ザ・ファイヴ・ブラウンズ
ザ・ファイヴ・ブラウンズは、若い姉弟によるクインテットで、全員が腕のたつコンサート・ピアニストである。彼らは、複数のピアノによる演奏という伝統を蘇らせたが、そういう演奏は、19世紀の中ごろ、「モンスター・コンサート」が多くの聴衆を集めていた近代ピアノが最初に生まれた時期にまでさかのぼるのである。ブラウン家の5人(デザレー、デオンドラ、グレゴリー、メロディー、ライアン)は、それぞれはっきりとした、他とは違う鍵盤の才能を持ち、ニューヨークのジュリアード音楽院で腕を磨いた。ジュリアードでは、彼らは5年間にわたって同時に学んだのだ。彼らは、クラシックのピアニストとしては異例のアンサンブル(5台のピアノで演奏し、さまざまな組み合わせで演奏する)を結成し、運命を共にすることを決めた。

 「オープラと60分」に出演したり、「ニューヨーク・タイムズ」や雑誌「ピープル」、また「ロサンゼルス・タイムズ」や「サンデー・ロンドン・テレグラフ」などに登場したりすることで世間の注目を集めた後、ザ・ファイヴ・ブラウンズは、2005年2月にRCAレッド・シール/ソニーBMGマスターワークスから自ら「ザ・ファイヴ・ブラウンズ」というタイトルの最初のアルバムをリリースし、レコード・デビューを果たした。このアルバムはたちまちビルボードのクラシック・チャートに顔を出し、10週連続で第1位を維持した。

 「ほとんどのクラシックの音楽家が夢にしか見られない成功を、ザ・ファイヴ・ブラウンズはキャリアの初期に達成してしまった」とアンドリュー・ファラク=コルトンは、「グラモフォン」誌北アメリカ版の5月号の「もう1つの有名な5人組」というインタビューの冒頭で書いている。彼は続けて、グレゴリーが熱く語る「私たちの演奏する音楽は時代を超越したものです」という言葉を引用している。「だからこそ、クラシック音楽は今でもいたるところで聴かれているのです」。デジレーもそれには賛成だ。「偉大な文学と同じように、クラシック音楽が長続きしたのには理由があるのです。音楽は、性別、文化、民族の境界を超えて人々と関わっているのです。私たちがしているのは、音楽を時代に合うように素敵なものにしているだけなのです。でも、音楽が羽目をはずしたものになるわけではありません。確かに聴衆の数は減ったり増えたりするかもしれませんが、でも、音楽はこれからもずっとそこにあるのです」。

 彼らの録音に関して、「オーディオファイル・オーディション」は「ザ・ファイヴ・ブラウンズは、今日のクラシック音楽界の最大の驚きだ」と書いている。「彼らの演奏は実にうまいし、編曲も最高だ」。

 辛口の批評で名高い「シカゴ・トリビューン」には、「この子供たちは万事を心得ている。これは間違いない」とある。「確かに、ブラウン家の50本の指は、驚くほどコントロールされており、その愛にあふれたピアノ演奏は、多くの人々の心に響くものだ」。

 「ヘラルド・トリビューン」のサラソタ版(フロリダ州)には、「彼らは本物だ。このデビュー録音において、一緒に演奏してもソロで演奏しても実に美しい」とある。「技術的な面だけに関しても、これはまったくエキサイティングな演奏だ。同時にまた、解釈の洞察力においても将来性においても、彼らの演奏は本当に満足できるものである」。

 ザ・ファイヴ・ブラウンズがアンサンブルとして正式にコンサートでビューを行なったのは、2004年の春、5人が生まれたヒューストンでのことだった。彼らはそこで、CDにも収められている作品を演奏した。5台のピアノのために編曲された管弦楽作品に加えて、演奏者の組み合わせやレパートリーによって、個々の芸術性が光り輝くことになった。デジレーとデオンドラは、ピアノ・デュオとしての共同作業に専念してきた。批評家たちは、「ダイナミックなデュオ」、「テレパシーに近いような相互理解を示している」、「洗練され、うっとりさせる魅惑に満ちている」、「聴衆は口をあんぐり開けたままだ」などと述べた。グレゴリーは、ダイナミックな個性と技術を備えた「真の技巧派ピアニスト」である。批評家によれば彼はすでに「全盛期に向かっている。彼は、聴衆を刺激し、優雅な熱狂へと誘うのだ」。メロディーの演奏は「エレガントで、実に表情豊かであり、豊かなありあまるほどの音色を提示する」。そして、リャンは「想像力豊かなストーリー・テラーであり、なめらかな指と劇的なものに対する本能的な感覚を持っている」。



