ニューアルバム「エルフの涙」オフィシャルインタビュー掲載!
Aqua Timez ニューアルバム「エルフの涙」オフィシャルインタビュー
取材・文 麦倉正樹
★何か本当の意味でスタートのアルバムが作れたような気がしています(太志)
――約2年ぶりのアルバム『エルフの涙』が完成しました。まずは今の心境を。
OKP-STAR:最近、車でよくでき上がったアルバムを聴いていますけど、音がすごく良いというか、自分たちの理想のサウンドになっていて。毎回、音作りにかける時間が長くなっているんですけど、今回のアルバムの音についてはホントいちばん満足の行くものになったし、アレンジも納得できる仕上がりになったと思います。何かやっとアレンジがわかってきた感じがあるんですよね。太志の歌詞と歌メロに対するアプローチの仕方っていうのが、より鮮明になってきたというか。それが今回、いちばん良い形で出せたなって思います。
太志:歌詞とメロディに対するアレンジという意味で、僕は個人的に「オムレット」という曲がすごい好きですね。何かこういうのを、ずっとやりたかったのかもしれないなって思ったりして。だから今、すごく健全に進化している途中だなって思っていて。昔のアルバムのほうが良かったなっていう感じには、全然ならないんですよね。もちろん、昔のには昔の良さがあると思うけど、このアルバムはやっぱり、10年近くやってきたからこそ作れるものになっていると思うんです。昔から、オリジナルなものでありたいとはずっと思っていたけど、自然とそうなっていったというか。だから今、やっと自分たちが、本当に足並みをそろえて前に進んでいる感じがして。10年近く掛かりましたけど、何か今本当の意味でスタートのアルバムが作れたような気がしています。
TASSHI:前作を終えてから、太志の曲自体というか太志が作るデモは、もう早い段階から結構そろっていたんですよね。で、それをアレンジして一気に仕上げていったのが今年に入ってからなんですけど、今振り返ると、それが良かったなって思っていて。前作までは、ロックというかミクスチャーというか、そういう音質を自分たちの中で求めてやってきたところもあったんですけど、前作のツアーを終えた後、いろんなライヴをやっていく中で――対バン・ツアーだったり、学園祭ライヴだったり、ファンクラブ・ライヴだったりを重ねていく中で、もう一回メンバー内で、自分たちって何だろうみたいな話し合いをして。“Aqua Timezとは何か?”、“今後どうなっていきたいのか?”みたいなことを、結構本気で話し合ったんですよね。で、それを踏まえながらやっていった成果みたいなものが、このアルバムの中に本当に出たなと思っていて。要は、“こうでなければ”っていうのではなく、ようやく肩の力を抜いて、“この曲はこういう世界観だから、こういう方向に仕上げたいよね”みたいな感じで今回、アレンジして行くことができたんです。だから、意外と一曲ずつのアレンジは、あんまり時間掛からずポンポン進んでいって。そこらへんが、これまでと大きく違うところですよね。
大介:今、TASSHIが言ったように、前作から今作に至るまでの2年のあいだに、“俺たちは何をやるべきか?”とか“ファンが求めていることは何なのか?”とか、そういう本質みたいな話をする機会が結構多かったんですよね。そこで、自分たちにはできない理想像みたいなものを追い求めることよりも、今自分たちがすべきこととか、ファンに対してすべきことっていうのを、よりリアルな範囲で考えて。そこから必然的に、このアルバムの方向に辿り着いたような気がするんですよね。アレンジにあまり時間が掛からなかったのも、多分そういう頭に切り替わっていたからだと思っていて。できないことを追い求めることも大事ですけど、そこに強制とか無理が入ってきたら、その時点で苦痛になってしまうじゃないですか。だから、そこらへんをバンドとして徹底的に話し合ったときに、ちゃんとひとつの方向を向いて、今できる最大限のことをやるっていう今回のテーマみたいなものが、バンドの中でひとつできたと思うんです。で、それが今回のアルバムに結び付いていって。結果として、僕たちが今いちばんやりたいことが、このアルバムでちゃんと表現できたのかなっていう気がしています。
mayuko:単純に、すごく良いアルバムになったと思います。あと、個人的に思うのは、アルバムを作っていく過程で、嫌な煮詰まり感みたいなものが、今回は全然無くて。多分、その結果だと思うんですけど、何か全体的に風通しの良い感じがする一枚になったと思います。何か今までは、“自分たちらしさ”みたいなことをどこか守っていたところがあって。それによって逆に、自分たちを囲っていたところがあったような気がするんですよね。でも、そうやって囲わなくても、そのままの自分たちでやっていけば大丈夫って思えるようになったのは、今回すごく新鮮でしたね。
★ポップスの表現の難しさというものに改めて気づくことできた(OKP-STAR)
――アルバム制作自体は、いつ頃から始めたのでしょうか?
