「音楽は仕事ではなく、使命なのです。この社会をより良いものにする、という使命です」~リッカルド・ムーティがニューイヤー・コンサートで発した熱いメッセージ、全訳です。
今年のニューイヤー・コンサート、無観客公演だったことに加えて異例だったのは、指揮者のムーティがスピーチを行ったことでしょう。恒例のアンコール曲「美しく青きドナウ」の演奏の前に約3分間にわたって熱弁をふるい、「音楽の使命は社会をより良いものにすること」を、イタリア訛りの英語で力づよく訴えました。例年であればオーケストラとともに「新年明けましておめでとう!」という一言を発するだけのところですが、あえて言葉を尽くしたムーティに、オーケストラは譜面台を叩いて賛同の拍手を贈りました。
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今年のニューイヤー・コンサートは異例の状況で開催されています。放送を通じて世界90か国以上の数多くのみなさまのために演奏しているのはわかっています。ですが、この美しい、歴史的なムジークフェラインザールは空っぽです。ウィーン・フィルは素晴らしい演奏をしています。それはみなさまに音楽のメッセージを伝えたいからであり、またこのオーケストラはブラームス、ブルックナー、マーラーやそのほかの多くの作曲家、そしてこのホールで歴史を刻んできた音楽家たちの精神に囲まれているからです。
昨年1年間が人類全てにとって厳しい年であったことは改めて申すまでもないでしょう。ラテン語ではhorrendus annusもしくはhorribilis annusと表現します。しかし今私たちはここにいて、音楽が運んでくれるメッセージを信じて演奏しています。音楽家には武器があります。これは人を殺さない、花ともいうべき、音楽という武器です。音楽は喜びや希望、平和、兄弟愛、そして何よりも大文字のLで始まるLOVE(愛)をみなさまにお届けすることができます。
音楽が大切なのは、よくいわれるようにエンターテインメントであるからではありません。私たち音楽家にとって、音楽は仕事ではなく、使命なのです。その使命を伝えるために音楽家は働いているのです。では何の使命か?それはこの社会をより良いものにする、という使命です。新しい世代の若者にとってこの1年は、物事を深く考えられないままに過ぎてしまいました。自分の健康のことを始終考えていなければならなかったからです。身体の健康は大切ですが、精神の健康も同じくらいに大切です。音楽はその精神を健康に保つのに必要なのです。
世界中の知事、大統領、首相のみなさまに私からお願いしたいことがあります。将来社会を良くするためには、音楽という文化は欠かすことができない要素であるという点をどうかお考えください。この思いを込めて「美しく青きドナウ」を演奏いたします。この美しい曲の音の波の中に、喜びと悲しみが、生と死がいっぱいに詰まっていることをお聴きください。今年はいい年になりますように!私の仲間のウィーン・フィルのメンバーとともに、彼らの美しいドイツ語で新しい年のご挨拶を申しあげましょう。新年あけましておめでとうございます!
[アンコール「美しく青きドナウ」の演奏の前に行われました。]
ウィーン・フィルのFacebook上にスピーチの全貌の動画が公開されています。
https://www.facebook.com/ViennaPhilharmonic/posts/3551766054901178