アンナ・ナリック
【アメリカ カリフォルニア出身、21才のシンガー・ソングライター】

新世紀にふさわしい新しいタイプのシンガーソングライターの1人として、カリフォルニア出身、21才の彼女は、デビューアルバム『Wreck of the Day/レック・オブ・ザ・デイ』を完成させたばかり。デビュー・アルバムは、洗練された歌詞/心を捉えるメロディ/荘厳なサウンド/雰囲気が相まって新鮮な驚きを与え、ポップ音楽に、弾けるような若々しさと挑発的な意見を持ち合わせた、《新しいヴォーカル》が到来したことを確信させる作品だ。

影響を受けたアーティストとして、フィオナ・アップルやトーリ・エイモス(女性特有の複雑な心理が共通しているから)、ブラインド・メロン、ジョン・メイヤー(巧みな詩のパラドックスはアンナの曲にも繰り返し出てくる)、さらにはスティーヴィー・レイ・ヴォーン(「天国に行ったら彼と結婚するの」ときっぱり)まで挙げている。そのうえでアンナ・ナリックには、独特のサウンドと鋭敏さがある。



【幼少時期】

「子供の頃からパフォーマーになりたいと思ってたわ」と彼女は振り返る。「最初に影響を受けたのは祖父母。2人ともブロードウェーに出ていたの。主にコーラスだったらしいけど、祖母はフレッド・アステアとダンスしたんですって。マルクス兄弟の舞台版『ココナッツ』と『けだもの組合』に出演したのよ。私は子供の頃、そういう昔のショウの歌を祖母からたくさん教えてもらったわ」。祖母はアンナが8年生のときに亡くなったが、かつての「ショウビジネス」の話を聞いて育った彼女は、自分もパフォーマーになりたいという思いを強くした。

アンナ・ナリックが育ったのはカリフォルニア州パサデナの東にあるグレンドーラ。「大通りが1本だけあって、そこにアイスクリーム屋さんが1軒あるような町。映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくるような所よ」。14歳のとき、父がエルヴィスとエヴァリー・ブラザーズを聴かせてくれ、母はローリング・ストーンズやクリーム、レッド・ツェッペリンなどをよくかけていた。初めて曲を書いたのは5年生の頃だったという。「たしか算数の授業だった。いつものことだけど、先生の言うことなんて上の空で、クランベリーズの曲の替え歌を書いてたのよ。グリーン・デイの曲も、ベースの音をギターでコピーしたりしたわ。そういうのを全部まとめれば自分のメロディが書けるんだ、って分かったのよ」



【高校~大学時代の夢、そして運命の出会い】

高校生になる頃には、音楽への夢は大きく膨らんでいた。自作曲だけでなく、ライヴにも出るようになり、RASH(ラッシュ)のカバーバンドと一緒にステージで歌っていた。「親友の男の子とバンドを組んで、ハードロックをやってたのよ。あれだけ叫ぶには、ほんとに腹が立ってないと難しかったわ」と振り返る。だが、ラッシュやメタルバンドのカバーは、自分だけのオリジナル曲を書いて歌いたいという彼女の本当の願いとはほど遠いものだった。その頃は、とりあえず大学へ行き、それから音楽の道に進んで夢を叶えようと思っていた。大学進学後もソングライティングを続け、レインボーブライトのカセットテープレコーダーに録音。まもなく彼女は、ある高校で教えているカメラマンと出会う。その人が自分のクラスに親が音楽業界で仕事をしている子がいると言ったのだ。アンナは自宅で録音したローファイの6曲入りデモを渡した。するとさっそく、プロデューサーやタレントのマネジャーをしているその生徒の母親が、アンナをクリストファー・ソーンとブラッド・スミスに紹介してくれたのだ。この二人はブラインド・メロンの結成メンバーで、今はプロダクションチームを組んでいる。また、トーリ・エイモスのプロデューサーとして知られるエリック・ロッセにも紹介してくれた。



【夢の実現】

たちまちアンナ・ナリックは、子供の頃に影響を受けたアーティスト本人たちと、マスター・デモの制作に取りかかった。「プロのスタジオに入ったのは、あれが初めてだったわ」とアンナ。「夢みたいだった。これは現実だとは信じられなかったほどよ。自分の音楽が完全な姿を現すにつれ、ワクワクしたわ。すぐに選りぬきのレコード会社向けのデモを作り、ほんの2週間ほどでレーベルから声がかかったのよ」。そして2003年10月、アンナ・ナリックはコロンビア・レコードと契約した。



【アンナ・ナリックに結集したミュージシャンズ・ミュージシャン】

アンナ・ナリックは大学をいったんやめ、プロデューサーのクリストファー・ソーン、ブラッド・スミス、エリック・ロッセと共にスタジオ入りした。ミキシング・エンジニアはマーク・エンダート(フィオナ・アップル、マルーン5、ギャヴィン・デグロウ)、そしてミュージシャンはオールスター・グループ―ベースにスミス、ギターにソーン、キーボードにロッセとザック・レイ(アラニス・モリセット、メイシー・グレイ、シニード・オコナー)、ギターにライル・ワークマン(フランク・ブラック、シェリル・クロウ、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ)とスチュアート・マティス(ジュエル)、ドラムスにジョーイ・ワロンカー(ベック、ジョニー・キャッシュ、ネリー・ファータド)とマット・チェンバレン(トーリ・エイモス、フィオナ・アップル、デヴィッド・ボウイ、ジョン・メイヤー)。こうしてできあがったのが『Wreck of the Day/レック・オブ・ザ・デイ』だ。11曲のコレクションは、大きく開花しつつあるアンナ・ナリックの奥深い才能を紹介している。



【“Breathe(2A.M.)/ブリーズ(2A.M.)”について】

収録曲には、「3つの異なる状況がある特定の時間に絡み合った」様子を映し出す「Breathe (2AM)/ブリーズ(2AM)」や、アンナの本心をさらけ出した「Citadel/シタデル」がある。本人も「あの曲は私を一番よく描写しているわ」と認める。「あれを書いたのは、これでいいのかどうか分からなかった時期。ためらっていて、両足で飛び込むのが怖かった。こういう歌詞があるの――“落っこちたらどうする? 落っこちずにすんだらどうする? 無事に家に辿りつけなかったらどうする?”。つまり怖がるのはいいけれど、やってみないことには、うまくいくかどうか決して分からないってこと。私の中にはまだ少女の自分がいて、怖がりながらも、本当は飛び込んで刺激的な大きな可能性に賭けてみたいのよ」



『Wreck of the Day/レック・オブ・ザ・デイ』で、アンナは大きな可能性を自分の手でしっかりとつかむことになる。世界中を巻き込みながら。