2004年9月18日(土)
過去最大級の大型ハリケーン「アイバン」が米南部に上陸のニュースは、ここ日本でも大きく報じられていたが、その爪あとも生々しいカリブの小国(正確にはアメリカ自治領)プエルト・リコにて、ロビ・ドラコ・ロサがショウを行った。
9月1日に行われた第5回ラテン・グラミー・アウォードで3部門にノミネートされ、見事「Video of the Year」を受賞した直後ということもあり、凱旋公演の様相を呈したものになるだろうとの予測はあったが、実際におこなわれたそのショウは想像をはるかに超える素晴らしいものだった!




ライヴが行われた
<COLISEO DE PUERTO RICO>




街中で張られたポスター、
いたる所で見かけました
 



ドラコがスポンサーとなっている
2つのミュージアム

MUSEO DE ARTE DE PUERTO RICO 

MUSEO ARTE CONTEMPORANEO DE PUERTO RICO
前夜(正式には当日)に
行われたリハーサル風景



 

会場はまだ完成して2週間足らずという新しいコロシアムで、その名も「COLISEO DE PUERTO RICO JOSE MIGUEL AGRELOT」。JOSE MIGUEL AGRELOTはプエルト・リコの有名俳優/コメディアン。惜しまれつつ今年1月に亡くなったことを受けてその名が(会場名に)冠されたのであろうか?
首都サンファンのメトロポリタン・エリアに位置するこの会場で行われたミュージック・コンサートはまだヴァン・ヘイレンだけだというから、ドラコは2人目のアーティストとなる(ローカル・アーティストとしては勿論初)。全人口400万人に満たないこの国で、約2万人を収容するこの会場がソールド・アウトだというから凄い。
しかし上述したようにハリケーンの影響で、ギリギリまでキャンセルも検討されたそうで、事実、街の中心部も含め依然停電中という状況からその他のショウは全てキャンセルされた。全てが後ろ倒しの進行で、ドラコはショウ当日の朝7時までリハーサルを行っていたらしい。加えて、ショウは来年発売されるDVD用の撮影と、「Como Me Acuerdo」のPV撮影も兼ねていることもあり、周囲のスタッフも戦々恐々とした面持ちで準備にのぞんでいた。

開場後、20代〜30代を中心にお客さんがどんどん集まりだした。男女比は半々といったところで、カップルの姿もよく目に付いた。「なりきりドラコ」みたいな人もいて、どこの国にもアーティストとルックスを真似るコアなファンがいることを痛感。ちなみにこの日はスペインからの特別ゲストとしてGITANOのショウが約15分程行われ、フラメンコ・ギターとカホン、ヴォーカルというシンプルな布陣ながら会場を盛り上げていた。
そしていよいよドラコの登場、の前に素晴らしい演出が用意されていた。妻でありビデオ・ディレクターであるアンジェラに付き添われ、彼の息子が舞台に登場。ひとりステージに置き去りにされた彼が、一足先にステージ脇に引っ込んだ母親を追いかけて駆けて行くというもの。そんなほのぼのとした一幕にヒートアップした会場で「Commitment #4」の暗く思いイントロが流れる。
メンバーと共にドラコが登場。ミリタリー・ジャケットにTシャツ、ジーンズというカジュアルな装い。非常にリラックスした様子がみてとれる。ステージにはドラコのほかにギター×2、ベース、ドラムの計5人。なお言い遅れたがショウは「DRACO AL NATURAL」と題されたフル・アコースティック・ショウ。エレクトリックな要素を取り除いたセットでどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか興味は尽きない。

1曲目は96年の代表作『Vagabundo』のタイトル・トラック「Vagabundo」。早くも会場のヴォルテージは最高潮に達し、ドラコのヴォーカルが掻き消されるほどの大合唱が沸き起こった。<放浪者>と題されたこの曲が(世界を転々と歩みつつ、自らの経歴にも放浪者としての資質を反映させてきたドラコを投影しているかのようなこの曲が)、地元プエルト・リコでのオープニング・ソングとなったことは興味深い。
その後最新イングリッシュ・アルバム『Mad Love』から「Try Me」「Lie Without A Lover」「My Eyes Adore You」「California」と続く。アレンジを大きく変えたアコースティック・パフォーマンスは、極限まで装飾を削ぎ落とした天然素材さながらで、表現力だけを武器に息づくようなソウルを聞かせてくれる。
「California」では現在ロンドン在住の黒人女性ヴォーカリストとソウルフルなデュエットを披露。蛇足ながら、彼女はシカゴ・ハウスの立役者であるマーシャル・ジェファーソンに見出され、その後Soul 2 Soul他多数のミュージシャンとのコラヴォレーション経験をもち、自らのアルバムもリリースしている実力派シンガーだ。
続いてスパニッシュ・アルバムからも「Bandera」「Para No Olvidar」「Cuando Pasara」「Casi Una Diosa」「Cruzando Puertas」「Amantes Hasta El Fin」を時に激しく、時に切々と歌い上げるドラコ。彼の場合、過去の(もしくは現在の)曲という言い方はあたらない。全てではないが、ソロ・デビュー・アルバム『Frio』から最新作『Como Me Acuerdo』まで、常に自らの産み落とした楽曲をアップデートし続けているからだ。故に常に現在進行形の曲として機能している。それだけに違和感もないが、だからと言って各々の楽曲が決して似通ったものでなく、実験的であり、パンク的なアティチュードに貫かれている。それは引き続き披露された「La Flor Del Frio」「Heaven」「Delirio」「Penelope」「Blanca Mujer」「Mad Love」「Mas Y Mas」「Brujeria」「Madre Tierra」も然り。時に抑圧し、時に開放される感情の発露が、観ている者の心を鷲づかみにする。
そしてショウも終盤。「Noche Fria」「Vertigo」と続き、サポート・アクトのGITANOをフィーチャーしたJose Rafael Mayaの華麗なフラメンコが披露された。男性ならではの雄雄しいステップに導かれ「Como Me Acuerdo」の演奏が始まった。
バックのスクリーンには家族の写真が映し出され、楽曲のもつ哀愁と重なって涙をそそる。この曲は紛れもなく、現時点における彼の代表曲筆頭だろう。
2時間に及ぶショウのフィナーレを飾ったのは、故郷への愛を歌った「Bajo La Piel」。「プエルト・リコはアメリカの自治領だけども、偉大なひとつの国だと僕は信じている」という感動的なMCに、観客が声を振り絞り、国旗を振って呼応する光景は本当に美しかった。「説明するよ/アメリカはプエルト・リコとともに歌う/僕の大空、僕の大地、すばらしい人々/僕はこの小さな独立国を愛している」とこのプエルトリカンは歌った。異能の<放浪者>は、最後にここに戻ってくるのだ。


Here Al Natural Rundown:

1. Vagabundo
2. Try Me
3. Lie without a lover
4. My eyes adore you
5. Bandera
6. California
7. Para no olvidar
8. Cuando pasara / Casi una diosa / Cruzando Puertas / Amantes hasta el ffin
9. La flor del frio
10. Heaven
11. Delirio
12. Penelope
13. Blanca Mujer
14. Mad Love
15. Mas y ams
16. Brujeria
17. Madre Tierra

<1st Reprise Gitanos>
18. Llanto Subterrneo
19. Noche fria
20. Vertigo

<2nd Reprise Gitanos>
21. Como me acuerdo
22. Bajo la piel


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