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――ヴァレリー・アファナシエフ
現代クラシック・ピアノ界の鬼才、ロシアのピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフの最新アルバムです。アファナシエフは1947年モスクワ生まれ、ソ連の英才教育システムの中でヤーコフ・ザークとエミール・ギレリスという二大巨匠に師事し、ロシア・ピアニズムの伝統を受け継ぎつつ、独自の個性を発揮してきたピアニストとして知られています。
ピアニストのみならず、小説家・文学者としての顔も併せ持ち、「展覧会の絵」や「クライスレリアーナ」などのピアノ曲を題材とした戯曲をもモノしてしまう多彩な才能を兼ね備えたアーティストです。日本文学にも造詣が深く、源氏物語や俳句の世界に深く傾倒し、そのことをテーマにしたドキュメンタリー「漂泊のピアニスト アファナシエフもののあはれを弾く」がNHKによって制作され、繰り返し放映されています。
ピアノ界きっての個性派アファナシエフが、ソニー・クラシカルでの録音を熱望し、選んだ曲目は何と、ベートーヴェンの最も有名なピアノ・ソナタ「熱情」「月光」「悲愴」の3曲。ベートーヴェンはアファナシエフにとって、シューベルトやバッハとならぶ重要なレパートリーであり、「バガテル集」「ディアベリ変奏曲」「最後の3つのソナタ」「ピアノ協奏曲全集」など、そのピアノ作品の録音にはこれまで積極的に取り組んできましたが、この最も人口に膾炙した3曲はこれまで録音したことがありませんでした。自分が「最高の演奏ができる」という強い確信を持つまで、新しい作品をレパートリーに加えないアファナシエフが、68歳にして生涯初めて録音するこの名ソナタ3曲。ソニー・クラシカルには過去にグレン・グールド、ウラディミール・ホロヴィッツ、ルドルフ・ゼルキンという20世紀の3大ピアニストが残した、それぞれに個性的な三大ソナタの録音があり、今でも演奏史上重要な歴史的名演として聴き継がれていますが、このアファナシエフによる新録音もその録音史に名を連ねることは必至。3曲の演奏時間がトータルで75分58秒にも上っており、おそらくこの3曲の演奏時間としては最も長い録音ではないかと思われます。
アファナシエフは、3曲のうち、「悲愴」「月光」の2曲は2015年6月の来日公演でも取り上げる予定ですが、「熱情」については「録音で演奏するのみ」と言明しています。アファナシエフは決してグールドのような、録音だけに特化するアーティストではありませんが、「熱情」については「録音でのみ自分の解釈を披露する」という道を選択しているだけに、今回のアルバムは非常に貴重なリリースといえるでしょう。
ここ10年ほど演奏会でのライヴ録音だけをリリースしてきたアファナシエフですが、今回はセッションとしてじっくりと音楽に向き合うことを選びました。アファナシエフ旧知のドイツ人の名プロデューサーで、これまで「ブラームス:間奏曲集」「シューベルト:最後の三つのソナタ」「バッハ:平均律クラヴィーア曲集全曲」などの名盤を共に生み出してきたゲルハルト・ベッツを起用して、この3曲のソナタに挑みました。そして、「君がいなかったらこんな充実した録音にはならなかっただろう」と自ら述懐するほど篤い信頼を置くベッツとの共同作業は、見事な形として実を結んでいます。
収録場所は、ハノーファーのベートーヴェンザール。ドイツの名ピアニスト、故ヴィルヘルム・ケンプが愛したホールで、名盤として知られるドイツ・グラモフォンへの「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集」の録音に使った由緒ある会場です。ベートーヴェンザールの温かみのある優れたアコースティックの中で響き渡るアファナシエフ独特の美しいピアノのソノリティをDSDテクノロジーが余すところなく捉えています。アファナシエフにとって初のSA-CDハイブリッドとなります。また24/96のハイレゾおよびDSD配信でも発売されます。
小説家・文学者としての半身を持ち、自分のCDには好んでエッセイを寄稿することで知られるアファナシエフですが、今回も「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンに寄す」「アパッショナータ(熱情)」「私はベートーヴェンだ」「ハーモニー」「演奏」の5編のエッセイを寄稿。過去の文学作品を広く深く渉猟する文学者アファナシエフならではの個性的な筆致が冴えるこれらのエッセイは、自身の演奏と補完し合って、アファナシエフの音楽観を伝えています。アファナシエフの著書2冊の翻訳を手掛けている田村恵子氏訳。
初回限定盤には、ハノーファーでの録音セッションの模様を収録したDVDが付きます。セッションでの演奏映像をたっぷりと交えつつ、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ、音楽、ギレリス、音を聴くという行為などについて雄弁に語るアファナシエフの姿を収めています(日本語字幕付き)。笑みを絶やさず、大きな身振りを加えつつ音楽や演奏について個性あふれる表現(英語)で語りつぐさまは、この稀有の芸術家の別の側面を覗かせてくれます。なおこれまでアファナシエフの映像は市販されたものがなく、今回が初めての映像ソフトとなります。