ボブ・ディラン 2014年4月8日Zepp DiverCity 第7夜ライヴレポート by菅野ヘッケル
2014.04.10
INFO
菅野ヘッケルさんからの第7夜ライヴレポートです!!
【ボブ・ディラン、2014年4月8日Zepp DiverCity7日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月8日
Zepp DiverCity
「何かが起こっているのに/あんたはそれが何なのかわからない」
7時の時報を告げるようにチャイムが鳴り、スチュが弾くアコースティックギターのリフが流れ出す。いつものように暗闇のステージにバンドメンバー、最後にボブが出てくる。照明が点灯され、オープニング曲「シングス・ハヴ・チャンジド」がはじまった。バンドは黒いスーツ、ボブは2日目とおなじ白いカントリースーツとグレーのスペイン帽子という格好だ。1曲目から今夜もボブの調子はいい。ヴォーカルを思いのまま自由にコントロールしている。エンディングも決まった。今夜も期待が高まる。「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」でも自由なヴォーカルが持続する。新たなアレンジとして、途中バンドが演奏をやめてハーモニカのソロだけが流れるブレークが取り入れられた。今夜もハーモニカ・ナイトになるのかもしれない。だが、軽快な「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」の途中でトニーがベースの音を気にするような行動をとりはじめた。アンプの調子が悪いのかノイズが混じる、やがてハウリングも発生、歌が終わる直前にはボブのピアノもノイズに埋もれる。サウンドテックがすぐに現れ、調整を試みるがノイズ、ハウリングは止まない。ピアノの下に何人かが潜り込んで、内蔵マイクを修理しているように見える。この間、ボブはピアノで何やらリフを弾き続ける。バンドたちも「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」のマイナー調のコード進行でボブに合わせる。即興演奏は数分間、1曲分に相当するほど長くつづいた。ボブが叩き出すリフがとてもいい。まるで新曲をつくる過程を見せられているような気がした。心地よい即興曲が終わってもトラブルは回復しない。
「エヴリシング・イズ・ブロークン」何もかもが壊れてしまった。バンドリーダーのトニーがボブとなにやら相談しながらすステージから消えた。サウンドテックはステージモニターのコントロールボードに集まって修理を続けている。観客の不安な気持ちを和らげようと、スチュがステージに現れ一人芝居のような仕草をする。しばらくするとボブとトニーが出てきて、万が一のために用意されているボブの白いギターの前で立ち止まる。一瞬、ピアノがだめなのでギターを弾くことにするのか、と期待を持たせるような行動だ。だが、そのまま左手に消えて行った。トラブルは思った以上に深刻だったようだ。7時30分には日本語で「機材トラブルで中断しています。復旧次第再開します」といったむねがアナウンスされ、会場の明かりもつけられた。結局、30分ほどの中断でコンサートは再開した。
「イッツ・オール・グッド」再開したコンサートはどうなるかと思っていたが、まるで何事もなかったかのように、調子が狂うことなく、日本ツアー3回目の登場となる「ハックス・チューン」が歌われた。すばらしい。さすがにプロだなとぼくは思った。「デュケーン・ブルース」ではトニーのスタンドアップベースとジョージのブラシで刻むビートが列車が一定のスピードで疾走する雰囲気をみごとに描き、ボブのピアノとチャーリーのギターがジャム演奏を展開する。チャーリーのギターが光る一曲だ。「ウェイティング・フォー・ユー」でもボブのピアノとチャーリーのギターが美しいワルツを奏でる。「ペイ・イン・ブラッド」はドラムのビートが呪いを込めてたように、おどろおどろしく響く。歌詞の一部が書き換えられているように聞こえるが、どうだろう。「ブルーにこんがらがって」ではボブのヴォーカルも絶好調だ。みんなに愛される代表曲なので、観客もいっしょに歌いたい気分にかられるが、とんでもない、ボブの歌い回しはだれにも真似できない。いっしょに歌うなんて、到底無理だ。あきらめた方がいい。今夜は、自由度の増したヴォーカルとハーモニカが魅力的だ。1部の最後の「ラヴ・シック」では。スチュのエレクトリックギターが鋭いカッティングリズムを刻み、チャーリーが嘆きを込めたようなフレーズでボブをバックアップする。休憩前のことばはどうするのかな、と思っていたらボブは大きな声ではっきりと告げた。「アイガトウ。今夜はトラブルがあったのに、我慢してくれてありがとう。すぐ、戻ってくる」
