既に定番化しているジャズ・コンピレーション『THE BEST OF JAZZ』シリーズから登場する初のスピンアウト企画は、ポップスやR＆Bのヒット曲、ジャズ・スタンダード、映画のサウンドトラックなど、耳馴染みのある名曲の数々をジェントルかつスマートなテイストでお届けする、“コンフォタブル”なジャズ・カヴァー集だ。演奏したり歌っているのは、ケニー・Gやフォープレイを初めとする、いずれもコンテンポラリー・ジャズ〜スムース・ジャズ系の一流どころ。缶コーヒーのCMに使われたデイヴィッド・サンボーンの〈わが心のジョージア〉、スティングのバンドで男を上げたトランペットの貴公子クリス・ボッティの〈ホェン・アイ・フォール・イン・ラヴ〉のほか、マイケル・ブレッカー feat.ジェイムス・テイラーのジャズ・バラード〈ザ・ニアネス・オブ・ユー〉、リー・リトナー＆デイヴ・グルーシンによる〈さよならは言わないで〉という名匠同士の素晴らしいコラボレーション、ジョン・ピザレリやタック＆パティが歌う珠玉のビートルズ・ナンバーなど、実に豪華絢爛なラインアップが並んでいる。他にもグローヴァー・ワシントンJr.やトゥーツ・シールマンス、ティル・ブレナーら多彩な顔ぶれが、レーベルの枠組みを越えてたっぷり収録。それでいて滑らかに聴き流せるライトなフィーリングが保たれ、演奏家のプロフィールなど知らなくても、サラリと気兼ねなく楽しめる親しみやすさが演出されている。まずは聴き覚えあるメロディに軽〜く耳を傾け、歌声や楽器のふくよかさに惹かれたら、それが誰かを確かめる。そんな楽しみ方が似合う編集盤なのだ。人のぬくもり、あたたかさが身に滲みてくるこれからの季節、是非傍らに置いておきたいハートフルな一枚である。
音楽ライター：金澤 寿和 (www.lightmellow.com)
