デペッシュ・モードとともに、30年 ── 石野卓球(電気グルーヴ)

2014.04.23


電気グルーヴの石野卓球は、中学生時代からの筋金入りのデペッシュ・モードのファン。彼が音楽をはじめるきっかけのひとつにもなった。いち音楽ファンとして聴いた初期の作品、自身も音楽のプロとして聴いた中期以降の作品、そして30余年の時を共に歩んで受け止める最近の作品。
今回、デペッシュ・モードのオリジナル・アルバム12枚が一挙に紙ジャケットでリイシューされるのにあわせ、2013年発表の最新作『デルタ・マシーン』を含むデペッシュ・モードの13枚のオリジナル・アルバムのひとつひとつに、時代を並走してきたリアル・タイムのリスナーならではの視点でコメントを寄せてもらった。

構成:吉村栄一

『ニュー・ライフ』(1981)
デペッシュ・モードはもともとYMOの高橋幸宏さんがラジオでシンセ・ポップのかわいい子たちって紹介していたのを聞いて名前を知りました。雑誌などでグラビアを見るようにもなったけど、音はなかなか聴けなかった。輸入レコードもなかなか入ってこなかったから、ようやく聴けるようになったのは国内盤が出たとき。
とにかく第一印象がよかった。当時のキャッチ・コピーが「女王陛下からシリコン・エイジへのプレゼント!」(笑) その前に聴いていたシリコン・ティーンズ(*a)とかと同じ系統で、とにかく好きだった。「ジャスト・キャント・ゲット・イナフ」の国内盤7インチ・シングルも買ったなあ。
でも、いまあらためて聴き直すと、その後のデペッシュ・モードとは別のバンドみたい。作曲はほとんどヴィンス・クラークだし、ドラム・マシーンの音もヤズー(*b)とほぼ同じ。
去年の6月にベルリンとライプツィヒにデペッシュ・モードのライヴを観に行ったんだけど、そのときアンコールでひさしぶりに「ジャスト・キャント・ゲット・イナフ」をやったんです。流れの中ではやっぱり浮くんだけど、この曲はヨーロッパではサッカーの応援歌として有名で、そっちの方向での有名曲って感じでみんなが盛り上がってた。日本のJリーグのチームもこの曲を応援歌に使ってる。
まだデペッシュ・モードが幼虫のような明るいシンセ・ポップのアルバム。
  (*a)デペッシュ・モードが所属するレコード会社ミュート・レコーズの社長ダニエル・ミラーによるテクノポップ・ユニット
(*b)ヴィンス・クラークがデペッシュ・モード脱退後にヴォーカリスト、アリソン・モイエと結成したデュオ・ユニット

 

『ア・ブロークン・フレイム』(1982) 
リアルタイムで聴いたのはこのアルバムから。聴いたときは、とにかく「急に大人になったなあ」という印象が強かった。いま聴くとそれほどでもないのだけど、当時はとにかくそう思った。東京の輸入盤店に通販のオーダーを入れてから、中学校から帰る毎日「きょうこそ届いてるんじゃないか」ってそわそわしちゃって、バイトや部活とか休んで帰っちゃったり(笑)。12インチも買うようになって、「ミーニング・オブ・ラヴ」とか買ったな。
曲をマーティン・ゴアが書くようになったという変化と同時に、音も変わった。まず、このアルバムからドラムの音が圧倒的に変わったんだよね。そしてそれまでアナログ・シンセサイザーのみだったのに、ここからデジタル・シンセサイザーのPPGも使いだして、音色の深みもまったく変わった。前作がカラフルな原色だとすると、こちらは油絵。深みが出ている。そして暗い。そこが好きだった。
瑣末な話になるけど、アルバムに未収録の「ゲット・ザ・バランス・ライト」がこの後に出るけど、あれだけドラムの音が『ニュー・ライフ』の頃に戻ってて、それが不思議だった。「ア・フォトグラフ・オブ・ユー」みたいな、いまでは本人たちがギャグにしているような曲も入っていて、いまのデペッシュ・モードとは大きくちがうんだけど、前作が幼虫だったら、これはサナギのアルバムかも。
メインのソング・ライターのヴィンス・クラークがやめた後で、よくここまでちゃんとしたアルバムを作れたなあって感心します。

 

