『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』曲目解説(各曲のオリジナル・ヴァージョンについて)
<『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』曲目解説(各曲のオリジナル・ヴァージョンについて)>
1. ONLY THE STRONG SURVIVE オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ
● Written by Jerry Butler, Kenneth Gamble, and Leon Huff
● Performed by Jerry Butler (1968, #4 Hot 100, RIAA-certified Gold), Elvis Presley (1969)
ジェリー・バトラー、ケニー・ギャンブル、レオン・ハフが作詞作曲し、ジェリー・バトラーが68年に歌った曲で、彼のキャリアで最も成功したシングル。全米4位、R&Bチャートでは首位に輝いた。そのクールなバリトンの歌声から「アイス・マン」というニックネームのバトラーのキャリアの始まりはカーティス・メイフィールドらと組んだインプレッションズ。58年に〈フォー・ユア・プレシャス・ラヴ〉を作曲して歌い、トップ10ヒットにした後、ソロに転じた。この時点ではまだ無名に近かったギャンブル&ハフはその後71年にフィラデルフィア・インターナショナル・レコードを設立し、フィリー・ソウルと呼ばれた洗練されたサウンドを持つヒット曲の数々で70年代の音楽界を席巻することになる。
ブルースのアレンジは1969年のエルヴィス・プレスリーのカヴァー(邦題「強く生きよう」)に近いかもしれない。
2. SOUL DAYS feat. Sam Moore ソウル・デイズ feat. サム・ムーア
● Written by Jonathan Barnett Kaye
● Performed by Dobie Gray (2000)
ブルースもコンサートで歌うことのある73年の全米第5位の大ヒット〈ドリフト・アウェイ〉(邦題「明日なきさすらい」)で有名なテキサス州出身の歌手、ドビー・グレイの99年の作品。ブルースが大ファンでもある、60年代にスタックスで〈ホールド・オン〉や〈ソウル・マン〉他、多くのヒット曲を飛ばした人気デュオ、サム&デイヴのサム・ムーアがゲスト・ヴォーカルとして参加。
3. NIGHTSHIFT ナイトシフト
● Written by Francine Golde, Dennis Lambert, and Walter Orange
● Performed by the Commodores (1985, #3 Hot 100, RIAA-certified Gold, Grammy Award winner)
それまでのヒット曲の大半を書いて歌っていたライオネル・リッチーが脱退してソロに転じたあと、将来を不安視されたコモドアーズが放った起死回生の大ヒット曲。85年の全米第3位を記録。その前年に亡くなった偉大なR&B歌手2人、マーヴィン・ゲイとジャッキー・ウィルソンを追悼する曲。彼らのヒット曲「ホワッツ・ゴーイング・オン」ちウィルソンの67年の「ハイヤー・アンド・ハイヤー」の歌詞が引用されている
4. DO I LOVE YOU (INDEED I DO) ドゥ・アイ・ラヴ・ユー
● Written by Frank Wilson
● Performed by Frank Wilson (1965)
アルバムに先駆けて発表されたファースト・シングル。モータウンのカタログのなかでも最もレアな曲のひとつで、究極のノーザン・ソウルのトラックとして知られる。シュープリームスやエディ・ケンドリックスなどのヒット曲を手掛けたソングライターでプロデューサーのフランク・ウィルソンが65年に録音するも発売されなかった曲。この曲は彼自身のシングルとして発売される予定になっていたが、社長のベリー・ゴーディが彼は裏方として働いた方がその才能を活かせると考え、デトロイト本社でプロデューサーとして契約すると決めたため、プレスされた250枚のデモ盤は数枚を残し、すべて廃棄された。それから10年少し経って、英国で盛り上がるノーザン・ソウル・シーンでたちまちこの曲が大人気となり、希少なシングル盤はコレクターの間で高値を呼び、09年に取引されたときには、なんと25,742ポンドの値が付いたという。
5. THE SUN AIN’T GONNA SHINE ANYMORE 太陽はもう輝かない
● Written by Bob Crewe and Bob Gaudio
● Performed by Frankie Valli (1965), The Walker Brothers (1966; #13 Hot 100), Cher (1996, #26 on UK Singles Chart)
原曲はニュージャージー州の先輩グループ、フォー・シーズンズのフランキー・ヴァリのソロ録音。ヴァリ版の翌年66年にウォーカー・ブラザーズが歌ったものが全米13位とヒットし、ずっと有名となった。日本でも非常に人気の高かったウォーカー・ブラザーズはアメリカのバンドながら、英国に渡って成功したが、彼らのサウンドはフィル・スペクター・サウンドの影響がとても強いものだった。Eストリート・バンドのクラレンス・クレモンズは85年のソロ・アルバム『ヒーロー』で、ダーリーン・ラヴを客演に迎え、この曲を取り上げていた。
6. TURN BACK THE HANDS OF TIME ターン・バック・ザ・ハンズ・オブ・タイム