TASSHI:レコーディング自体は、今年の春からですね。「エデン」とかシングルに入っていた曲は、その前からありましたけど、アルバムのレコーディングをしたのは、今年の3月とか4月ぐらいだったかな?
mayuko:うん、そうだね。確か2月ぐらいから準備をして。でも、さっき言ったみたいに、楽曲自体はもう結構前から太志が用意していたんですよね。
太志:そう。曲作りは、もう何か自然とやっていたというか、前のアルバムのツアーが終わって、ちょっと経ってから――去年の春ぐらいに、もう集中してやりたくなって、そのときに結構まとめて作ったんですよね。だから、みんなでアレンジしていく前のデモ音源みたいなものは、すごくいっぱいできていて。
TASSHI:で、それはもちろん知っていたし、実際に聴いたりとかもしていたんですけど、具体的なリリースの話が無かったっていうのもあって、なかなか5人で完成させることもなく……。
mayuko:そう。だから、太志はあんまりシングルだとかアルバムとか関係なく曲作りをたくさんしていて、その一方で私たち楽器隊は、4人でスタジオに入ったりとかしていたんですよね。最初は、イベントとかライヴの準備のために入っていたんですけど、それがだんだん……。
大介:昔の曲をみんなでひと通りアレンジし直してみたり、他のアーティストさんの曲をカヴァーしながら、そのアンサンブルを研究してみたりとか。何かいろいろやっていましたね(笑)。
mayuko:シングルのリリースがなかなか決まらない中、「どうなるんだろう?」って思いながら、楽器陣は楽器陣で、演奏の基礎体力をつけるために、もう一度演奏を見詰め直すようなことをしていたんですよね。まあ、主に練習ですけど(笑)。
太志:曲作りもそうですけど、今日やったことが明日すぐに出るわけじゃないんですよね。だけど、いつかそれが報われると信じて地道にいろいろやっていたのが、去年だったというか。
――今回は、アルバムまでの助走期間が結構長かったということでしょうか?
TASSHI:そうですね。いつもだったらシングル、アルバムの期限が決められていて、その期限に向かってやっていく感じなんですけど、今回はそういう感じでもなくて。逆にうちらのほうから、「そろそろアルバム出さないと」みたいな感じだったので(笑)。
大介:2014年に入ってからは、さすがにちょっと自分たちのほうが焦ってきましたよね(笑)。「まだ出さなくて大丈夫なんですか?」って。
mayuko:もちろん、出したい気持ちはずっとあったんですけど、なかなか具体的な予定が立たなかったんですよね。
OKP-STAR:でも、そういう中で去年、スタジオでいろいろ練習していくことによって、いわゆるミドルテンポの曲というか、ポップスの表現の難しさに気づき始めたっていうのが、個人的には結構デカかったと思っていて。うちらの曲って、そういうミドルテンポの曲が結構多いというか、そこが中心だったりするじゃないですか。だからこそ、そういう曲を、ポップスの表現とかも取り入れながら、もっと突き詰めた形で鳴らしていこうよっていう。その作業を去年ずっとやっていたからこそ、今回アレンジにあまり時間が掛からなかったっていうのは、あるかもしれないですね。
大介:確かに去年っていうのは、そういうアレンジの感覚みたいなものが無意識のうちに出せるようになるための、修行期間みたいな年だったのかもしれない。
mayuko:でも、ホントにそうかも。あの時期があったからこそ、今回スムースにアレンジを進めることができたっていうのは、きっとあると思いますね。
★“独りになんかさせやしない”――それをコンセプトにすることにしたんです(TASSHI)
――先ほどTASSHIが言っていた、メンバー内での話し合いというのは?
TASSHI:対バン・ツアーとか学園祭とか、いろいろなライヴをやるたびに、メンバー全員で話し合ったんですよね。そのライヴのコンセプトだったり、セットリストを決めるのもそうですけど、何でそのセットリストでやりたいのか、俺らの何を知って欲しくてこのライヴをやるのかっていうところまで突き詰めて。学園祭とかだったら、うちらのことをあまり知らない学生さんに対して、どういうバンドとして見られたいのか、どういうことを表現して何を持って返ってもらいたいのかっていう。そういう話っていうのは、もちろん今までもしていたし、メンバー全員の中で共通していたはずなんですけど、ホントに腹を割って話してみると、ひとりひとりちょっと違っていたりする面もあって。そこをちゃんと統一させて、Aqua Timezっていうものをどういうふうに見せていくのかっていうのを、今年の春のファンクラブ・ツアーまでずっと考え続けてきたっていうのは、やっぱり大きいと思いますね。
――なるほど。
TASSHI:それが、今回のアルバムに入っている「手紙返信」とか「ヒナユメ」とか――さっきOKPが言っていたような、いちばん太志らしいミドルテンポの曲をどう表現していくのかっていうことに繋がってくるんですよね。そういう曲も、昔はやっぱりどこかバンド感みたいなところで勝負しようとしていたんですけど、ポップスのすごさみたいなところが本当にわかってくると、やっぱりそういう方法論じゃないのかなっていうのがわかってきて。歌と歌詞がいちばん生きる方向だったらもっと別の方向というか、ホントにポップな方向――ちょっと説明するのが難しいんですけど、「ヒナユメ」とかは、すごいシンプルなアレンジなんですけど、ポップス的にはものすごくいろいろなことを考えながら音を出していて。多分昔だったら、こういうふうにはできなかったと思うんですよね。
――その話し合いでは結局、どういうバンドとして見られたいという結論になったのですか?