 ザ・ファイヴ・ブラウンズは、キース・ブラウンとリサ・ブラウンという地味で気取らないユタ州の夫婦の子供たちである。二人は子供たちをモルモン教の信仰に従って育ててきた。リサはかつてオペラのレパートリーを学び、最初から子供たちに音楽のある生活をさせたいと望んでいた。ピアノがその出発点だった。

 「それから、彼らの音楽が独自の活気を帯びるようになったのです」とキースは言う。3歳くらいで兄妹がピアノのレッスンが受けられる歳になると、それぞれがはっきりとした才能と関心を示した。才能に恵まれていただけではなく、彼らは自分のやっていることを楽しいと思っていた。キースによれば「一番上のデジレーがまだ小学生だった6歳の時、世界中の誰もがピアノを弾けるわけではないということを知ったのだと思います。彼女にとっては、ピアノは、食べたり寝たりすることと同じように生活の一部だったのです」。

 キースとリサの第一の関心は、子供たちが幸せで健康で、音楽の喜びが与えられることだった。二人ともまじめなピアノの名手のクインテットを育てようという計画は持っていなかったが、多くの親とは違って、彼らは、才能に恵まれた子供たちが成長するにつれてピアノへの興味を失うところを見ることはなかった。それどころか、リサは、子供たちのスケジュールの管理に追われなければならなくなった。それは、11歳になるまで毎日、子供たちのレッスンの送り迎え、3時間のレッスンの間一緒に座っているというフルタイムの仕事だった。しかし、その過酷な仕事は成果を挙げた。子供たちはそれぞれ、まだ9歳という年齢で、主要なオーケストラとの共演を果たしたのである。

 デザレーが大学進学を考え始めた時、1歳年下のデオンドラは姉に付き添うためにもっと勉強しなければならないと決心していた。家族は音楽学校や奨学金のことを調べ始めた。数多くの返信があり、そこにはアメリカの最高の音楽学校や音楽院の奨学金の申し出も含まれていた。家族が選んだのはニューヨークの名門ジュリアード音楽院だった。1年後, グレゴリー、メロディー、ライアンもまたジュリアードに入学し、ブラウン家は全員、5台のピアノとともに、ユタ州からニューヨークへと移り住むことになった。

 ザ・ファイヴ・ブラウンズがいかにして、見出しに載るようなレコーディング・アーティストになったかというのも、それ自体1つの物語である。たくさんのベストセラーのレコードを生み出してきたプロデューサー、ジョエル・ダイアモンド(彼は現在5人のマネージャーでありエグゼクティヴ・プロデューサーでもある)は、最初にライアンを見出した。それは、彼がたまたまPBS(アメリカ公共放送網)でリャンが演奏しているピアノ・コンクールについてのドキュメンタリーを見た時のことである。ダイアモンドにわかっているのは名前だけだったので、彼はユタ州に住むすべての「ブラウン家」に電話をして、ついにその家族をつきとめたのである。その後、彼は、ライアン以外にも4人の優れた若者がその家にいることを知った。彼は、すぐさま、その5人の子供を一緒に売り出す可能性を感じとった。若き5人のブラウンたちも、どうやってキャリアを開拓したいかについてしっかりした考えを持っていた。幸い、ダイアモンドのビジネスに対する本能とブラウンたちの芸術的野心はぴったりと合い、共同関係が生まれたのである。

 デザレー、デオンドラ、グレゴリー、メロディー、そしてライアンは、自分たちの生活をクラシック音楽に捧げた後、青年に成長し、プロとしてのキャリアを始めたが、クラシックの聴衆は減少し、また高齢化しているという厳しい現実も知った。クラシックのレコード産業にも劇的な変化が起こり、そのルールが書き換えられ始めた時、彼らは大胆で積極的な表明を行なった。自分たちの才能や、趣味や、大衆に音楽を広める力などを柔軟に利用開拓し、今日のクラシック音楽の受け入れ方そのものを変えようというのだ。クラシック音楽の人気を上げようという決意のもと、彼らは新しい世代(つまり彼ら自身の世代)の人々にアピールしたいと思っている。その世代はポップスによって育ち、ザ・ファイヴ・ブラウンズが知っていることをまだ知らずにいる世代である。それは、「クラシックだってカッコいい」ということである。
デザレー
Desirae Brown

