来日中のアファナシエフが、3年がかりのプロジェクト「TIME」について、大いに語る!
ヴァレリー・アファナシエフ 最新インタヴュー
インタヴュー・文 青澤隆明
ヴァレリー・アファナシエフが2年ぶりに来日した。ピアニストとしての演奏活動に関するかぎり、近年はとみに重要な拠点となってきた日本で、今年から3年にわたるリサイタル・プロジェクトTIMEを銀座の王子ホールでスタートさせる。
「音楽史上の時」を訪ねるプロジェクトで、アファナシエフ自身にとっての愛奏曲ばかりが組まれている。まさしく温故知新ともいうべきプログラムであるだけに、70代の半ばを唯我独尊で歩むアファナシエフが、現在の自由な心境と人間性を反映しつつ、史上の名作に臨みつつ、西欧音楽と彼の演奏解釈のエッセンスを聴かせるユニークなシリーズとなるだろう。
TIME第1年は、バッハの『平均律クラヴィーア曲集第1巻』から8組の「プレリュードとフーガ」を始まりに弾き、後半にはモーツァルトのハ短調の幻想曲K.475とソナタK.457を採り上げる。来日後の隔離期間が明けたところで、アファナシエフと再会し、話をきいた。
「Covidウィルスの感染症拡大によって、私の精神生活が突然大きく変わるということはありませんでした。実際には、モスクワの友人がふたり亡くなりました。私が暮らすブリュッセルの本屋は一時期すべて閉まりました。今年4月にはモスクワでのリサイタルでショパンを弾きましたが、来日直前の演奏会のために入念に準備していたブラームスのピアノ協奏曲第2番の機会はやむなく中止になってしまいましたし、ブリュッセルの音楽院で行う予定だったのマスタークラスも延期されたままです。しかし、どんな状況にも光は見出せるもので、必ずしもポジティヴな面がないわけではありません。私は内面的に充実した時間を過ごしてきました」。
3年をかけた『TIME』プロジェクトは、6枚組CDボックス『TESTAMENT』の先に立つ、集約的なブログラム構成のようにみえる。いずれもアファナシエフにとっての名曲再訪の好機となるのだろう。
「『TIME』というのはこの場合、ただ『音楽の歴史』という意味です。時間に対する私のアティテュードということではなく。後者についてお話しするなら、2年前に静養していろいろと考えていたとき、私の人生においては、あらゆることがあるべき時にあるべき場所で起ったのだと思いました。ソヴィエト連邦から亡命したのも正しいタイミングでした。1974年に西側に定住し、それから12年間かけてLPレコードのコレクションを築けたこともよい時期だったからです。私の人生に起こったことは、つねに正しい時を得て起っていたのです。すべては計画されたものではなく、もうすぐ75年にもなる私の人生は幸せな奇跡のようなものだと感じます。私の執筆活動の進展についてもそうですし、自分のピアノ演奏のスタイルについても同じことが言えます。『TESTAMENT』のCDボックスも、私自身の背景を映し出すクロノロジーとしても大切なものになりました」。
そのようにして、ここから展開される『TIME』も、時宜を得た取り組みとなるのだろう。
「これらのプログラムは、私のパーソナルなピアノの歴史というべきものです。シルヴェストロフは私がもっとも重要視する現代の作曲家で、彼の作品で『TIME』をしめくくるのはとても美しく思われます。もちろん響きの繊細さも魅力ですが、心理学的な意味で言うなら、過去から適切ななにかを得て自由を獲得するという意味でも実に重要な作曲家です。」。
シルヴェストロフは『オーラル・ミュージック』の連作、ドビュッシーは『前奏曲集第1巻』からの抜粋、そしてプロコフィエフは『TESTAMENT』にも収録された初期作『サルカスム(風刺)』と、独創的な天才たちの作品が組み合わせられる。その前年、2022年にはシューベルトの『楽興の時』と、ブラームスの『6つの小品』 op.118と『2つのラプソディー』op.79をアファナシエフは弾く。
「私はシューベルトとブラームスとともに長い時間を生きてきました。シューベルトについてはとくに多くのテクストを著してもいます。シューベルトとブラームスの孤独は、それぞれに重要な意味をもっていますね。そして、シリーズは当然、バッハで始めるべきです。バッハなしに音楽の歴史を考えることはできませんし、とくに『プレリュードとフーガ』という作品は西洋音楽の基礎です。残念ながら、いまの私はこれらの作品を暗譜では弾けませんが、かなり前には全曲演奏もしています。ですが、すべてを暗譜で記憶しているのには飽いてしまったので、それからだいぶ時を経たいま、おそらくは15時間くらいかけて曲の記憶を地図のように蘇らせなくてはなりません。モーツァルトのハ短調ソナタは、かつて師のエミール・ギレリスの家でも弾いたことがありました。私がこどものとき初めて聴いたピアノ・レコーディングのひとつでもあります。ファンタジーも傑作で、ともに演奏されることがまた大切です」。
2021年11月のリサイタル・ツアーは王子ホールでのTIME第1年の後、18日に大阪のフェニックスホール、20日に神奈川県の茅ヶ崎市民文化会館でのリサイタルを控えている。そちらのプログラムは、バッハの『プレリュードとフーガ』第1巻の選集で始まり、後半にはブラームスの『4つのバラード』op.10と『2つのラプソディー』op.79が採り上げられる。
「バッハとブラームスはそれほどかけ離れてはいませんし、形式の上でも近いものがあります。もちろんTIMEの3つのプログラムの他にも、演奏すべき傑作はたくさんありますから、今回はバッハで始めたところに、ブラームスの名作を組み合わせました」。
ヴァレリー・アファナシエフの独特の境地、彼のピアノの豊潤な響きと充ち溢れるハーモニーのうちに、西欧音楽の至宝を訪ねる得難い時間となるだろう。
ヴァレリー・アファナシエフ ピアノリサイタル 茅ヶ崎市民文化会館大ホール
日付 2021年11月20日(土)
開催場所 茅ヶ崎市民文化会館 大ホール
上演・開催時間 14:00開演(13:20開場)
入場方法 全席指定・税込 S席:6,500円 A席:5,000円 学生席:2,500円
*学生席は文化会館と茅ヶ崎市楽友協会のみの取り扱いとなります。 *未就学児の入場・同伴はご遠慮ください。託児サービス(有料・事前予約制)をご利用ください。
*市民文化会館にてチケット販売中
世界屈指のバッハ国際コンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝を飾り、ヨーロッパをはじめ世界各国で演奏活動を続ける鬼才、ヴァレリー・アファナシエフが来日! ピアニストであり、指揮者であり、作家・俳優でもある彼が奏でる情熱的な音の世界に、身をゆだねてみませんか?
【出演】
ヴァレリー・アファナシエフ(ピアノ)
【プログラム】
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より 8つの前奏曲とフーガ
第1番 ハ長調 BWV846
第2番 ハ短調 BWV847
第7番 変ホ長調 BWV852
第8番 変ホ短調 BWV853
第21番 変ロ長調 BWV866
第22番 変ロ短調 BWV867
第23番 ロ長調 BWV868
第24番 ロ短調 BWV869
ブラームス:4つのバラード Op.10
2つのラプソディ Op.79
*出演者の都合により曲目等が変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。
*終演後のご面会、及びロビー、楽屋口等での出演者の出待ちはお断りお断りいたします。また、出演者へのプレゼントはお預かりすることが できませんので予めご了承ください。
主催:茅ヶ崎市楽友協会 共催:公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団
託児サービスあり(有料・事前予約制) お電話で「イベント託児・マザーズ」へ TEL:0120-788-222