TASSHI:そこでも、いろいろあったんですよね(笑)。カッコ良いロックバンドとして見られたいのか、それとも歌詞だったり歌を届けたいのかっていう。良い曲だねって思われるだけでいいのか、バンドとしていろいろやれることを見せたいのかとか。ただ正直、学園祭ライヴのときは、そこまでまとまり切らずに。その後、ファンクラブ・ツアーのときに、自分たちのいちばんの理解者であるファンに対して、自分たちをどう見せたいのかっていうことをまた話し合って、そこでやっと方向性みたいなものがちゃんと定まった感じですね。
――その定まった方向性というのは?
TASSHI:じゃあそれは、リーダーのほうから……。
OKP-STAR:ちゃんと説明するのが難しいんですけど、ひと言で言うなら“独りにさせやしない”っていうことですね。そういうコンセプトで、ちょっとやっていこうかっていう。
――どういうことでしょう?
TASSHI:(笑)。ちょっと補足説明すると、これは「手紙返信」のサビ前のフレーズ――“独りになんかさせやしない”から来ているんですけど、それをそのままスローガンというか、コンセプトにすることにしたんですよね。結局、ファンの子たちが僕らに何を求めているのかって言ったら、やっぱり太志の歌詞であって――そこにある種の救いを求めて来てくれている人が多いと思うんですよね。で、そういう子たちっていうのは、日頃いろんな戸惑いやつまづき、あるいは挫折とか、結構つらい思いをしている人が、やっぱり多いような気がして。実際、ファンレターとかでも、そういうのをいっぱいいただくんですよね。普段から孤独を感じている人が多いというか。で、そういう人たちに対して、うちらの音楽を聴いてくれたら、うちらのライヴに来てくれたら、そういう孤独感から解放されて、“もう独りにはさせはしないよ”っていうことを、やっぱりまずはメッセージとして伝えたいっていう。それをCDだけじゃなくて、ライヴでもしっかり伝えていこうよっていう。そういう意思統一から始まって、そのためにはどういうステージだったり曲だったりをやるのかっていうふうに考えるようになったんです。前は最初にまず曲順を決めて、それをどういうアレンジで聴かせるかを考えていたんですけど、まず最初にこういう思いが全員の中であって、そういうライヴをするためには、どういう曲をやっていくのかっていう。だから、ちょっと順番が逆になった感じなんですよね。
★昔はできなかったアレンジが今やっとできるようになった(mayuko)
――具体的には、それをどんなふうにライヴで見せていこうと?
TASSHI:一応、ふたつ柱を設けて……ひとつはさっき言った、その太志の歌詞やメッセージがしっかり伝わるようにっていうことですね。それは今回のアルバムの話にも繋がるんですけど、「手紙返信」だったり「ヒナユメ」のような曲のアレンジを、昔のようなロック解釈ではなく、歌と言葉がいちばん響くようなアレンジに仕上げていくっていうことで。もちろん、ライヴでもそういうふうにやっていくっていう。それでメッセージをしっかりと受け取ってもらうっていう方向と、もうひとつは、ただそれだけではなくて何か――うちらのライヴ観に来てくれる人って、ライヴ観に来ること自体が初めてみたいな子たちも多いんですよね。ライヴハウスとかホールに行くこと自体、ちょっと怖がっているような。そういう人たちに、ライヴハウスは全然怖いところじゃないし、ライヴだったり音楽ってすごい楽しいって思ってもらえるような空間作りというのを、もうひとつの柱にして。そのために、前回のアルバム・ツアーから取り入れている、メンバーそれぞれがいろんな楽器に挑戦したりとか、みんなで打楽器をやってみたりとか、そういう自分たちの世界観を伝える以外の表現、音楽の楽しさみたいなものを伝えるコーナーを作って。その両軸でライヴをやっていきたいなっていう話になったんですよね。
――何か“音楽的である”というのは、今回のアルバムでもひとつのキーワードになっている気がして――「イヴの結論」や「The FANtastic Journey」など、パーカッシヴな躍動感を持った曲が、最近多くなっていますよね。