2部はもちろん「ハイ・ウォーター」ではじまる。背景に投影される抽象模様を目立たせるためなのだろう、歌の初めではステージ頭上の照明が消される。あいかわらず、薄暗いステージだ。今夜は、ドニーが印象的なバンジョーソロを弾いた。スチュがトニーの背後に移動してアンプの前で巨体を揺らしながらリズムギターを弾いている。なにか気になることがあるのだろうか? 「運命のひとひねり」で、ボブがハーモニカを吹きまくる。今夜もハーモニカ・ナイトかな。「アーリー・ローマン・キング」では、いつも以上にステージが明るくなった。昔のローマの王様たちのように、ヘヴィーなピアノブルースが力強く響く。今夜も「フォーゲットフル・ハート」が歌われた。優しくていねいに歌うボブのヴォーカルに酔いしれるのはぼくだけではないはずだ。「おまえだけが私の祈りに答えてくれた」ぐいぐいと歌の世界に引き込まれていく。トラブルがあったことなんて。忘れてしまった。「スピリット・オン・ザ・ウォーター」ではっきりわかった。今夜はピアノ・ナイトだ。ミスタッチなんか気にしない。ボブは思いついたリフをしつこく繰り返す。軽妙なリズムに体が動く。「ぼくたちはとんでもなく素晴らしい時をいっしょに過ごせるよ」たしかに、その通りだ。「スカーレット・タウン」は、やはり今回の日本ツアーのハイライトのひとつだ。好きだ。終末が近づくスカーレット・タウンはどこにあるんだろう。いつものように甘く優しいポップスのような「スーン・アフター・ミッドナイト」に続いて、2部の締めくくり「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。曲間の暗転の後、ステージが段と明るくなる。中央に両足を大きく開いてボブが立っている。かっこいい! 「シェキナベービ・ツイスト・アンド・シャウト」で大歓声が上がる。左手を腰に当てポーズを決めるボブは。ヘヴィーロッカーだ。じつに若く見える。
アンコールでボブがピアノで何やらいつもとちがうリフを叩きはじめた。一瞬、べつの歌かと思ったが、すぐにスチュが例のリズムを刻みだした。「見張り塔からずっと」だ。最後は「風に吹かれて」。出だしの1行をマイクが拾わない。機材トラブルの後遺症が残っているのかなと、やや不安を感じた。しかしボブは関係ないよと言わんばかりに、すばらしいピアノを演奏する。「ダダダーーダン」と尻上がりの3連音を多用したリフを繰り返す。やはり、今夜はピアノ・ナイト。あるいはピアノ・ナイトになるはずの夜だった。最後のあいさつ。ボブがひょこひょこと歩いて中央に立ち、バンドメンバーが両サイドに並ぶ。やや時間をかけて、観客の反応を確かめてから、何も言わずに去って行った。
昨夜から、終了後の会場にBGMが流されるようになった。クラシックに疎いぼくにはわからないが、ネット情報によるとストラヴィンスキーの「春の祭典』の一部らしい。また、終了後に伝え聞いた話によると、機材トラブル中断後に再開した4曲目以降、ステージ上のモニターはダウンしたままだったという。真偽のほどは確かでないが、そんな不安要素を感じさせないすばらしい出来だったと思う。(菅野ヘッケル)
Bob Dylan
April 8, 2014
Zepp DiverCity
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
(PAトラブル発生。マイナーコードに乗せてボブとバンドが即興ですばらしい演奏を10分近く演奏する。30分中断)
4. Huck's Tune
5. Duquesne Whistle
6. Waiting For You
7. Pay In Blood
8. Tangled Up In Blue
9. Love Sick
(Intermission)
10. High Water (For Charley Patton)
11. Simple Twist Of Fate
12. Early Roman Kings
13. Forgetful Heart
14. Spirit On The Water
15. Scarlet Town
16. Soon After Midnight
17. Long And Wasted Years
(encore)
