BRUCESPRINGSTEEN

1. Outlaw Pete / アウトロー・ピート

いきなり8分もある長い曲で、アルバムの幕を開ける。〈アウトロウ・ピート〉は一人称で歌われる曲ばかりの本作の中で唯一主人公「ならず者のピート」を登場させて、彼の生涯を綴る物語歌となっており、ストリングスやギター・ソロがピートの冒険と死の物語を劇的に盛り上げる。こういった社会の部外者である犯罪者を歌う作品は、シーガー・セッション・バンドで取り上げた〈ジェシ・ジェイムズ〉(悪名高い銀行や列車の強盗が主人公)など伝統歌によくあるし、もちろんブルースには『ネブラスカ』という素晴らしい前例があることは言うまでもないだろう。ちょっとマイナー調のローリング・ストーンズの「黒く塗れ(Paint It Black)」(?)なども彷彿させるメロディにストリングスがかぶってくる展開バリバリのドラマティックな曲

2. My Lucky Day マイ・ラッキー・デイ

3曲目と同じく1曲アルバムに先行して発表された。疾走感あふれるボスならではのストレートなロック・ナンバー。クラレンス・クレモンズのサックス・ソロをはじめとするEストリート・バンドの真骨頂!この曲の方がオープニングっぽいかも。その曲名通りに「おまえは俺の幸運な日」とまで歌う

3. Working On a Dream / ワーキング・オン・ア・ドリーム(1st Single)

「俺の引いたカードの手はひどかった」「土砂降りの中、ハンマーを打ち下ろし、手は荒れてしまい」とヴァースでは苦闘を歌うが、コーラスでは「夢はいつか自分のものになるはず」と誠実な愛と真摯な努力によって夢を取り戻せると希望をこめて歌う。すべての夢を追い続ける人々へ向けて高らかに歌い上げ、希望と勇気を与えてくれる賛歌。

“俺は夢を追い続けている。とても遠くに感じられるが、諦めない。夢を叶えるため努力を続けるんだ。いつか俺のものになるはずだから。日が昇り 新しい1日が始まる そして俺は夢を追い続けている“

4. Queen of the Supermarket / クイーン・オブ・ザ・スーパーマーケット

冒頭のロイ・ビタンのピアノ、そしてそこにかぶってくるオルガンの音で、ボスの初期のアルバムで聞かれたバラードを思い出す人が多いはず。美しくロマンティックな曲、「7月4日のアズベリー・パーク」のようにたぶんブルースにまつわる重要な場所を歌っているのかも?

途中からストリングスが加わり、コーラスが入ってきて、と最後のコーダまで展開していくが、誰が歌っているのだろうか、終盤にロイ・オービスン的なオペラのような歌声まで登場して、ブルースのロイへの敬愛の念を知る我々ファンをにやりとさせてくれる。今までにないヴォーカル・ハーモニーの多用はこのアルバムの特徴。

5. What Love Can Do / ホワット・ラヴ・キャン・ドゥ

きらきらしたポップな曲が並ぶ中で、短調のロック曲がアルバムに陰影を加える。ブルースお得意のマイナー調のミッドテンポのロック・ナンバー。『闇に吠える街』収録「Prove It All Night」のようなギターのリフが効いてる曲。

6. This Life / ディス・ライフ

これが驚きのポップな楽曲!ビーチボーイズ、フィル・スペクターを髣髴させるような、メロディアスで極上のサウンド。2009年のグラミー賞にもノミネートされた前作『マジック』の名曲「Girls In Their Summer Cloths」の兄弟曲のよう。『マジック』の〈ガールズ・イン・ゼア・サマー・クローズ〉で聞かせた、マネジャーのジョン・ランダウ言うところの「『ペット・サウンズ』タイプの感覚がEストリート・バンドのサウンドとミックスされている」サウンドといえる。最後のエンディングがまた秀逸!“ラララ〜”のコーラスが、もータマラナイです。

7. Good Eye / グッド・アイ

近年演奏されてきた〈生きる理由〉のコンサート版に近い歪ませた歌声とハーモニカをフィーチャーした南部ブルーズ風。50年代のBLUESの録音のようなイメージを醸し出す。

8. Tomorrow Never Knows / トモロウ・ネヴァー・ノウズ

一転してカントリー・タッチの軽快なポップなナンバー。ニルス・ロフグレンのペダル・スチールが素晴らしい。シーガー・セッション・バンドでやってもおかしくないルーツ音楽指向のサウンド。ペダル・スティールやフィドルに加え、たぶんチェインバレンと思われるキーボードの音がかぶさり、一味違ったものにする工夫がされている。

9. Life Itself / ライフ・イットセルフ

〈ホワット・ラヴ・キャン・ドゥ〉同様アルバムに陰影を加える短調のロック曲。エレクトリック12弦が全面的にフィーチャーされ、間奏でテープ逆回し的効果を加えたサイケデリックなギター・ソロが入るのが格好いい。
シリアスに切々と歌い上げる近年のブルースの作風に近い曲。

10. Kingdom of Days キングダム・オブ・デイズ

これまた非常にメロディアスでポップな楽曲。陽が注ぎ込む夏の日の午後を感じるような美しいミッドテンポの名曲。後半はストリングスともに大円団。サウンド、コーラスなど60年代前半のいわゆるガール・グループのポップ音楽への嗜好が窺われる。

11. Surprise, Surprise / サプライズ・サプライズ

キラキラとしたまさにEスリート・バンド・サウンド!ベースがド・シ・ラ・ソ・・・と降りていく黄金のコード進行のあまりにもポップ!60'sフィーリングのアレンジでアメリカ音楽の黄金期を今の時代だからこそ思い出せということか?『マジック』の〈ユア・オウン・ワースト・エナミー〉で聞かせた、ブルースがポップ職人としての腕前を発揮している。

12. The Last Carnival / ザ・ラスト・カーニヴァル

締めはいつもの通りシンプルなフォーキーな曲。静かに荘厳にアルバムはクロージング。
この曲は2008年4月に惜しくもメラノーマ(ほくろの癌)で亡くなったEストリート・バンドの盟友、ダニー・フェデリーシへ捧げられた曲。ダニーの息子さんも参加している

13.The Wrestler / ザ・レスラー

※Bonus track:以下の曲は今回のレコーディングとは異なり、ブルースのソロ作のようです(アコースティック的)

ミッキー・ロークが中年プロレスラーを演じ、アカデミー賞主演男優部門ノミネート間違いなし、ローク復活の傑作と絶賛を浴びているダレン・アロノフスキー監督の同名映画の主題歌。ブルースとロークは長年の友人であり、お互いのファンである。ブルースは浮き沈みの激しいキャリアを送ってきた友人を常に気にかけて連絡を保っているそう。この新作映画の話を聞いたときも、ブルースはさっそく電話をした。ロークが送ってきた脚本を気に入ったブルースは08年前半の欧州ツアー中にこの曲を書き下ろし、自由に使ってくれと提供したのだ。実は映画の出資者の一人がローク起用に反対して降りたため、アロノフスキー監督が資金繰りに苦しんでいるという事情を知っていたからだ。この曲に感激した監督はエンディングのクレジット・ロールに流すことにした。「映画とローク演じる主人公の精神を見事にとらえていて、聴くたびに胸が詰まる」と監督も語る新たな名曲は既に09年ゴールデン・グローブ賞の最優秀オリジナル楽曲部門を受賞。アカデミー賞でもブルースに2個目のオスカーをもたらすのではと期待されている。
日本公開は6月予定。 配給は日活。

◆予告編 http://www.foxsearchlight.com/thewrestler/

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