TASSHI:そうですね。ただ、太志の作る楽曲って、「等身大のラブソング」もそうですけど、意外とレゲエの要素だったりラテンの要素っていうのが、もともと入っているようなところもあって。昔はそれをロックで表現しようとしていたんですけど、それをやめて、その曲が持っている、その歌がやりたがっている音楽を、ちゃんと素直に表現したいなっていう。そしたら結果的に、そういうパーカッシヴな曲が、自然と多くなってきたというか(笑)。何かそういう感じがしますよね。
mayuko:あと、昔はやろうと思ってもできなかったアレンジが、今やっとできるようになったみたいなところもあって。去年いろいろと自分たちのアンサンブルを見詰め直したことによって、音楽の持つ奥深さ――たとえば、8ビートの曲でも16ビートを意識することによって雰囲気が変わって来るとか、そういう細かいところまでちゃんと考えることによって、やっといろんな表現ができるようになった気がするんですよね。それは今回のアルバムで、特に大きかった気がします。
――太志君の歌い回しには、確かに独特の“節”というかグルーヴがありますよね。
TASSHI:そうですね。だから、太志の節回し、歌のグルーヴ感っていうものを、しっかり際立たせるというか、届けるためには、どうすればいいのかっていう。昔はロックのタテノリしか出せなかったんですけど、今は常に跳ねていることを意識しているというか。そういう楽器隊のグルーヴ感っていうのが多分最近変わって来ていて、それが今おっしゃられた躍動感みたいなものに繋がっているのかもしれないですね。
――いわゆるミクスチャーとは違う、もっとプリミティヴな躍動感というか、ある種ルーツ不明の躍動感が……。
TASSHI:確かに、ルーツは不明かも(笑)。でも、それはちょっと嬉しいですね。まわりに流されずにっていうか、俺らもすごい速い四つ打ちの曲をやってみようかみたいな話が冗談で出たりはしたんですけど、そうやってまわりに追従するよりは、やっぱり自分たちは自分たちの音楽を突き詰めて、何か圧倒的なオリジナリティを出したいよねっていうのは、今回のアルバムを作る前から結構あったので。
★世界観と現場感――その両方をこのアルバムには入れたかったんです(太志)
――楽曲に対するアプローチが根本的に変わって来たという話ですが、それが結果的に今回の楽曲のバリエーションの豊かさに繋がっているような気がします。
mayuko:そうですね。今までもバリエーション豊かだとは思っていたんですけど、今回はジャンルの幅というよりは、何か極端にそのジャンルに特化するようになったというか。そういう感じはありますよね。
――極端にジャンルに特化?
mayuko:たとえば前だったら「hey my men feat.OK.Joe」みたいな曲は、ここまで本格的な感じにしなかったというか、ちょっとヒップホップ要素を取り入れましたぐらいで留めていたと思うんだけど、今回は結構極端に振り切った形のアレンジになっていて……。
――その曲、いちばん謎めいている曲だと思います(笑)。
mayuko:謎めいていますよね……仮タイトルは「ラーメン道」だったし(笑)。でも、これはこれで、かなり大真面目に取り組んでいるんですよね。
OKP-STAR:確かに、全然知らない人が聴いたら、ちょっと歌詞に驚くかもしれないですよね(笑)。
mayuko:私は最後の最後まで、この曲をアルバムに本当に入れるのかっていうのを、太志に聞いていたような気がします(笑)。
――(笑)そのへんは、どうなのですか?
太志:やっぱりね、コンセプトに縛られるっていうのがいちばん良くないっていうのは思っていたんですよね。たとえば、今回のジャケットのアートワークのような世界――森の中に湖があって、そこに妖精が住んでいるっていう。そういう完全に一枚の絵のようなアルバムには、ちょっとしたくないなっていうのがあって……。
――でも、絵本みたいなアルバムを作るというのは、ひとつ理想としてあったのでは?