● Written by Jack Daniels and Bonnie Thompson
● Performed by Tyrone Davis (1970, #3 Hot 100, #1 R&B Singles Chart, RIAA-certified Gold)
「ロマンティックなシカゴ・ソウルの王様」タイロン・デイヴィスの70年のヒット曲。彼にとって2度目のR&B第1位であり、全米第3位、R&B1位という最大のヒットとなった。タイロン・デイヴィスは、彼の滑らかな歌唱のスタイルを強調するオーケストレーションを施したヒット曲を次々と生み出し、シカゴ・ソウルの発展に一役買った。(日本では「時を戻しておくれ」という邦題がついていた時代もあった)
7. WHEN SHE WAS MY GIRL ホエン・シー・ワズ・マイ・ガール
● Written by Marc Blatte and Lawrence Gottlieb
● Performed by The Four Tops (1981, #11 Hot 100, #1 R&B Singles Chart, Grammy Award-nominated)
60年代にモータウンでヒット曲を量産した男性ヴォ―カル・グループ、フォー・トップスが80年代にカサブランカ・レコードに移籍後の81年の全米11位、R&B1位を記録したヒット曲。原曲は80年代らしいシンセやデジタル音源のキーボードがきらきらしたサウンドを作り出していたがブルースはストリングス、ホーン、オルガンを用いて、ドゥーワップが人気だった50年代のヴォーカル・グループを思い出させるノスタルジックなムードをうまく合体させ、ソロ歌手の曲として作り変えている。
8. HEY, WESTERN UNION MAN ウェスタン・ユニオン・マン
● Written by Jerry Butler, Kenneth Gamble, and Leon Huff
● Performed by Jerry Butler (1968, #16 Hot 100), Al Kooper (1968), Diana Ross & The Supremes(1969), and Grant Green (1970)
ジェリー・バトラーがギャンブル&ハフと共に作曲した68年のシングルで、全米16位、R&B1位のヒットとなった。この曲は彼らのコラボが産んだ3曲目の録音で、ボビー・マーティンの編曲で、後にフィラデルフィア・インターナショナルのハウスバンド、MFSBとして知られるようになるミュージシャンたちとフィラデルフィアのカメオパークウェイのスタジオで録音された。それがフィラデルフィア・サウンドの始まりだった。アル・クーパー、スープリームスのカヴァーも有名。ウェスタン・ユニオンは金融と通信事業の会社で、この歌では主人公があの娘に君が恋しいという電報を送ってくれとせかしている。
9. I WISH IT WOULD RAIN 雨に願いを
● Written by Rodger Penzabene, Barrett Strong, and Norman Whitfield
● Performed by The Temptations (1967, #4 Hot 100, #1 R&B Singles Chart, RIAA-certified Gold), Gladys Knight & The Pips (1968, #41 Hot 100), Aretha Franklin (1983)
67年の年末に発売されたテンプテーションズのヒット曲。R&Bチャートの首位を飾り、全米4位を記録した。悲しみを隠そうとする失恋男の嘆きを苦しげな声で歌い上げる、彼らのレパートリーの中でも特に哀愁を帯びた曲で、曲名は涙を隠すために雨が降ればいいのにという願い。作詞者のロジャー・ペンザベネは妻が他の男と浮気しているのを知ったばかりで、この曲と、テンプテーションズの次のシングルに予定されていた〈I Could Never Love Another (After Loving You)〉の歌詞で、その苦しみを表現した。そして、このシングル発売の1週間後、67年の大晦日に自殺してしまう。
10. DON’T PLAY THAT SONG ドント・プレイ・ザット・ソング
● Written by Ahmet Ertegun and Betty Nelson
● Performed by Ben E. King (1962, #11 Hot 100), Aretha Franklin (1970, #11 Hot 100, #1 for 5 weeks on the R&B Singles Chart, RIAA-certified Gold)
ドリフターズの歌手として〈ラスト・ダンスは私に〉などのヒットを放ち、61年にソロとなってからは、〈スパニッシュ・ハーレム〉や何と言っても〈スタンド・バイ・ミー〉で良く知られるベン・E・キングの62年のヒット曲。R&B第2位全米第11位を記録。70年に同じアトランティック・レコード所属のアレサ・フランクリンがブルージーなピアノを弾きながらカヴァーしたヴァージョンが彼女にとって9回目のR&B第一位で、全米第11位のヒットとなった。(日本では「悲しき思い出」「我が傷心の唄」という邦題がついていた時代もあった)
11. ANY OTHER WAY エニィ・アザー・ウェイ
● Written by William Bell
● Performed by William Bell (1962), Jackie Shane (1963), Chuck Jackson (1963)
