ボブ・ディラン 2014年4月10日Zepp DiverCity第9夜ライヴレポート by菅野ヘッケル
昨晩4月10日のZepp DiverCity公演をもって、まずは東京の9公演が終了。東京公演はチケットはすべて即完売。連日神懸かったパフォーマンスを繰り広げ、唯我独尊、我が道を行く、決して迎合しない進化する「最新型」ボブ・ディラン!お次は札幌です!
菅野ヘッケルさんからの昨日の4/10東京最終公演第9夜ライヴレポートです!!
【ボブ・ディラン、2014年4月8日Zepp DiverCity7日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月10日
Zepp DiverCity
今夜は3連チャイムの合図でスチュが弾くアコースティックギターのリフがはじまった。やがて右手からバンドメンバー、最後にボブが登場する。今夜のボブは3日目に着用していたのとおなじオフホワイトの上下、いつもの黒白のカウボーイブーツ、頭にグレーのスペイン帽をかぶっている。1曲目「シングス・ハヴ・チェンジド」がはじまる。出だしから調子がいいように聞こえる。加えて観客の反応もすごくいい。アップシング、音の引き延ばしなど、ニュアンスたっぷりのヴォーカルはさらに自由度を増しているようだ。「シー・ビロングス・トゥ・ミー」のボブはパワーにあふれている。今夜はロッキン・ボブ、あるいはドライビング・ボブなのか? ボブがハーモニカをひと吹きしただけで、大歓声がわき起こる。観客のテンションも上がりっぱなしだ。それに応えるかのように、ボブもみごとなハーモニカ演奏を聞かせる。「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」はボブが得意とする軽快なマイナー調のロック/ブルースだ。今夜のボブはメロディアスなピアノのリフでバンドを先導する。一転して告白するように、あるいはつぶやくように「ホワット・グッド・アム・アイ」がはじまる。ステージの照明はほんとうに暗い。2階席から見ていると、ボブもバンドメンバーとおなじダークグレーのスーツを着ているようにしか見えない。ボブの低音が魅力的に響き、強い意志が込められているように聞こえる。チャーリーが繊細なギターで雰囲気を高める。
5曲目に移る前に、ボブがステージ左手に立っているトニーのところに歩いて行き、なにやら相談している。「もしかしてセットリストを変更するのかな?」とぼくは一瞬思ったが、早とちりだった。5曲目はいつもとおなじ「ウェイティング・フォー・ユー」。ドニーのペダルスティールにチャーリーがメローなリフを重ねるワルツに合わせ、ボブは右手だけでピアノを弾きながら感情を込めて歌う。うまく行かなくなったふたりの仲、幸せだった日々が戻ってくることを待ち続ける男の歌なのだろうか。3連音を多用するボブのピアノソロもフィーチャーされる。ムードが一変して「デュケーン・ホイッスル」が軽快にはじまる。列車デュケーン号の最終運行をテーマにしたこの歌を聞くと、ぼくはいつもスティーヴ・グッドマンの作品で、アーロ・ガスリーやウィリー・ネルソンで知られる「シティ・オブ・ニューオリンズ」を連想する。ボブのピアノとチャーリーのギターがパワー全開のジャム演奏を繰り広げ、観客の熱気は高まるばかりだ。
ステージがすこし赤みがかった照明に変わり「ペイ・イン・ブラック」がはじまる。じつに不気味で、おどろおどろしい歌だ。ヘヴィーなリズムに乗せて、一部を書き換えた歌詞を歌うボブの1行1行に観客が大声で応える。途中からハンドマイクに持ち替えたボブが、片手でつかんだマイクスタンドを斜めに傾ける。まさにハードロッカーの姿だ。ヘッドバンギングでリズムをとるボブは、とても若く見える。かっこいい。クールだ。次はボブの代表作「ブルーにこんがらがって」。ボブがこの歌をライヴで歌った回数は歴代4位、1000回をはるかに越える。レコードで発表してから40年近く経つが、いまでも進化を続けているこの歌は、いつ聞いても、何度聞いても新鮮に響く。だれにも真似することができない歌い回しでストーリーを展開し、感動的なハーモニカソロを聞かせた後、ピアノに移ってエンディングを迎えた。
1部を締めくくる「ラヴ・シック」も赤みを帯びた薄暗い照明のステージで歌われる。恋の病に落ちた苦しみが、強烈に伝わってくる。チャーリーのギターソロが心地よく流れる。ソイボムの乱入したグラミー賞授賞式でも、ボブもこんなギターを演奏したかったのだろう、とぼくは勝手に想像した。「沈黙が雷鳴のように思える」時、チャーリーが弦をこすって効果を高める。ハンドマイクを持ったボブが右手を伸ばした後、両腕を広げてエンディングのポーズを取る。決まっている。「アリガトウ。少しのあいだいなくなるけど、すぐに戻ってくる」日本語を交えたことばを残して、1部が終わった。
(ブレーク)
近くの席にいたみうらじゅんさんに感想を聞いてみた。コンサート終了後にみうらじゅんさんはコメントを紙に書いてくれた。渡されたメモ用紙には「スゲーカッコ良かったです。ディランの生きている時代に生まれて幸せです。みうらじゅん」と書かれていた。その通り。しかも、ぼくたちは世界がうらやむライヴハウス公演を体験しているのだ。日本に住んでて良かった。ボブの要請だとしても、収容人数のすくない小さなライヴハウスで9公演(東京)を実現してくれたプロモーターのウドーミュージックにもお礼をいいたい。
