<ライヴレポート>ブリング・ミー・ザ・ホライズン 2019年8月19日 SUMMER SONIC EXTRA @新木場STUDIO COAST
photo by Kazushi Toyota
20周年を迎え、8月16日から18日にかけ3日間にわたり開催された〈サマーソニック2019〉は例年を超える盛り上がりをみせたが、8月19日、その余熱をふたたび沸点へと誘うかのような、きわめて熱いライヴを観た。もちろん、〈サマーソニック・エクストラ〉として行なわれた東京・新木場STUDIO COASTでのBMTHの単独公演のことである。
BMTHにとって今回の滞日中唯一の単独公演であるだけに、チケットは早々にソールドアウト。しかもゲスト・アクトとして、あのHYDEが出演するとあって、会場内は開場早々から人、人、人でぎっしりの状態に。午後7時の到来を知らせるかのように定刻ちょうどに暗転すると、彼のステージは“FAKE DIVINE”をもってスタートした。
photo by 田中和子
ミステリアスな空気が徐々にアグレッシヴな躍動を帯びていくこの楽曲を皮切りに、HYDEは畳み掛けるように約30分間のステージを披露。今日的な欧米のロックと温度差のないその音楽とたたずまいは、彼の作品などについて予備知識を持たない観客にも違和感なく刺激的なものとして映ったのではないだろうか。かねてからBMTHの名をフェイヴァリット・バンドとして挙げてきた彼は「つまらなければ無視してくれて構わないけど、少しでもいいと思ったら気持ちを返して欲しい」と客席に告げていたが、そう呼び掛けるまでもなく満員のオーディエンスはポジティヴな反応を示していた。
photo by Kazushi Toyota
そして待望のBMTHのライヴ・パフォーマンスが始まったのは、午後8時を5分ほど過ぎた頃のことだった。共鳴者たちを自由な世界へと導くかのような映像がステージ後方のスクリーンに映し出され、白いジャンプスーツで武装したメンバーたちが薄暗いステージ上の配置に着く。そこに鮮やかな赤のスーツに身を包んだフロントマンのオリーことオリヴァー・サイクスが躍り出ると、最新作『アモ』を象徴する楽曲のひとつである“マントラ”が炸裂し、それと同時にステージ両脇に陣取ったパフォーマーが白煙を噴射。すでに充分すぎるほど温まっていたフロアは一気に過熱し、文字通りの一体感に包まれていく。
photo by Kazushi Toyota
続けざまに披露されたのは、『アモ』への足掛かりとなった前作、『ザッツ・ザ・スピリット』に収録されていた“アヴァランチ”。その場に充満する熱は上昇するばかりで一瞬たりとも落ち着く気配がない。2019年を代表するロック作品のひとつとして数えられるべき『アモ』は確実にこのバンドの支持層を広げているが、BMTHとコアなファンの相思相愛関係は昨日や今日になって始まったものではないのだ。続く3曲目は “ザ・ハウス・オブ・ウルブズ”。前々作『センピターナル』からのセレクトだが、ファンは当然ながらこの曲も熟知していて、その予兆をとらえた時点でフロアには大小のサークルピットが出現。人間が渦巻く輪から発されるエナジーが、場内の熱をまさしく天井知らずのように高めていく。
photo by Kazushi Toyota
オリーはこのタイミングで日本上陸が5年ぶりであること、この国をずっと恋しく思ってきたことを語り、次なる楽曲“メディスン”について「人間関係についての“学び”の歌」と紹介する。その言葉が示すように、彼自身はもちろんのこと、BMTHは結成から約15年の歴史のなかで音楽的にも人間的にも多くを学び、段階的に飛躍的な成長を遂げてきた。そうした進化や成熟の過程を音楽の変遷自体から感じ取ることができるのも、このバンドの大きな魅力のひとつであり、同じ時間軸を生きてきたファンの共鳴理由であるはずだ。この“メディスン”、それに続いた“ワンダフル・ライフ”もともに『アモ』からの選曲であり、同作が今回のライヴの軸となっていたことは間違いない。が、過去のアルバムからの楽曲群をも現在なりのクオリティと説得力をもってアップデートされた状態で届けてくれるこのバンドに対し、彼らの音楽と長い年月を過ごしてきたファンたちは、この上ない頼もしさを感じていたに違いない。
photo by Kazushi Toyota
以降もBMTHのステージは過去さまざまな時代を自在に行き来しながら、あくまで『アモ』に集約された今現在の時制に忠実なパフォーマンスを披露し続けた。計4名のパフォーマーを交えての、映像とのシンクロニシティなどを伴ったスタイリッシュなステージングは、彼らのライヴが焦燥感や怒りに導かれていた時代とは真逆の趣のものだともいえる。かつてはそうした若い感情のほとばしりや無防備さを躊躇なくさらけ出すことが、限定的な世界のなかでのエンターテイメントとして成立していたともいえる。が、今現在、彼らのライヴは、反骨精神を失わぬまま、より広い世界をも巻き込むことのできる“ショウ”としても成立しているのだ。たとえば、各楽曲に同調しながら映し出される映像が、ある意味いずれも混沌感や意味深長さを伴うものでありながら、色調的にはむしろ明るく、陰鬱な気分を生むような類のものではないという事実も、そうしたBMTHの現在を象徴しているように感じられた。
photo by Kazushi Toyota
途中には衣装チェンジまで挟みながら繰り広げられたこの夜のBMTHのライヴは、時間にすれば約85分という比較的コンパクトともいえるものだった。が、きわめて濃密なそのひとときは満員のオーディエンスに時間を忘れさせ、満足感のみを味わわせたことだろう。そして筆者は、次回はアリーナ・サイズの会場でこのバンドを観てみたいと思わずにいられなかった。ライヴハウスのような熱気とアリーナのようなスケール感、それを現在のBMTHのライヴは併せ持っているのだ。ステージを去る間際、オリーは自らのお気に入りの国のオーディエンスに対し、11月の再会を予告していた。その言葉の真意はまだ明かされていないが、とにかく次の機会が楽しみでならない。そして今回の好 機を逃した人たちには、次回こそ彼らの現在の姿を確実に目撃して欲しいものである。
増田勇一
2019年8月19日
"SUMMER SONIC EXTRA @新木場STUDIO COAST"
Set List
MANTRA
Avalanche
House of Wolves
Medicine
Wonderful Life
Shadow Moses
Happy Song
Mother Tongue
Can You Feel My Heart?
Sugar honey Ice & Tea
Nihilist Blues
Activist
Follow You
—アンコール—
Drown
Throne