18. All Along The Watchtower
19. Blowin' In The Wind
【ボブ・ディラン、2014年4月8日Zepp DiverCity7日目ライヴ・レポート】
ボブ・ディラン
2014年4月8日
Zepp DiverCity
「何かが起こっているのに/あんたはそれが何なのかわからない」
7時の時報を告げるようにチャイムが鳴り、スチュが弾くアコースティックギターのリフが流れ出す。いつものように暗闇のステージにバンドメンバー、最後にボブが出てくる。照明が点灯され、オープニング曲「シングス・ハヴ・チャンジド」がはじまった。バンドは黒いスーツ、ボブは2日目とおなじ白いカントリースーツとグレーのスペイン帽子という格好だ。1曲目から今夜もボブの調子はいい。ヴォーカルを思いのまま自由にコントロールしている。エンディングも決まった。今夜も期待が高まる。「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」でも自由なヴォーカルが持続する。新たなアレンジとして、途中バンドが演奏をやめてハーモニカのソロだけが流れるブレークが取り入れられた。今夜もハーモニカ・ナイトになるのかもしれない。だが、軽快な「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」の途中でトニーがベースの音を気にするような行動をとりはじめた。アンプの調子が悪いのかノイズが混じる、やがてハウリングも発生、歌が終わる直前にはボブのピアノもノイズに埋もれる。サウンドテックがすぐに現れ、調整を試みるがノイズ、ハウリングは止まない。ピアノの下に何人かが潜り込んで、内蔵マイクを修理しているように見える。この間、ボブはピアノで何やらリフを弾き続ける。バンドたちも「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」のマイナー調のコード進行でボブに合わせる。即興演奏は数分間、1曲分に相当するほど長くつづいた。ボブが叩き出すリフがとてもいい。まるで新曲をつくる過程を見せられているような気がした。心地よい即興曲が終わってもトラブルは回復しない。
「エヴリシング・イズ・ブロークン」何もかもが壊れてしまった。バンドリーダーのトニーがボブとなにやら相談しながらすステージから消えた。サウンドテックはステージモニターのコントロールボードに集まって修理を続けている。観客の不安な気持ちを和らげようと、スチュがステージに現れ一人芝居のような仕草をする。しばらくするとボブとトニーが出てきて、万が一のために用意されているボブの白いギターの前で立ち止まる。一瞬、ピアノがだめなのでギターを弾くことにするのか、と期待を持たせるような行動だ。だが、そのまま左手に消えて行った。トラブルは思った以上に深刻だったようだ。7時30分には日本語で「機材トラブルで中断しています。復旧次第再開します」といったむねがアナウンスされ、会場の明かりもつけられた。結局、30分ほどの中断でコンサートは再開した。
「イッツ・オール・グッド」再開したコンサートはどうなるかと思っていたが、まるで何事もなかったかのように、調子が狂うことなく、日本ツアー3回目の登場となる「ハックス・チューン」が歌われた。すばらしい。さすがにプロだなとぼくは思った。「デュケーン・ブルース」ではトニーのスタンドアップベースとジョージのブラシで刻むビートが列車が一定のスピードで疾走する雰囲気をみごとに描き、ボブのピアノとチャーリーのギターがジャム演奏を展開する。チャーリーのギターが光る一曲だ。「ウェイティング・フォー・ユー」でもボブのピアノとチャーリーのギターが美しいワルツを奏でる。「ペイ・イン・ブラッド」はドラムのビートが呪いを込めてたように、おどろおどろしく響く。歌詞の一部が書き換えられているように聞こえるが、どうだろう。「ブルーにこんがらがって」ではボブのヴォーカルも絶好調だ。みんなに愛される代表曲なので、観客もいっしょに歌いたい気分にかられるが、とんでもない、ボブの歌い回しはだれにも真似できない。いっしょに歌うなんて、到底無理だ。あきらめた方がいい。今夜は、自由度の増したヴォーカルとハーモニカが魅力的だ。1部の最後の「ラヴ・シック」では。スチュのエレクトリックギターが鋭いカッティングリズムを刻み、チャーリーが嘆きを込めたようなフレーズでボブをバックアップする。休憩前のことばはどうするのかな、と思っていたらボブは大きな声ではっきりと告げた。「アイガトウ。今夜はトラブルがあったのに、我慢してくれてありがとう。すぐ、戻ってくる」