『コンストラクション・タイム・アゲイン』(1983) 
このアルバムでサンプラーを導入したっていうのは大きかったと思う。このとき、ベルリンのハンザ・スタジオで同じレーベルのファド・ガジェット(*c)がアインシュトゥルツェンデ・ノイバウテン(*d)と一緒に録音した音のサンプリング・データをそのまま勝手に使って、後でファド・ガジェットのフランク・トーヴェイが非常に怒ったという話を聞いたことがある(笑)。
この作品からアラン・ワイルダーが入って、サウンドが変わりつつあって、PCMの本格的なドラム・マシーンも導入されて音が重くなったなって当時思った記憶がある。
それでも、まだ試行錯誤の段階のアルバムという気はします。
ただ、同じようにポップな曲でも、ファーストの「ジャスト・キャント・ゲット・イナフ」なんかはいまライヴでやるときは飛び道具的な扱いだけど、ここに入っている「エヴリシング・カウンツ」だともっと自然体でたまに演奏しているから、いまのデペッシュ・モードとは地続きのアルバムにはもうなってますね。
  (*c)フランク・トーヴェイによるワンマン・エレポップ・ユニット
(*d)80年にブリクサ・バーゲルトを中心として結成されたインダストリアル/ノイズ・バンド

 

『サム・グレート・リウォード』(1984)
前作の『コンストラクション・タイム・アゲイン』とくらべて、ずいぶんこなれてきたなっていう印象があるアルバム。サンプリングにしても前作ではまだ物珍しいおもちゃ感覚での使用だったけど、ここではもうちゃんと楽器として使いこなしている。ドイツ盤のグレーのカラー・ヴィニールのレコードを買いました。
このアルバムが出て来日公演があって新宿厚生年金会館でのライヴを、当時住んでいた静岡から上京して観に行きました。帰りに東京駅で補導されたのもいい思い出です(笑)。あのときのライヴの印象は…フレッチってステージであんまりなにもしてないぞって子供心にも思ったな(笑)。
この頃はプロモーション・ヴィデオとか、デペッシュ・モードの映像を日本で観る機会があまりなかったから気づかなかったけど、いま当時のヴィデオを観直してみると、アラン・ワイルダーが入ったこともあって、すごく彼らのルックスのよさがフィーチャーされたものになってる。「ピープル・アー・ピープル」や「マスター・アンド・サーヴァント」のようなメッセージ性の強い曲のヴィデオでもそう。
その一方、歌詞はそれまでの表面的なものから深みが出てきて、バンドとしての成長をすごく感じます。まだ東西を隔てる壁があった頃のベルリンでマーティン・ゴアが暮らして作品作りをしたというのも大きいんじゃないかな。あの頃のベルリンって、東側に対して「西側はこんなに自由なんです!」ということをアピールするために、自由すぎるような街だったから。ヨーロッパでもこの頃から人気が出てきて、いまに至るアルバムだし、12インチのリミックスをエイドリアン・シャーウッドのような外部のアーティストに依頼するというのもここから始まってますね。

 

『ブラック・セレブレーション』(1986)
本当の意味でいまのデペッシュ・モードのスタートとなったアルバムがこれかもしれない。このときも来日して、テレビの歌番組に出てたことも憶えている。この頃からレコーディングがデジタルになったのかな? 80年代半ばは機材も録音方法も日進月歩で、いまの耳で聞くと違和感のあるところもあるけど、そのぶん時代の音になってる。
そして曲がいい。いまだにライヴでやる曲が複数あるし、確実にいまのデペッシュ・モードの基礎になっているアルバム。実質的なファースト・アルバムと言っていいかもしれない。レザーの衣装みたいな、エレクトロニックだけどゴシックっていうデペッシュ・モードのイメージも確立されている。それまで、そういう要素を小出しにしていたけど、ここでそれががっちりまとまった気もする。

 

『ミュージック・フォー・ザ・マスィズ』(1987)
デペッシュ・モードって、アルバム2枚で1セットのようなところもあって、まず試作品を作って、次にその完成形を提示するみたいな。そういう意味では『ブラック・セレブレーション』が試作品で、この『ミュージック・フォー・ザ・マスィズ』が完成形。なによりいい曲が揃ってるよね。「ビハインド・ザ・ホイール」や「ストレンジラヴ」「リトル15」「ネヴァー・レット・ミー・ダウン・アゲイン」…。この時代にもうハウスの先駆けのようなリズムも使ってる。当時、雑誌の評などでリズムの斬新さもけっこう注目されていた記憶がある。余談になるけど、これは国内盤のCDで買ったけど、この頃はまだアナログ・レコード時代の名残で、各国盤でけっこう音がちがったんだよね。CDのためのマスタリングが各国それぞれで行われてて、80年代の日本盤独特のあの音質も懐かしいな。ジャケットの色味とかもけっこうちがうし。しかし、ベスト盤のように名曲揃いのアルバムだね。

 