太志:それはもちろんあったし、今回のイラストも、とても素晴らしいものになったと思うんですけど……この「hey my men feat.OK.Joe」という曲は、俺が集中的に曲作りをしていたときに、パッと生まれた楽曲だったんですよね。他の曲と同じようなタイミングで。だから、もうそこを隠しきれなかったんでしょうね(笑)。
――(笑)。
mayuko:まあ、この曲の歌詞のような感じっていうのは、確実に太志の中にある部分だからね(笑)。
太志:そう。だから、どうしても作りたかったんでしょうね。デモの段階から、メンバーにちゃんと伝わるようにしっかりラップして、イメージが伝わりやすいようにして。一冊の絵本のように、きっちりとした世界観を持ったものを描きたいっていうのはもちろんあるんだけど、その中でやっぱり隠しきれない一曲として、俺の半径3メートルの日常をこの曲で書いておきたかったというか。もちろん、それを入れないこともできたけど――ある意味、それを入れる精神的な余裕みたいなものができたのかな。今までいろんなアルバムを出してきたから、俺のそういう部分をわかってくれる人も、きっといるだろうし。
――なるほど。
太志:あと、もうひとつ言うのであれば、俺は自分の歌詞のように日々暮らしているわけではないっていうことで。それをちょっと知って欲しいなっていうのがあったんですよね。何か俺、いまだにすごく真面目な人だって思われているみたいだから。初めてのインタビュアーさんとかに、結構しゃべるんですねって言われたりとかして。すごい神経質で寡黙な人とか思われているみたいなんだけど、別に冗談とかも言うし、割とおしゃべりだったりもするわけじゃないですか。
――まあ、そうですね(笑)。
OKP-STAR:そういうのはあるよね。俺も何か、すごい真面目な人って思われているみたいだし……。
mayuko:あ、そうなんだ?
太志:だから、このバンド自体が真面目だと思われているんですよね。でも、そこまで真面目じゃないっていうか、そこまで実際の姿が見えないとなると、それはそれで怖いなっていう。音楽って素晴らしいものだけど、書いている歌詞によって人格が形成されてしまうというか、音楽が俺の人格の前提になってしまうのは、やっぱりちょっと怖いですよね。俺の人格が音楽を作っているのではなく、俺が音楽にしたいもの、描きたいものを音楽にしているだけなのに。だから、そこへの抵抗じゃないけど――「hey my men feat.OK.Joe」は、他にも何曲か作っている中で自然と生まれて来た一曲というか、シリアスなモードに入れば入るほど、ちょっとそっちのほうに向かいたい自分がいて。それを隠すことはできなかったよね(笑)。
――隠すことはできなかった(笑)。
太志:やっぱり、自分の理想とする作品を詩的に書いていくことはすごく美しいことだと思うし、そういう理想はもちろんあるんだけど、そうじゃない瞬間を描いてもいいというか、自分から出てしまったのは、隠すことなく形にしたほうがいいんじゃないかなって、最近思うんですよね。楽しかったことは、楽しかったって書きたいというか。そういう意味では、「The FANtastic Journey」とかは、まさに前回のアルバム・ツアーの楽しさから生まれた曲だったりもするわけで。あのライヴをもう一回やるために、あのツアーの雰囲気をもう一回味わいたいからこそ、「The FANtastic Journey」という曲を書いたんですよね。
――何か今回のアルバムは、統一感を持ったひとつの世界観と、そこからはみ出るものの両方が入っているような気がします。
太志:そう。だから、その理想とする世界観と現場感ですよね。「The FANtastic Journey」にはライヴっていう現場があるし、「hey my men feat.OK.Joe」にはカウンターに座ってラーメンと向き合っている俺の現実があるわけで。全部をひとつの世界観で統一する必要はないというか、そこからはみ出すものや現実的なものがあってもいいと思ったんですよね。まあ、そういうものを出せるような心理状態になってきているっていうのが、やっぱり大きいのかな。もはや、そう言う意味でも自然体になってきているというか。
★10を1とか2で伝えることができる――それが音楽の面白さなんですよね(太志)
――今回のアルバムに至るまでのあいだ、太志君は太志君で、楽器隊とは違う試行錯誤があったような気がして……そう、5月にやったソロ・ツアーはどういう意図があったのでしょう?
