『ブラック・メサイア~来日記念最強盤』 ライターの宇野維正氏による公開楽曲解説

2016.02.24

 ディアンジェロ&ザ・ヴァンガード『ブラック・メサイア 来日記念最強盤』に同梱されるボーナスCDに収録されているのは、2015年5月に海外最大手のストリーミングサービスSpotifyで配信された「D’Angelo & The Vanguard  Spotify Sessions」の音源だ。全4トラックとはいえ、ボリュームは約32分とたっぷり。海外で配信されたのも、この4トラックですべてとなる。2014年末に『ブラック・メサイア』をサプライズ・リリースして間もない頃、2015年に入ってからニューヨークの某所でおこなわれたというこのシークレット・セッション(TwitterやInstagramにもまったく画像や情報がアップされなかった)。歓声の厚みから判断する限り、それほど大きな会場ではなかったことがわかるが、その場にいたラッキーなオーディエンスの体験を、こうしてようやく日本でも追体験できることになったわけだ。しかも、世界初のCD音源で。

 

 ディアンジェロのライブ盤というと、デビュー時からの日本のファンにとって忘れられないのは、ファーストアルバム『ブラウン・シュガー』のリリース翌年となる1996年、日本でのみリリースされた全6曲入りのライブ盤『ライブ』のことだ。デビュー間もない1995年9月にロンドンのカムデンにあるJAZZ CAFÉで行われたライブを収録したその作品は、世界中のディアンジェロ・ファンにとって必須のコレクターズ・アイテムとなり、日本盤の帯がついたCDが世界各国で「輸入盤」として高値で取引されることとなった。EMI(当時)がそれを見かねたのか、2年後の1998年にはようやく正式にワールドワイドでリリース、さらに2012年にはライブ全編12曲を収めてリイシュー盤として改めてリリースされるという、いわく付きの作品だった。当時の「ディアンジェロのライブ盤が手に入るのは日本のみ」という歴史が、またここで繰り返されることとなったわけだ。

 

1.Betray My Heart

昨年の来日公演で、ステージ上のディアンジェロが胸にハートマークを作るかわいい(?)振り付けが話題となった『ブラック・メサイア』収録曲。クレジット上は「Betray My Heart」1曲となっているが、中盤でセカンドアルバム『VOODOO』(2000年)の中でもDJを中心に特に支持の高かった曲「Spanish Joint」へとなだれ込む12分弱の圧巻のライブ・バージョン。人気曲にもかかわらず『VOODOO』期からあまりライブでは演奏されことがない「Spanish Joint」を、即興的なセッションではなく、ここではフル尺で完奏している。レコーディング前提のセッションだからこそ実現した極めて貴重な演奏だ。

 

2.Really Love

『ブラック・メサイア』のリードトラックであり、先日第58回グラミー賞で最優秀R&Bソングを受賞したディアンジェロの新たな代表曲の一つ。ファンクを基本とするこれまでのディアンジェロの楽曲の中では異質の、ストリングスによるインタールードから始まる非常に端正な構成を持つ楽曲だけに、間奏部分が少し長尺になっている以外はほとんどアルバムのバージョンに忠実な演奏。昨年の来日公演も含め通常のツアーにはバンドに同行していなかった、生のストリングス隊のサウンドが美しい。

 

3.The Door

貴重な演奏が目白押しの本作にあって、特に注目したいのがこのトラック。『ブラック・メサイア』収録曲「The Door」を、スタジオ・レコーディングの倍以上の尺で丹念に演奏したライブ・バージョンだ。昨年の来日公演では、ブラック・ミュージックの伝道師として文句のつけようのないステージを繰り広げてくれたディアンジェロ&ザ・ヴァンガードだったが、アルバム『ブラック・メサイア』には「Really Love」やこの曲のようにディアンジェロのルーツやインスピレーションがブラック・ミュージックだけではないことを示す彼の新境地が刻まれていた。アルバム・バージョンには入っていないブルーグラスを彷彿とさせるバイオリンのソロや、より強調された(おそらくはディアンジェロ自身による)フェンダー・ローズの音色が、この楽曲本来のコンセプト、全貌を初めて教えてくれる。

 

4.She’s Always In My Hair

ディアンジェロが最も敬愛するミュージシャン、プリンスのカバー曲。オリジナルは、プリンスのアルバム『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』(1985年)期のシングル「ペイズリー・パーク」のBサイドに収録。ディアンジェロによるこのカバーは、映画「スクリーム2」(1997年)のサウンドトラック(リードトラックとしてシングル・リリースもされた)への提供曲としてスタジオ・レコーディングされた。もともとかなりヘヴィでサイケデリックなプリンスのオリジナルを、さらに極限までラウドにしたアレンジは、当時のスタジオ音源を踏襲したもの。近年のライブではめったに演奏しない持ち曲だけに、このセッションがディアンジェロにとって特別なものであったことがよくわかる。

text by 宇野維正


 

【来日公演情報】

3月28日(月) 神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール→SOLD OUT

3月29日(火) 大阪 大阪国際会議場 メインホール

<問>クリエイティブマン:03-3499-6669

http://www.creativeman.co.jp/artist/2016/03dangelo/

 

【最新リリース情報】

ディアンジェロ & ザ・ヴァンガード

『ブラック・メサイア~来日記念最強盤』

3月23日発売 

SICP4770-4771 3,000円(税込)

●ボーナスCD付(世界初CD化音源4曲入り/収録分数約33分)

●2枚組紙ジャケ仕様

●初回生産分のみオリジナルバンダナ付き

●歌詞・対訳・解説付き 

 予約購入リンク: http://smarturl.it/BlackMessiahJP




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