼自身が壊れることのない確固とした存在である、ということを表わすためにその言葉が使われていたと思う。テリーが言っていたように、ジャネットのアンブレイカブルはお互いの絆が壊れることがない確固としたものを意味するアンブレイカブルだったと思う。家族、宗教、友達、ファン達。そういったことを彼女はアンブレイカブルであると語っているんだよね。アンブレイカブルそのものがとてもパワフルな言葉だと僕は思っている。よく使われる言葉だし、アルバムの題名や曲でも過去よく使われてきた言葉でもある。でも彼女が使っている意味は少し違うと思うんだ。絆が揺るぎないもの、壊れないもの、と語っているんだよ。何が起こっても、アルバムを出すのが7年ぶりだったとしても、お兄さんの死があったとしても、どんなことが彼女の人生で起こったとしても、最終的には壊れることがない絆がある、ということ。彼女のファンは彼女を待っているし、家族もちゃんと彼女のためにそこにいる。彼女の信仰に対する向かい方など……。絆ということを彼女は、「アンブレイカブル」で語っていると思うんだ。
(次回はジャネット&ジャム&ルイスの定番的スロウ「ノー・スリープ」に続く)