2部も3連チャイムの合図に続き、スチュのエレクトリックギターのリフが流れた後、帽子をかぶったまま登場したボブが「ハイ・ウォーター」を歌いだした。ドニーが弾き続けるバンジョーにのせて、ボブはややしゃがれ声で歌う。ドニーは歌によって、ペダルスティール、ラップトップ、エレクトリックマンドリン、ヴァイオリン、バンジョーと異なる楽器を演奏し、多彩な才能を発揮している。ボブの背後に位置するドニーの視線は、一瞬たりともボブから離れない。ほかのミュージシャンもそうだが、彼らの視線は客席にむける余裕はないと言わんばかりに、つねにボブに集中している。ボブの歌い方やピアノの弾き方に合わせて、柔軟に対応するためだ。すばらしいバンドだ。1988年にスタートしたネヴァーエンディング・ツアーは26年目に入った。この間、ボブはバンドメンバーをいろいろ入れ替えてきたが、現在のバンドが最高だとぼくは思っている。
スチュのアコースティックギターとドニーのペダルスティールが物悲しい雰囲気を創り出し、ボブが説得力を込めたやさしいヴォーカルで「運命のひとひねり」を歌う。余韻を残すハーモニカも印象的だ。ステージの照明が明るくなり「アーリー・ローマン・キング」では、ボブのヴォーカルに若さを感じる。観客も大歓声をあげる。ボブのピアノが先導するノリノリのジャム演奏に興奮は高まるばかりだ。ボブの指の動きを確かめようと、チャーリーが何度もピアノに近寄り鍵盤をのぞき込む。「フォーゲットフル・ハート」では短いハーモニカソロに続いて静かにボブが歌いだす。「忘れっぽい心」を持った人に切々と訴えかける男の心情を歌っているとぼくは理解しているが、どうだろう。些細なことまですべて覚えていると思われる主人公のせつなさと嘆きが聞き手の心にしみる。感動的な曲だ。
軽妙なジャズナンバー「スピリット・オン・ザ・ウォーター」に移る。ボブがピアノで低音部から高音部に流れて行くリフを何度も弾く。すぐにバンドがそのリフに合わせて演奏を重ねる。長い物語のなかで「パラダイスには戻れない。人を殺してしまったから」と歌うが、水上に漂う霊魂とな何を指しているのかな? 続く大好きな「スカーレット・タウン」を聞くと、ぼくはいつも「エイント・トーキン」や「ハイランズ」、「クロス・ザ・グリーン・マウンテン」を思い出す。半世紀近く前に初めて「ローランドの悲しい目の乙女」を聞いて以来、長い物語を歌うボブが大好きになった。アコースティックギター1本で歌っていたフォークシンガー時代のボブが好きだと言うファンも、この歌に胸を打たれるはずだ。
「スーン・アフター・ミッドナイト」は、何度聞いても甘いポップスの魅力を感じる。テーマとして真夜中の殺人が歌われなければ、多くのアーティストにカヴァーされるようなポピュラーソングになったかもしれない。2部の締めくくりは「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。ステージの照明が明るくなる。この時初めて気づいたが、ボブはいつのまにか帽子を脱いでいた。頭頂部がかなり盛り上がったカーリーヘアーのボブは若く見える。9小節の短い歌詞が10番まで続くが、2小節歌うたびに観客が大歓声をあげる。今回の日本ツアーで最大の興奮状態だ。ボブも笑顔で応じているように見える。白いカントリースーツのボブがマイクスタンドを片手で持って歌っている姿に、ズートスーツを着込んだ古き良き時代のロックンローラーの影が重なって見えた。かっこいい。もちろん「シェキナベイビー、ツイスト・アンド・シャウト」とボブが吠えると、大歓声が沸き起こる。「どうだ」とドヤ顔を決め込んでステージを去って行った。クールだ。
アンコールはボブがピアノで弾く思わせぶりなリフではじまる。おや? と思う間もなくすぐにスチュがアコースティックギターでおなじみのコードをかき鳴らし「見張り塔からずっと」がはじまる。ボブが歴代ライヴで歌った回数ではこの歌が第1位。ちなみに2位は「ライク・ア・ローリング・ストーン」、3位は「追憶のハイウェイ61」、4位は「ブルーにこんがらがって」、5位が「風に吹かれて」となっている。新作『テンペスト』からの6曲を組み込んだ今回の固定セットリストに、代表曲をもっと聞きたいと思っていたファンもいるかもしれない。でも、あまりなじみのない新しいい曲を聞いて、虜に鳴った人も大勢いるだろう。むしろ、そうしたファンの方が多いのではないかとぼくは思う。ボブの魅力がここにある。過去の遺産ではなく、ボブが今夜ステージで生み出したアートに聞き手は惹かれるのだ。最後の「風に吹かれて」を歌い終わったボブは、ピアノから離れ、チャーリー・チャップリンを思い出させるような歩き方でひょこひょことステージ中央に出てきて、ハーモニカで曲を終えた。こうして9日間の東京公演がすべて終わった。
最後の整列あいさつで、ボブはことばを発したわけではないが、かすかにお辞儀をした。ボブも満足したのだろう。ボブのベストコンサートを体験できたぼくも満足だ。詳しく書けないが、コンサート終了後に会ったミュージシャンたちも、みな満足したようだった。(菅野ヘッケル)
Bob Dylan
April 10, 2014
Zepp DiverCity
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
4. What Good Am I?
5. Waiting For You
6. Duquesne Whistle
7. Pay In Blood
8. Tangled Up In Blue
9. Love Sick
(Intermission)
10. High Water (For Charley Patton)
11. Simple Twist Of Fate
12. Early Roman Kings
13. Forgetful Heart
14. Spirit On The Water
15. Scarlet Town
16. Soon After Midnight
17. Long And Wasted Years
(encore)
18. All Along The Watchtower
19. Blowin' In The Wind
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