『ヴァイオレーター』(1990)
さらにアメリカで大ブレイクしたアルバム。個人的にはこれがいちばん好きなアルバムかもしれない。決定版という感じ。「エンジョイ・ザ・サイレンス」「パーソナル・ジーザス」といい曲が多いし、このアルバムからギターが増えてそれがいいアクセントになってる。ただ、最初に聴いたときには抵抗があった。これ以前はまだ初期デペッシュ・モードのエレポップ・バンドというイメージが残っていたけど、このアルバムの「パーソナル・ジーザス」とか、そこからもう遠い感じがして。でも、その後聴き続けるうちに好きになって、現時点ではこれがいちばんいいロック・アルバムになっていると思う。デペッシュ・モードをロック・バンドだと思って聴くとまったく違和感もなくなるし。この当時に盛り上がっていたハウスなんかの要素はアルバムにはまるきっきりなくて、それは「エンジョイ・ザ・サイレンス」とかのシングルのリミックスのほうにもうまかせてるね。。

 

『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』(1993)
よりロックなアルバムになったなと当時思った。この頃はミニストリー(*e)とか他のエレクトロニックやボディのバンドもみんなギターを取り入れて、ロックっぽいアプローチが増えた。「アイ・フィール・ユー」とか、ロック以外のなにものでもない。ロックのアルバムとして、ほんとうに完成度が高いから、いま聴き直してみてもいいよね。このアルバムが出たとき、オールナイト・ニッポンのパーソナリティーをやってて、そこでかけた憶えもある。「ウォーキング・イン・マイ・シューズ」とか、重い曲が多くて、多分この頃にメンバーそれぞれが置かれていた状況が重かったのだろうけど、サウンド自体がすごく重い。そういう重い気分にあふれたアルバムで、これを最後にアラン・ワイルダーが辞めたっていうのもとても納得できる。
  (*e)1981年にシカゴでアル・ジュールジェンセンを中心に結成されたインダストリアル・バンド

 

『ウルトラ』(1997)
これはつらいアルバムかも。悪くないんだけど、復活の途上のアルバムだから聴いていてもつらい。アランがいなくなって最初のアルバムだしね。プロモーション・ヴィデオでも、デイヴの姿を観るのがつらかったもん。「バレル・オブ・ア・ガン」とかいい曲も入ってるんだけど。そう、だから、このアルバム自体よりもここからのシングルのほうが印象深いかな。当時はもうクラブDJをやってたから、アルバム本編よりもシングルのいろんなリミックスのほうが馴染みが深いんだ。デペッシュ・モードのリミキサーの選び方は、この頃からすごくツボを突いたいい人選だった。いまもそうだけど、そのときどきの旬のリミキサーが必ず入ってる。

 

『エキサイター』(2001)
このアルバムは、デペッシュ・モードがまたエレクトロニックに戻るって聴いて、とにかく楽しみだったなあ。LFO(*f)のマーク・ベルがプロデューサーだっていうニュースにも、とにかく期待した。でも、いま聴くと逆にデペッシュ・モードの歴史の中では異色になったアルバムなのかも。近年のライヴでも、ここからの曲はあまり取りあげられてないでしょ。その前までの「ヘヴィなロック・バンドのデペッシュ・モード」というその路線のままずっと行くのかなと思っていただけに、ここでのエレクトロニック回帰はうれしかったんだけど。
  (*f)1988年にイギリスのリーズで結成されたテクノ・ユニット。初期は2人組だったが、その後マーク・ベルのソロ・ユニットになった

 

『プレイング・ジ・エンジェル』(2005)
『エキサイター』が期待が大きすぎたぶん、前評判は高くなかった感じだけど、ここでまた大々的に復活したって感じのアルバムだよね。スイスの高級時計でウブロってブランドがあるでしょ。あそこがこのときに、デペッシュ・モードの各アルバムのジャケットを文字盤にあしらった腕時計を限定で出したんだよね。一個300万円ぐらいする、子供のガン患者へのチャリティの一環の時計。その中でこのアルバムの時計は人気も高かったみたい。
やっぱり、ここでバンドとしての現役感も戻ってる。「プレシャス」のように、地獄のような状況からやっと抜け出て、自分の大事なものを見つけたっていうドラマティックな曲があって、いい。全体的にとてもいきいきとした自然体のアルバム。おかえりなさい、デペッシュ・モードっていう感じ。

 