太志:ソロ・ツアーはですね……やっぱり、バンドの強さってあると思うんですよね。フェスとかで観ても、迫力とか臨場感がやっぱり違うというか。ただ、その迫力とは違う部分で、ポエトリーリーディングっていうものの力を、俺は昔から信じていて。信じてはいたけど、それだけっていうのはやったことが無かったから、ちょっとやってみたいなって思ったんですよね。
――先ほどの楽器隊の修行期間の話ではないですが、それはそれで太志君なりの武者修行みたいなものだったのかなって。
太志:確かにそうかもしれないですね。やっぱり、大変は大変だったし、あそこでやったものは全部今年作ったものだったから、それなりにしんどかったですけど、何か新しいことに挑戦するのはホントに楽しいなって思ったし、そういう意味ではやって良かったなって思っています。それを続けていくかどうかはまた別として、一回でもそれがやれたっていうのは、俺の中ですごく意味のあることだったし、あれは言葉一本で勝負するような舞台だったから、そこを試すことができたのが、俺的にはすごい良かったというか。まあ、あれが終わったあと、歌詞を書くのをちょっとやめましたけどね(笑)。あのライヴのために、アルバム一枚分くらい歌詞を書き下ろしたから。
――そんなに歌詞を書いたのですね。
太志:うん。それと関係しているのかわからないけど、Aqua Timezでは最近、ラップのものよりも歌ものが多くなって来ているんですよね。インディーズのときのCDとかを見ると、歌詞カードに文字がびっしりで、実はほとんど歌ものが無かったんだけど、そこで改めてラップのものって歌詞がこんなに多いんだっていうことに気づいたというか。Aqua Timezではもっと歌を歌っていきたいなっていうのが、俺の中ではちょっとあるんですよね。で、そうやって歌ものの歌詞を書こうとすると、たったこれだけの言葉で、こんなに伝えられるんだっていうことに、改めて驚いたりとかして。そう、最近歌ものの歌詞が、昔よりも減っていると思うんですよね。
――確かに、最近の曲は歌詞の言葉数が少なくなっているかもしれないですね。
太志:少ないですよね。あと、一曲の長さも、昔より全然短いと思う。だから、昔は何もかも全部詰め込んでいたんですよね。もう言いたいことも鳴らしたいフレーズも、全部詰め込んでいたっていう。
mayuko:確かに昔は、間奏も今より全然長かったかもしれないですね。
太志:そう。だから、昔は10あるものを10でちゃんと伝えなきゃって思い込んでいたんだけど、最近は10を1とか2で伝えられたら、すごいなって思うようになってきていて。あとは聴き手の想像を信じるというか。だからこそ、歌詞の解釈とかもみんな違ってきて、それがすごい面白いなって思って。それがやっぱり、音楽の面白さなのかなって思うんですよね。
――絵本的な音楽を作りたいというのも、それと通じる話なのでしょうね。
太志:そう。絵本って、そんなに字が多くないじゃないですか。ものによっては、絵だけだったりとかするし。だから、今回の表題曲になっている「エルフの涙」とかも、決して歌詞の多いものではないんですよね。
★それも前に向かって進んで行くっていうのが今のテーマなのかもしれない(太志)
――今回のアルバムの歌詞についてはどうでしょう。
太志:結局「エルフの涙」に書いたことが、メッセージとしては、僕の中で今、いちばん感じていることなんですよね。エルフっていうのは妖精のことだけど、それは人の心の中にあるもののたとえとして――人の心の中にある感情、抑えきれない感情を表していて、それは要するに子どもな部分というか、怒るときもあるし、泣いてしまうときもあるっていう。でも、大人になって社会と関わり合う中で、やっぱり泣いてばかりもいられないわけじゃないですか。でも、自分の心の中にあるエルフは消えてくれない。かといって、理性だけで生きていくのも無理だっていう。だからこそ、その妖精をどうやって成長せせていくかっていうのがすごく大事だなって、今俺は思っているんですよね。
――なるほど。
太志:この歌詞の物語にもあるように、人は神様にお願いばかりをしてしまうけど、その前に自分の手で変えられるものとか、自分の身体を使ってできることは、きっとあるはずなんですよね。だから、そこは神様に任さずに、まずは自分でやろうっていう。それはすごい当たり前のことなんだけど、人間ってやっぱり弱いものだから、どうしても特殊な方法に頼ってしまって、コツコツ地道にやることをやめてしまうんですよね。だからこそ、地道にやっている人たちはすごいというか――うちのおやじとかもそうだったけど、そうやってコツコツやって来た人たちを、やっと素直に尊敬できるようになってきたんです。そういう人たちは汗をかいて生きている感じがするし、たとえ何か不安を持っていたとしても、日々精一杯生きることに一生懸命だと思うんですよね。
――最近の歌詞の傾向として、つらいことや悲しいことは消えないけど、それを抱えながら前に進んで行くというモードがあるような気がします。
太志:うん。それでも前に向かって進んで行くっていうのは、ホントに今のテーマなのかもしれないですね。面倒くさいし大変だけどやるっていうことだったり、きっとつらいだろうけどやるとか進むとか、こういうことを言われるかもしれないけどもうやるとかっていうのが、今の自分のテーマなんです。確かに悲しみはあったし、削られてきた部分もあるし、失ったものものある。でも、その上で進むしかないっていうことも、もうわかってきたというか。10年近くやっている中で、いろんなことがあったけど、悩んで立ち止まると本当にドツボにはまってしまうから。やっぱり、悩みを持ちながらも、とりあえず歩くしかないんですよね。実際、みんなそうやって暮らしているんだと思うし。
――そうですね。
太志:あと、理想があるからこそ悩みがあるっていうことも、きっとあって。理想とちゃんと向き合って、その夢を叶えようってなったときに出くる悩みってあるじゃないですか。自分には夢があって、それを叶えるために必要なことがあって、それをちゃんとやれた日とやれなかった日が連続してあるっていう。そういう意味では今、すごくシンプルな精神状態なのかもしれないですよね。どれだけ素晴らしい現実を見せられるかはまだわからないけど、自分たちのバンドがもっと上に行くというのが俺にとっては素晴らしい現実であって、それを努力して勝ち取っていくところをファンの人たちに見せたいっていう。そこはもうはっきりしているから。やっぱり近道なんて、どこにも無いんですよね。ただ、その道を真っすぐ進むしかないっていう。
――何か昔よりも、見えているものが多いんじゃないですか?