長女/26歳 1979年1月26日生まれ

 

 何が私を音楽に、そしてピアノに引き付けるのかわかりません。私にわかっているのは、ただ、熱中できるという特権が自分にあり、ある意味で私が非常に恵まれた人間であるということです。

★好きなアーティスト/音楽: BREAKAWAY ,(ケリー・クラークソンが参加しているアルバム)ストラヴィンスキーの「春の祭典」に合わせてダンスするのが好き。

★好きな作曲家/作品: ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、バーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」

★好きな映画:「アメリ」
デオンドラ
Deondra Brown

次女/25歳 1980年4月17日生まれ

 

 この先何が待っているかはまったくわかりません。だからこそ未知のものは面白く、わくわくするものなのです。音楽を通して、この感情の高まりは私たちの中にある種の刺激を生み出し、私たちを変えたり、影響を及ぼしたりします。感情がなければ、音楽も人生も何も描かれていないキャンバスにすぎません。一つ一つの経験が新しい形や、色、広がりを私たちの人生に与えてくれるのです。

★好きなアーティスト/音楽: カントリー音楽以外なら何でも聴きます。特に好きなのは、コールドプレイ、U2、レディオヘッド、ジェシカ・シンプソン、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラなど。

★好きな映画: 「ネバーランド」「ロード・オブ・ザ・リング」

★趣味: 猫の世話、映画鑑賞、山での生活(ナチュラル派)
グレゴリー
Gregory Brown

長男/23歳 1982年9月28日生まれ

 

 ピアノを弾いていると、そこには自分の小さな世界が広がります。私がピアノを弾くのはそれが好きだから、それが楽しいからです。私と同世代の人々も機会さえあれば、音楽を同じように感じることができるだろうと確信しています。

★好きなアルバム: マドンナの「Ray of Light」、U2の「ヨシュア・トゥリー」、Dr.Dreの「2001」、ノラ・ジョーンズの「Come Away With Me」、Hip Hopも好き。

★好きな作曲家と作品: シューマンの「クライスレリアーナ」、ブラームス「ソナタ第3番」、ショパン「ソナタ第2番」・・・・、この他たくさんあります。

★好きな映画:「アメリ」、「ショーシャンクの空に」、「帝国の逆襲」、「マルホランド・ドライブ」、「ネバーランド」、「ロード・オブ・ザ・リング」、「ロスト・イン・トランスレーション」、・・・・、etc.

★趣味:ピアノを弾くこと、時間の浪費
メロディー
Melody Brown 

三女/21歳 1984年3月16日生まれ



 私と同じ世代なら、自分の愛や怒りや悲しみを表現する唯一の道は、ラジオから流れてくる最新のポップソングだと信じているかもしれません。その人が知らないのは、私の演奏する音楽がどんなポップソングよりも強烈なものであるということです。音楽と私の生活とが無関係であるはずはありません。それは、文字どおり私と言う人間の延長なのです。間違いなくリアルな感情を経験しないと、音楽をすることは出来ないのです。

★好きなアーティスト: ブリトニー・スピアーズ、ノラ・ジョーンズ、マドンナ、コールドプレイ、ジャズ

★好きな作曲家: 誰って決められないけど、最近では「印象派」の作品(ドビュッシーやラヴェル)。サティも好き。

★好きな映画: 「The money pit」「Napoleon Dynamite」など。

★趣味:テニス、バスケット・ボール、映画鑑賞
ライアン
Ryan Brown 

次男/20歳 1985年8月26日生まれ



 僕は、聴いている人がわくわくするような環境を作り出したい。そういう気分をクラシックの音楽家は獲得しなればならないと思います。若い世代の目を今とは別の種類の音楽、つまり僕の選ぶ音楽、絶対に眠くさせない音楽に向けさせることが楽しいのです。これこそが、私が子供たちのために変えられたらいいと思っているものの1つです。

★好きな映画: 「ロード・オブ・ザ・リング」、「スター・ウォーズ」、コメディ作品も好き。

★趣味: 踊ったり、たむろしたりすること。ビデオ・ゲーム