『サウンズ・オブ・ザ・ユニヴァース』(2009)
もうこの頃になると、デペッシュ・モードは自分が若いときからずっと寄り添ってきたバンドという感覚で、新作は自然体で楽しめるようになってたんだけど、初めて聴いたときは意外とシンセ・ポップに戻ってきててちょっとびっくりしたな。DVDでこのアルバムの制作のドキュメンタリーを観たんだけど、レコーディング中にe-bay(世界的なオークション・サイト)でヴィンテージ・シンセを落としまくってて、何百万円もするようなシンセから、10万円もしないようなチープなシンセまでいろいろ買って使ってて、音色的にすごく懐かしい気分になったのを憶えてる。先行シングルの「ロング」がとにかく好きで、ミニマリスティックに盛り上がっていくこの曲を聴いて、ひさしぶりにデペッシュ・モードに首ったけになった。近年ではいちばん好きだな。マーティン・ゴアとヴィンス・クラークのユニット“VCMG(*g)”もこのすぐ後でしょ。
  (*g)2011年にイギリスで結成されたテクノ・ユニット。バンド名はシンセサイザーにちなむVoltage Control Modulation Generatorの頭文字をとったもので、メンバー名-Vince Clarke Martin Gore-の略ではないと言う

 

『デルタ・マシーン』(2013)
完成度がすごく高いアルバム。デペッシュ・モードの2枚1組の原則(笑)どおりに、『サウンド・オブ・ザ・ユニヴァース』を受けて、それをアップ・グレードしたのがこのアルバムだと思う。このアルバムのツアーを去年ドイツに観に行ったよ。バンドや演奏もよかったけど、それよりもスタジアムに来ているお客さんの様子がよかったな。バンドとともに年を取っていくってこういうことなのかなって。うちらみたいな40代、50代の世代が相変わらず黒いTシャツを着て、同世代の奥さんもゴスな格好で、でも可愛い子供も連れててっていうのを見るとやっぱり感慨深いものがある。その一方、ふつうな感じの20代の若者とかがグループで来てたりもしてすごくいい感じだった。その中に、10代のときからデペッシュ・モードを聴いてきた自分が時を経てここにいるっていうのが不思議だった…。

 


●来日祈念盤

スタジアムを揺るがすエレクトロニック・ポップ・バンド、デペッシュ・モード。
オリジナル・アルバム12枚を一挙紙ジャケ&BSCD2化!

デペッシュ・モード Depeche Mode

2013年4月23日発売 ¥2,600+税
完全生産限定盤/紙ジャケット/BSCD2仕様/解説:ダニエル・ミラー(一部除く)、吉村栄一/歌詞対訳付き

1981年に英MUTEレコードからアルバム『ニュー・ライフ』を発表、2013年のソニー移籍第一弾『デルタ・マシーン』まで、13枚のスタジオ・アルバムを発表しているエレクトリック・ポップ・バンド、デペッシュ・モード。これまで日本では数社からバラバラに発売されていた彼らのバックカタログを、今回世界で初めて英オリジナルLPに準じた紙ジャケット、高品質Blu-specCD2仕様でリイシュー! 


ニュー・ライフ Speak & Spell (1981年) SICP30535
ア・ブロークン・フレイム A Broken Frame (1982年) SICP30536
コンストラクション・タイム・アゲイン Construction Time Again (1983年)   SICP30537
サム・グレート・リウォード Some Great Reward (1984年) SICP30538
ブラック・セレブレーション Black Celebration (1986年) SICP30539
ミュージック・フォー・ザ・マスィズ Music For The Masses (1987年) SICP30540
ヴァイオレーター Violator (1990年) SICP30541
ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション Songs Of Faith And Devotion(1993年) SICP30542
ウルトラ Ultra (1997年) SICP30543
エキサイター Exciter (2001年) SICP30544
プレイング・ジ・エンジェル Playing The Angel (2005年) SICP30545
サウンズ・オブ・ザ・ユニヴァース Sounds Of The Universe (2009年) SICP30546


 

ようこそ、「デルタ・マシーン」の深遠なる世界へ――
鳴動する電子音。コロンビア移籍第1作、降臨。


デペッシュ・モード
デルタ・マシーン
CD:SICP3785 ¥2,400+税 発売中



<デペッシュ・モード>
1980年にロンドン近郊のバジルドンでヴィンス・クラーク、マーティン・ゴア、デイヴ・ガーン、アンドリュー・フレッチャーの4人によって結成されたエレクトロニック・ポップ・バンド。1stアルバム発表後にヴィンス・クラークが脱退、その後オーディションでアラン・ワイルダーが加入し黄金時代を築く。1995年にアランが脱退後はマーティン、アンディ、デイヴのトリオ編成となり、昨2013年春にはスタジオ作としては13作目になるアルバム『デルタ・マシーン』を発表し、世界ツアーも行ってDM健在なりを示した。日本へのツアーは1990年の「ワールド・ヴァイオレーション・ツアー」以来20数年途絶えており、その再来日が待望されている。

 


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