太志:うん、昔よりも現実を見ていますよね。昔は自分のことしか見えなかったけど、今は見ようと思えばいろんな景色を見ることができるわけで。「エルフの涙」に出てくる夢も「ヒナユメ」の夢もそうだけど、夢を叶えている人って、みんなちゃんと努力しているんですよね。そういう人たちと何かいろんな話をしたいなって、今すごい思っていて。で、そう思っていたら、何か自然と最近、頑張っている人たちが自分のまわりに現れるようになって――そういう人に、ちゃんと素直に言えるようになってきたんですよね。「俺もあなたのようになりたい」って。尊敬している相手に、ちゃんとそう言えるようになったというか。だから、そういう意味では、今すごく健全に悩んでいるし、すごく健全に前に進んでいる感じがするんですよね。
――確かに、何となく健やかな感じが、今回のアルバムの歌詞にはあるかもしれないですね。
太志:昔はもうちょっと尖っていたというか、鋭い言葉を書いていて――それがある意味、人の心に刺さる言葉だったのかもしれないけど、そうじゃなくてちゃんと人の心に残る歌を残したいなって、今は思うんですよね。尖っているからこその鋭さではなくて、ちゃんと心に残る言葉を書いていきたいなって。悲劇にひたるようなものはもう終わりにして、黙って前に進めるような人間になれたらいいなっていう。
――そういう太志君の思いみたいなものは、きっと歌詞の端々に出ているのでしょうね。
太志:うん。そこらへんが、すごく変わって来たなっていうのは、自分でも気づいているし。今回のアルバムの歌詞にも、それはすごく反映されていると思いますね。
★一度頭をリセットしてゼロの状態で聴いてもらいたいです(大介)
――では最後に、このアルバムをリスナーの人たちに、どんなふうに受け止めてもらいたいですか?
太志:とりあえず、何かワクワクしながら聴いて欲しいですね。自分もそうだけど、好きなバンドの新譜とかって、やっぱりワクワクするものじゃないですか。シングル曲は知っているけど、アルバム曲は初めてだったりするわけで。
――シングルだけを聴いている人は、ちょっと驚くかもしれないですよね。
太志:そうかもしれない(笑)。やっぱりイメージって、どうしても残ってしまうものというか、そこにはメリットとデメリットあって。メディアで使ってもらえたりすると、たくさんの人に聴いてもらえる分、その曲だけが僕らのアイデンティティとして捉えられてしまうんですよね。でも、それももう覚悟している段階ですね。アルバムではこんなことをやっているのにとか、そういうのがすごく悔しかったり、もっと全体を知って欲しいのになって思っていたときもあったけど、世の中はそういう仕組みで動いているものだし、その分俺らの代表曲はたくさんの人に聴いてもらえたわけだから。
――いわゆるヒット曲がありますからね。
太志:うん。イベントとかフェスとかに出させてもらったときに、やっぱりそういう曲があるっていうのが俺らの強みだと思うし、それは全然ダサいことでもないって今は思えるというか。むしろ、どこかで聴いたことがある曲がたくさんあるバンドなんだっていうことが俺たちの誇りだし、そういうふうに育ててくれたレコード会社にも、すごい感謝しているんですよね。レーベルの人たちが与えてくれたチャンスって、すごい財産になっているなって思うから。それもだから結局、親のありがたみに気づくのと一緒で、最近そういうのがすごくよくわかるんですよね。やっぱり、10年近くやっていると、そのくらい自然と心も大人になるのかな(笑)。そう、最近はどんなジャンルでも、良い曲を聴くといいなあって素直に思うし、それこそ真剣にポップスをやっている人のすごい曲とかを聴くと、ホントにもう言葉が出ないというか、すごい尊敬しちゃうんですよね。何か、もうちょっとで10周年っていうときに、そういう自分でいられることが、すごいハッピーだなって思います。ひねくれてなくて良かったなっていう(笑)。何か、すごく健全じゃないですか。目標がちゃんとあって、それに向かって頑張るっていう。
――取繕うものは何も無いというか。
太志:うん、取繕ってもやっぱりバレるからね(笑)。だからもう、地道にやっていくしかないっていうところに、俺はきているかな。曲作りも、コツコツやっている人が勝っていると思うし。何か10代の頃と変わらないなって思います。バンドだって、勉強だって、運動だって、結局コツコツやっているやつが、最後には勝つんですよね。
――そういう意味では、やっぱり真面目なバンドなんだと思いますよ。