2部はもちろん「ハイ・ウォーター」ではじまる。背景に投影される抽象模様を目立たせるためなのだろう、歌の初めではステージ頭上の照明が消される。あいかわらず、薄暗いステージだ。今夜は、ドニーが印象的なバンジョーソロを弾いた。スチュがトニーの背後に移動してアンプの前で巨体を揺らしながらリズムギターを弾いている。なにか気になることがあるのだろうか? 「運命のひとひねり」で、ボブがハーモニカを吹きまくる。今夜もハーモニカ・ナイトかな。「アーリー・ローマン・キング」では、いつも以上にステージが明るくなった。昔のローマの王様たちのように、ヘヴィーなピアノブルースが力強く響く。今夜も「フォーゲットフル・ハート」が歌われた。優しくていねいに歌うボブのヴォーカルに酔いしれるのはぼくだけではないはずだ。「おまえだけが私の祈りに答えてくれた」ぐいぐいと歌の世界に引き込まれていく。トラブルがあったことなんて。忘れてしまった。「スピリット・オン・ザ・ウォーター」ではっきりわかった。今夜はピアノ・ナイトだ。ミスタッチなんか気にしない。ボブは思いついたリフをしつこく繰り返す。軽妙なリズムに体が動く。「ぼくたちはとんでもなく素晴らしい時をいっしょに過ごせるよ」たしかに、その通りだ。「スカーレット・タウン」は、やはり今回の日本ツアーのハイライトのひとつだ。好きだ。終末が近づくスカーレット・タウンはどこにあるんだろう。いつものように甘く優しいポップスのような「スーン・アフター・ミッドナイト」に続いて、2部の締めくくり「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」。曲間の暗転の後、ステージが段と明るくなる。中央に両足を大きく開いてボブが立っている。かっこいい! 「シェキナベービ・ツイスト・アンド・シャウト」で大歓声が上がる。左手を腰に当てポーズを決めるボブは。ヘヴィーロッカーだ。じつに若く見える。
アンコールでボブがピアノで何やらいつもとちがうリフを叩きはじめた。一瞬、べつの歌かと思ったが、すぐにスチュが例のリズムを刻みだした。「見張り塔からずっと」だ。最後は「風に吹かれて」。出だしの1行をマイクが拾わない。機材トラブルの後遺症が残っているのかなと、やや不安を感じた。しかしボブは関係ないよと言わんばかりに、すばらしいピアノを演奏する。「ダダダーーダン」と尻上がりの3連音を多用したリフを繰り返す。やはり、今夜はピアノ・ナイト。あるいはピアノ・ナイトになるはずの夜だった。最後のあいさつ。ボブがひょこひょこと歩いて中央に立ち、バンドメンバーが両サイドに並ぶ。やや時間をかけて、観客の反応を確かめてから、何も言わずに去って行った。
昨夜から、終了後の会場にBGMが流されるようになった。クラシックに疎いぼくにはわからないが、ネット情報によるとストラヴィンスキーの「春の祭典』の一部らしい。また、終了後に伝え聞いた話によると、機材トラブル中断後に再開した4曲目以降、ステージ上のモニターはダウンしたままだったという。真偽のほどは確かでないが、そんな不安要素を感じさせないすばらしい出来だったと思う。(菅野ヘッケル)
Bob Dylan
April 8, 2014
Zepp DiverCity
1. Things Have Changed
2. She Belongs To Me
3. Beyond Here Lies Nothin'
(PAトラブル発生。マイナーコードに乗せてボブとバンドが即興ですばらしい演奏を10分近く演奏する。30分中断)
4. Huck's Tune
5. Duquesne Whistle
6. Waiting For You
7. Pay In Blood
8. Tangled Up In Blue
9. Love Sick
(Intermission)
10. High Water (For Charley Patton)
11. Simple Twist Of Fate
12. Early Roman Kings
13. Forgetful Heart
14. Spirit On The Water
15. Scarlet Town
16. Soon After Midnight
17. Long And Wasted Years
(encore)
18. All Along The Watchtower
19. Blowin' In The Wind