『天国と地獄 LIVE AT BUDOKAN 1987』アンコール上映 1月30日 上條淳士氏トークイベントレポート
1978年にレーベル設立45周年を迎えた “EPIC・ソニー”(現在エピックレコードジャパン)。これを祝した様々なイベントやコンピレーション盤リリースなどが行なわれている。昨年は“毎木ライヴ・フィルム・フェスティバル2023”が全国の映画館で開催されて話題となったが、この際も上映されて好評を博したThe Street Sliders『天国と地獄 LIVE AT BUDOKAN 1987』が、アップリンク吉祥寺で2月8日(木)まで14日連続でアンコール上映されることに。『天国と地獄 LIVE AT BUDOKAN 1987 40th Anniversary Edition』として製品化されたアイテムではあるが、アンコール上映に至っているのはデビュー40周年で復活を遂げたThe Street Slidersに対するファンの期待感、そしてその飢餓感に見事応えた企画と言える。そもそも彼らにとって初の日本武道館公演を収めていたのはライヴアルバム『THE LIVE!〜HEAVEN AND HELL〜』で、長らく10曲しか聴けなかったわけだが、2023年発表の『天国と地獄〜』で全21曲、103分の完全版映像で披露されたのは衝撃的だった! 映像は当然新たに編集されるとともにレストアされており、オリジナルマルチテープからミックスされて生まれ変わったサウンドも実に見事で、もはや1987年時点の音に聴こえない鮮烈さがある。
上映記念としてアップリンク吉祥寺のエントランスではフォトグラファー三浦麻旅子氏による80年当時、そして再結集後の写真が展示されるとともに、漫画家・上條淳士氏が描いたThe Street Slidersのイラスト原画を展示。入場者特典として一週目の“HARRY”と二週目“ONE DAY”で異なる絵柄による上條淳士氏のポストカードがプレゼントされる企画も。しかもThe Street Slidersにちなんだカクテル、かの名盤に因んで“SCREW DRIVER”と称されて期間限定発売されているのも痛快である。
さて、この日本武道館が行なわれたのが1987年1月30日であり、その37年後の上映会で開催されたのが、先述の上條淳士氏がゲストとして登壇したトークイベントだ。幸いにも司会役に抜擢されたのがこの僕なのだが、何せ僕自身が上條氏の代表作『TO-Y』を筆頭に上條作品に多大なる影響を受けてきた一人であり、個人的にも楽しみにしていた催しである。
87年の武道館公演にも足を運んだというファンも多数駆けつけていた上映会だったが、上條氏も足を運んでいた一人である。なお上條氏は26日に行なわれた三浦麻旅子氏とDONUT 森内淳氏のトークイベント会でも映画をご覧になったそうで、『天国と地獄〜』の映像から伝わってくる緊張感、そしてあえて武道館を武道館としては撮ろうとしていないような、坂西伊作監督によるカメラワークが斬新だったそう。そして、自身の漫画家としてのプロデビューはThe Street Slidersのデビューと同じ1983年というのも縁深いものがある。展示中の原画は、当時のPATI-PATI誌、月刊カドカワ誌の連載“間”のために描かれたもの。中でもポストカードに採用された月刊カドカワ用に描かれたイラストは長年原画が行方不明だったそうだが、昨年ソニーの倉庫から発掘された。個人的に当時、『TO-Y』におけるリアリティあふれる描写…特になんのデフォルメもされず描かれた楽器のリアルさに感銘を受けたものだが、上條氏のThe Street Slidersにまつわる作品は『TO-Y』と地続きの世界観で堪能できる。その感覚や印象は今も変わることなく、最高の瞬間を切り取って具現化してみせる上條作品の構図に改めて感銘を受けた次第。なお、オリジナルビデオアニメーション『TO-Y』は2022年にBlu-ray化も叶ったが、この2月21日には『TO-Y Original Image Album』がアナログLPとしてリイシューされる。本作にはThe Street Sliders「嵐のあと」が収録されているが、他のバラエティに富んだ内容も含めてプロデューサーのPSY・S 松浦雅也氏主導だったそう。本作のためにリマスタリングされたことで、オリジナルのレコード、CDと比べると音質も良くなったという。
時間が押し始めた終盤、「もっとスライダーズの話をしましょう」とさらに切り出した上條氏から、逆に『天国と地獄〜』の感想を訊かれるシーンもあった。再結集後のThe Street Slidersと『天国と地獄〜』では使用している楽器も異なっているし、現在のヴィンテージギター主体でより新たな解釈も交えてリズム&ブルースの真髄を追究しているアプローチも見事だが、『天国と地獄〜』当時のニューウェーヴィに尖っているアプローチの切り口もカッコいいと答えた僕だが、「(『天国と地獄〜』は)パーカッションやホーン隊のサポートも入っていて、大所帯の音なんですよね。去年の(四人だけでプレイした)武道館とはまた違う遊びのある音」とは上條氏談。数日前に土屋公平氏と飲んだそうで、『天国と地獄〜』のサウンドチェックした際に「音は文句のつけようがない。映像に関してはこんなに跳ねていたかな(笑)」と仰っていたそう。その上で「85年の武道館と去年の武道館では全く同じことを考えていたんですって。それはきちっと演奏すること…ものすごく真面目じゃないですか? 僕はそういうスライダーズの真面目なところが好きなんです。それゆえの緊張感…HARRYはちょっと笑ったりもするんだけど、あの緊張感がやっぱり良いんですよね」と上條氏は語っていた。
止まらないスライダーズ談義ではあったがあっという間に30分が経ってしまう…。残念ながらここでタイムオーバーにはなったが、アンコール上映は2月8日(木)まで続く。2日からは来場者特典のポストカードの絵柄も変わるのでそれもお楽しみいただきつつ、3月からの全国ツアーを待ちたい。
文:北村和孝(元Player編集長) 撮影:島田 香
The Street Sliders Rockʼn Roll Chronicle 発売記念
ライヴ・フィルム『天国と地獄 LIVE AT BUDOKAN 1987』
(劇場版5.1chデジタル・リマスター)アンコール上映
●期間/1/26(⾦)〜2/8(⽊) 14⽇間
●場所/吉祥寺パルコB2F アップリンク吉祥寺スクリーン3(98席)
●チケット/4,000円税込
チケット販売URL 吉祥寺アップリンク https://joji.uplink.co.jp/movie/2024/20331
2月21日発売
『TO-Y Original Image Album』特設サイト