We Want Jazzデジタルパンフレット
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4マイルス・デイビス : マイルストーンズ+3(ステレオ&モノラルW収録)マイルス・デイビス : イン・ア・サイレント・ウェイフィル・ウッズ : フィル・ウッズ&ザ・ジャパニーズ・リズム・マシーンマイルス・デイビス : アガルタ前ページから続く後藤雅洋(ジャズ評論家 ジャズ喫茶「いーぐる」店主) マイルスは活動期間が長いだけに、録音時期によるファンの好みも分かれているようだ。1967年に「いーぐる」を開業した私は、マイルスが「エレクトリック期」へと大きく変容する時代を体験している。その頃、ジャズ喫茶のお客の間でささやかれていたのは「私はアコースティック時代のマイルスが好きなんだよね」という声だった。 しかし当時のアルバムに記されていた「大音量で聴け」という注意書きに従って70年代以降の作品を聴くうち、マイルスの絶頂期は一時期引退の直前、日本で録音された『アガルタ』~『パンゲア』であることを確信した。彼は様々なジャズ・スタイル誕生に関与しつつ、常に前進し続けていたのだった。 あれは当時背伸びして聴いていたAFNから延々流されるアメリカンロックに退屈して局を変えようとした瞬間に「突然」流れてきた。そう、この曲にはまどろっこしいイントロがまったくない、いきなりテーマだ。だから他局のボタンを押す暇もなく二十歳の若造のアタマにしっかりと冒頭40秒のテーマが刻み込まれ、僕のこれまでコツコツ貯め込んできた音楽的志向はこの1曲で綺麗さっぱり書き換えられてしまった。「マイルストーン」は門外漢にジャズのカッコ良さをテーマ一発で分からせるための曲だ。ガツンとくるモノラルなら尚更いい。余談だがあの日流れた「マイルストーン」は帝王が死んだことを知らせる訃報のバックに使われたものだった。 ビートの刻みは細かく、躍動感もあり、エレクトリック・ピアノとエレクトリック・ギターがフィーチャーされても、スペースが尊重されている。ロックでもフュージョンでもない音楽だと、新しい世代がこれを発見するのも何ら不思議ではない。ECMもアンビエントも、さまざまな音楽がここから枝分かれしていった。一方で、これはモーダルなジャズが確かに宿っている美しい音楽でもある。いまも、何かを探し、何かを辿ろうとするときにこの音楽に戻ってくる。 当時このアルバムをLPで初めて聴いた場所は、アルト奏者本多俊之先生の自宅のリビングだった。 「アルト・サックスがこんなに巧く吹けるなんて。」と針を落とした。溢れ出す音の流れに圧倒される。激しく優しく艶っぽくも猛々しいフレーズに夢中になった。スタジオ録音にない荒々しい臨場感はライヴ盤ならではの魅力。今はなき東京新宿厚生年金会館1975年7月31日。その場に居なかった自分を悔やむ。必聴の名盤。聴かずしてどうする。佐藤俊太郎(Jaz.in編集長)原 雅明(音楽評論家)林家正蔵(落語家)

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