ここ20年間のUKで名実ともに最もビッグな存在として揺るぎない地位を確立したステレオフォニックス。
16年のキャリアを通してリリースの度に新境地を見せながらも着実に良質な作品を作り続けてきた、世界的にも稀な成長力と生命力を持ったロック・バンドである。ヴァージン・グループの総帥リチャード・ブランソンが96年に立ち上げたV2レコーズの契約第一弾アーティストとして注目が集まる中、デビュー・アルバム『ワード・ゲッツ・アラウンド』が全英6位のヒットを記録、2nd『パフォーマンス&カクテルズ』で見事全英1位と200万枚のセールスを達成した。以降6作目の『プル・ザ・ピン』まで5作連続で初登場1位を記録するという破格の成功街道をひた走ってきたのだ(因みに90年代以降のロック・バンドではオアシスの7枚連続に次ぐ記録。他ブラー、レディオヘッド、コールドプレイが同じく5枚連続)。
デビュー当時は骨太で剛健な(どちらかと言うとアメリカンな)ロックンロールと地元ウェールズの小さな田舎町の匂いを感じさせるアーシーなバラードが主体だったが、4人編成が定着してからはやはりその血に流れる"ブリティッシュ"なサウンドへと次第に向かい、軽やかさと重厚さを自在に操るバンドとなっていった。この度、長年所属したV2レコーズの契約を全うし、デビュー以来走り続けてきた彼らが初めて前作のツアー後に1年の休息とリセット期間を設けた。そして自由なスタンスで活動すべく「スタイラス・レコーズ」を自ら立ち上げ、「イグニション」内にレーベル環境を整えた。ある意味で今の彼らは"第2のデビュー"時期にあると言える。新レーベルからの第一弾となる本作では、ケリー・ジョーンズ(Vo/G)がライフワーク的に取り組んでいる映画の脚本からスピンオフ的に発展したものや、日常生活のひとコマから第3者的な目線でストーリー仕立てにしていく物語性豊かな詞の世界観が、このバンドのサウンドを過去最高に美しく、儚い世界へと導いた。日本においては約10年振りのソニー・ミュージック復帰作でもある。
■バンドのレーベル「スタイラス・レコーズ」(Stylus Records)を立ち上げ、その第一弾となるのが本作。このレーベルの機能は「イグニション・レコーズ」(Ignition Records)にあり、この「イグニション」はマネジメントとしてオアシスなどが所属。ノエル・ギャラガーのレーベル「サワー・マッシュ・レコーズ」も同じく「イグニション」内にレーベル機能を持たせており、UKのステレオフォニックスのレーベル・スタッフはギャラガー兄弟と同じ(現在リアムは移籍)。
■ニュー・アルバムからの2ndシングル(日本1stシングル)「インディアン・サマー」("小春日和"の意)がアルバム直近シングルとして2月20日デジタル発売(UKでは1月20日iTunesで発売)。一発録りのタイトなバンド・サウンドにストリングスとハーモニーを効果的に重ね、すがすがしさと切なさが厳かなタッチで絶妙に交わるアルバム中最もポップなミッド・チューン。
■1stシングル「イン・ア・モーメント」はフリー・ダウンロード・シングルとして昨年11月4日に配信。その前の10月にミュージック・ビデオで発表されたのが、アルバムからの最初に発表された新曲(シングル扱いでは無い)「ヴァイオリンズ・アンド・タンバリンズ」。学生時代に映画の脚本の勉強をしていたフロントマンのケリー・ジョーンズの初監督作品。まるで映画のハイライト・シーンを切り取ったような緊迫感溢れる映像で、楽曲も静かな淡々とした立ち上がりから後半テンポ・アップ、ドラマチックに展開するストリングスが美しい荘厳な曲。