フランチェスコ・トリスターノ

1981年、ルクセンブルグ生まれ。フランチェスコ・トリスターノは、古典的なトレーニングを受けた実験的なピアニスト、鍵盤奏者、作曲家であり、その音楽的な試みは多岐にわたっていて分類するのは困難である。彼はそのキャリアにおいて、さまざまな音楽――バロック音楽、電子音楽、ダンス、テクノ、前衛音楽など――をそのフィールドの頂点を極めるアーティストたちとのコラボーレションなどを通して新たなリスニング体験へと昇華させてきた。彼のマントラ(スローガン)は「洗練された/教養のある」音楽と「ポピュラー」音楽と呼ばれるものの間には実は差異がない理由についてのアルバン・ベルクの考察から借用された「音楽は音楽(Music is music)」である。

地元ルクセンブルクの音楽院などを経て1998年に名門ジュリアード音楽院に入学。在学中の2002年にバッハの「ゴールドベルク変奏曲」でアルバムデビューしたトリスターノは、協奏曲を含む数枚のアルバムをいくつかのレーベルからリリース、またアメリカ時代から親しんできたテクノをピアノで再構築した「Not For Piano」(2007年/これが日本での彼のデビュー作である)をはじめとしてエレクトロニック・ミュージックの作品をリリースしつつ、クラシックの名門ドイツ・グラモフォンと契約。古典とモダンを俯瞰した「バッハケージ」(2011年)、ブクステフーデとバッハの作品を取り上げた「ロング・ウォーク」(2012年)、アリス=紗良・オットとのデュオ作品「スキャンダル」(2014年)を発表。
2016年にはデトロイト・テクノの名門レーベルTransmatからテクノ系ソロ・アルバム「フラジャイル・テンション」を、2017年にはデトロイト・テクノの巨匠プロデューサー、カール・クレイグがオーケストラと共演したアルバム「Versus」に共作演者として参加と、その幅広い音楽性の発露はとどまることを知らない。2017年にソニー・クラシカルと独占契約を結んだ。2017年の『ピアノ・サークル・ソングス』、2019年の『東京ストーリーズ』はいずれもフランチェスコの作曲・演奏によるもの。またグレン・グールドの生誕85周年を記念して2017年末に東京で坂本龍一のキュレーションにより開催されたイベント『Glenn Gould Gathering』に参加し、2018年にそのライヴ・アルバムも発売された。