ウィリアム・ベルはスタックス・レコードの最も初期のアーティストのひとりで、61年にデビュー。この曲はベルの初期の曲で、失恋の痛手を負いながらも、タフに見せようとしている男の心情を描いている。この曲は米国人歌手ながら、カナダのトロントの音楽界で活躍したトランスジェンダーのソウル歌手、ジャッキー・シェインの歌った録音も知られる。なお、16年にベルはスタックスに復帰してアルバム『This Is Where I Live』を発表。今も現役で健在だ。
12. I FORGOT TO BE YOUR LOVER feat. Sam Moore 愛を忘れて feat. サム・ムーア
● Written by William Bell and Booker T. Jones
● Performed by William Bell (1968, #45 Hot 100), Billy Idol (1986, #6 Hot 100)
ウィリアム・ベルの曲が続く。こちらはブッカーT・ジョーンズと共作した68年のソウル・バラードで、全米第45位、R&Bチャートでは10位という初のトップ10ヒットとなった。冒頭の「近頃、君に愛しているって言っただろうか?」という行は、ヴァン・モリソンの89年の人気の高い曲〈Have I Told You Lately〉の冒頭の行と歌詞もメロディーもほぼ同じで、ヴァンの曲はこれにインスパイアされたのかもしれない。なお、この曲は、86年にビリー・アイドルがロカビリーな感触とダンサブルなビートを加えたアップテンポのロック曲に変えてしまった大胆な解釈でカヴァーしたことでも知られる。彼にとって全米第6位と2曲目のトップ10ヒットとなった。彼はジョージ・フェイスのレゲエ版でこの曲を知って、当初はベルの原曲を知らず、〈To Be A Lover〉という縮めた曲名を使用していた。サム&デイヴのサム・ムーアがゲスト・ヴォーカルとして参加。
13. 7 ROOMS OF GLOOM セヴン・ルームズ・オブ・グルーム
● Written by Lamont Dozier, Brian Holland, and Edward Holland
● Performed by The Four Tops (1967, #14 Hot 100)
67年に全米第14位、R&B第10位となったフォー・トップスのヒット曲。モータウン時代の彼らのヒット曲の多くと同じく、ホランド=ドジャー=ホランドのチームが曲を書いてプロデュースしているが、リード・ヴォーカルのリーヴァイ・スタッブスの迫力ある歌唱をフィーチャーした劇的な曲調とサウンドの作品となっている。愛する人のいなくなった家を「陰鬱な7つの部屋」と呼び、その孤独を表現するサウンドをバックに、リーヴァイが愛する人に戻ってきてほしいと絶望的に懇願する。リーヴァイの歌声は、おそらくソウル・ミュージックの中で誰よりもスリリングでドラマチックな緊張感を持つものだったが、ブルースの歌唱も決して負けていない。
14. WHAT BECOMES OF THE BROKENHEARTED ホワット・ビカムズ・オブ・ザ・ブロークンハーティッド
● Written by James Dean, Paul Riser, and William Weatherspoon
● Performed by Jimmy Ruffin (1966, #7 Hot 100), Paul Young (1991, #22 Hot 100), Joan Osborne with the Funk Brothers (2002)
テンプテーションズの初代リード・ヴォーカリスト、デイヴィッド・ラフィンの兄、ジミー・ラフィンの66年にモータウンから発売されたヒット・シングル。当初スピナーズのために書き下ろされたが、この曲を耳にしたジミーが失恋の悲しみに暮れる男の苦悩を描いた歌詞に共鳴し、頼み込んでこの曲を歌うことになった。全米第7位、R&B第6位、全英第8位の大ヒット、英国では8年後に再発されると、元の順位を上回る第4位となった。(日本では当時「恋にしくじったら」という邦題がついていた。ポール・ヤングがカヴァーした時の邦題は「恋に破れて」)
15. SOMEDAY WE’LL BE TOGETHER またいつの日にか
● Written by Jackey Beavers, Johnny Bristol, and Harvey Fuqua
● Performed by Diana Ross & The Supremes (1961, #1 Hot 100, #1 R&B Singles Chart, RIAA-certified Platinum), Bill Anderson & Jan Howard (1970), The Marvelettes (1970)
● Was the final number at Diana Ross & The Supremes’ farewell concert on Jan 14, 1970
ダイアナ・ロスが独立するにあたり、グループの2人とファンに向けて惜別の情をこめたダイアナ・ロス&スープリームスの最後のシングルとして69年に発表された曲。全米のポップとR&Bの両チャートで首位を獲得した。これは遠くにいる恋人に再会を約束して慰める歌だが、ダイアナとグループの別離に重ねられるだけにとどまらず、69年という発表年から、激動の60年代に別れを告げつつ、その時代に生きた人びとに向けて、実現を求めて運動を行った幾つもの社会問題を「いつか一緒に」実現しましょうと示唆する曲ともなった。
(五十嵐正氏ライナーノーツより一部抜粋させていただきました)
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