太志:まあ、そうかもしれないですよね(笑)。それは自分らでも思います。あまりバンドマンっぽくないというか。他のバンドマンと話すと、ちょっとビックリしますよね。すごい破天荒というか、破滅へ向かうぐらいの人も結構多いわけで。でも、俺らには俺らの良さが絶対あるはずだから、別に不良ぶる必要もないし、何か自分たちの理想の形に向かって行く、良い時期なのかなって思うんですよね。ときどきネガティヴになったりしながらも。OKPがネガティヴになって、TASSHIがそれをなだめている構図は、いまだによく見ますけど(笑)。
TASSHI:そうですね(笑)。昔とかは、“5人組ポップユニット”とか紹介されるだけで「いや、僕たちバンドなんだけど」みたいな思いも結構あって。特にOKPは、それがいちばん強かったんですよね。だけど、やっぱり最近のいちばん大きな変化は、そんなOKPも、ちょっとポップス楽しいなっていうか、ポップスのすごみがわかるようになってきたっていうことで。まあ、僕とかもそうなんですけど、夏フェスとかに出ている日本のロックバンドのメインストリームみたいな人たちや、そっちのシーンに憧れがあったし、そういう人たちと一緒に活動したりフェスに出たりしたいと思うこともあったけど、10年近くやって来て、自分たちがやっている音楽を突き詰めて行っても、そうはならないことに気づいたというか。でも、何か俺らは俺らでいいんじゃないかって開き直ることが、それこそ去年いろんなライヴだったり話し合いだったりを経ることによって、ようやくできるようになってきたんですよね。そこでようやくバンドがひとつになれたかなっていう。極端な話、5人組ポップユニットでも、別にいいんじゃないかって今は思えるというか。大事なのはあくまでも音楽であって、呼び方なんて何でもいいんですよね。
OKP-STAR:何か自分たちの持ち味みたいなことが、ようやくちょっとわかってきたんですよね。それこそ、プレイスタイルだったり、歌うスタイルだったりとか、そういうのが。もちろん、好きなバンドや憧れの人はいますけど、そういう中でせっかく俺らの場所っていうのがあるんだから、そこを極めたほうが、別にそっちに寄るよりも絶対いいなっていう。多分、そういうバンドなんだと思うんですよね。一匹狼ではないですけど、他とは違う特徴的なものは、やっぱりあると思っているので。だから、ロック・フェスとかそういうところを目指して、そこに自分たちが近づけていくよりかは、もう10年もやって来たんだから、自分達を信じてやるしかないっていう。そもそも、10年続けられるバンドって、そんなに多くないと思うんですよね。だからそこを信じて、ちゃんと自分たちなりの音楽を突き詰めたほうが、絶対面白いものになるなっていう。そう思ったら、自分のプレイとかに関しても、すごい自分らしいプレイができているような気がして……自分でも何かいいなって思ったりするんですよね(笑)。そう、ネガティヴな人がポジティヴにいったときってすごいらしいから、ちょっと今はそれを信じている感じですかね。
――大介君はどうですか。
大介:すごく単純に言っちゃえば、今のAqua Timezはこんな感じですよっていうものにはなったというか、それがいちばんタイムリーに出ているんじゃないかなって思います。前のアルバムとかよりも、やっぱりその“色”みたいなものがすごい濃くて。あとは、アルバムを通して聴いたときに、自分で言うのもあれですけど、すごい聴きやすいアルバムだなと思ったんですよね。嫌な感じで耳に刺さる音が無いというか。ジャンル的な振り幅はあるけど、全部音がやさしいんですよね。だから、今までどういうイメージを持って聴いてもらっているかわらかないですけど、何かこう一度頭をリセットして、ゼロの状態で聴いてもらいたいですよね。そうやってこのアルバム一枚を聴いてもらえれば、今のAqua Timezっていうものが、きっとわかってもえらるんじゃないかって思います。
――では最後、mayukoさん。
mayuko:音楽っていうのはすごいもので、聴いていてワクワクしたりドキドキするものだっていうのは知っているつもりでやっていたけど、やっぱり昔の音源とかを聴くと、まだまだできていなかったというか、やっているつもりだったけどできていなかったなって思えるほど、今回はちゃんと表現できたなって思います。すごくフラットな状況で自分たちの音を出せるようになってきたというか、何か丸9年掛かってようやくここまで来た――何か一周回ってじゃないけど、「あ、ここだったんだ」っていう感じに、ようやくなれた気がするんですよね。なので、ライヴもちょっと今までとは違う感じで、ステージに立てるのかなって思っていて。9月から始まるアルバム・ツアーも、是非遊びに来て欲しいですよね。