80年代プレイバック 4
1984年『サントラブーム』ケニー・ロギンスはフットルース!? トップガン!?!?……フラッシュダンス!!!???
ロック/ポップスが映画と完全合体した80'sMTV映画。“フィルムを聴く”史上空前のサントラブーム到来!
What a Feelingなロック/ポップスと映画の相互関係。
 
  一日中、ミュージックビデオ(以下MV)を流し続けるMTVの登場以来、MVの内容が充実していれば、曲もヒットするという方程式が欧米の音楽業界の常識となった80年代。“映像を制する者は音楽シーンをも制す”と言われるなか、アーティストたちはMVを“4分間の映画”と位置付けるようになった。2時間の劇場公開映画のハイライトシーンを2〜3分の編集映像に落とし込んだ予告編というのは、誰が観ても大抵面白そうに見えるもの。アーティストと楽曲の魅力を伝えるためにMVでは、じつはそれと同じことを映像形成していたのだ。カルチャー・クラブの華やかなMVや、デュラン・デュランの凝った物語風MVにお金がかかっていることは一目瞭然。マイケル・ジャクソンにいたっては「スリラー」で本当にショートフィルムを作ってしまったから器が違う。

  『エンドレス・ラヴ』『愛と青春の旅立ち』『ロッキー3』など映画主題歌が、劇中のフィルムをふんだんに使ったMVの効果も奏し軒並みポップチャートの首位を独走。そんなビジュアル重視の追い風の80年代前半、ハリウッドは、面白いことにそんなMV効果を逆転発想したのだ。つまり、4分間の音楽宣伝映像を、2時間にバージョンアップさせたのだ。もちろんそのことを声高に公言したわけではないが、スクリーンに映し出される作品は正直で、顕著だった。その先駆けとなったのが1983年公開の『フラッシュダンス』だ。プロのダンサーを夢見る主人公(ジェニファー・ビールズ)が、主題歌「フラッシュダンス〜ホワット・ア・フィーリング」に包まれて、窓から陽が差し込むオーディション部屋のなかで審査員の前で踊る感動的なラストシーンは、80sMTV映画の未来を予見させた。
え!? ジェニファー・ビールズが歌ってるんじゃないの?
 
  僕は中学1年生の夏休みに映画館で『フラッシュダンス』を体感。ミュージカル作品ではなくとも物語とロック/ポップスが対等な関係にあることをその目に焼き付けたのだ。その帰路に主題歌のドーナツ盤をゲットしたが、それが初めて自分のお小遣いで買った洋楽レコードだった。歌っているのもてっきり主演のジェニファー・ビールズだと思っていたので、アイリーン・キャラの存在に正直(かなり)ビックリしたが、踊っていたのも吹き替えだったと事情通な兄から聞いて二度ビックリ!! 思わず覚えたばっかりの英語♪Say it isn’t so?(byホール&オーツ)を口ずさむ。

  そんなウブな中学生まで巻き込んだこのヒット曲は、1983年9月5日付オリコン総合チャートで1位を記録、70万枚(当時)のセールスを突破した(ちなみに次の洋楽での総合チャート1位は95年12月のセリーヌ・ディオンwithクライズラー&カンパニー「TO LOVE YOU MORE」まで12年も待たなければならない)。アルバムも同じくオリコン総合チャートで1位(11週)を獲得し、90万枚(当時)を突破、堂々この年の年間チャートも制覇している。10月には、大映ドラマ制作の、ダンスとは何?にも接点がないフライトアテンダント養成ドラマ『スチュワーデス物語』の主題歌に麻倉未稀のカヴァー曲「ホワット・ア・フィーリング -What a feeling-」が起用され、幸か不幸か“ドジでノロマな亀のテーマ曲”としてもお茶の間を賑わせた。
映画、主題歌、シングル、カヴァーダンス……フットルースで行こう!
 
  1984年、もうひとつの青春ダンス映画が公開された。『フットルース』だ。シカゴ育ちの高校生(ケビン・ベーコン)が、ダンス禁制のスモールタウンに引越し、高校でダンスパーティを実現させるための青春ドラマ、というたった3行で記せる物語を繋いだのはやはりロック/ポップスだった。「フットルース〜メイン・テーマ」(ケニー・ロギンス)、「レッツ・ヒア・イット・フォー・ザ・ボーイ」(デニース・ウィリアムス)、「パラダイス〜愛のテーマ」(アン・ウィルソン&マイク・レノ)をはじめ、青春ストーリーを大音量で包み込んだナンバーから6曲がシングルカットされヒットを連発。アルバムも700万枚(当時)のセールスを突破し、84年度上半期の全米チャートは『フットルース』に席巻された。公開が数ヶ月遅れた日本では夏にサントラ人気が爆発、9月10日付オリコン総合1位に輝き80万枚(当時)のセールスを突破。年間チャートは1位がマイケル・ジャクソンの『スリラー』、2位が『フットルース』、3位がサザンオールスターズの『人気者で行こう』という、洋楽が人気もので行く1,2フィニッシュも実現した。

  さらに、ムーヴィング・ピクチャーズを元ピンク・レディーのMIEがカヴァーした「NEVER」、ボニー・タイラーを麻倉未稀がカヴァーした「ヒーロー -Holding Out For a Hero」」がやはりそれぞれ人気大映ドラマの主題歌となった。さらに、さらに。ケニー・ロギンスの「アイム・フリー」のカヴァーで渡辺美里がデビューするなど、サントラ発のカヴァーブームはマックスをむかえた。

  映画『フットルース』にみられるMVとMVを繋ぎ合わせたかのような過剰なまでの音楽依存は“音楽と映画のどちらが先に作られているのか”の疑問まで巻き起こる。映画とロック/ポップスの密月の関係は、そんな問いにも開きなおり、1986年にひとつの究極作品を完成させる。
ロック/ポップスと映画の密月関係はデンジャー・ゾーンに突入!
 
  1986年度世界No.1ヒット映画『トップガン』は、冷戦下の米軍パイロットの青春物語。オープニングの飛行シーンで「デンジャー・ゾーン」(ケニー・ロギンス)の爆音がF14トムキャットのエンジン音をかき消す。士官候補生パイロット(トム・クルーズ)と美人教官(ケリー・マクギリス)が濃厚ラブシーンを重ねる度に、「愛は吐息のように」(ベルリン)がこれでもか、これでもかと覆い被さる。映画史上に類をみないこのヘヴィローテーションこそが、MTV映画の醍醐味だった。この時点で、もはや音楽は台詞を超えた存在になり切っても切れない危険な関係に突入していた。実際に先述の2曲のMVを連続で観ると、もうすっかり映画全部を観た気分になっていたから面白い。ロックには冷たいアカデミー協会もここまで来るとこの現象を無視することができなくなり、「愛は吐息のように」は第59回アカデミー賞の最優秀歌曲賞を授賞した。

  本国アメリカ公開から遅れること半年、1986年12月、僕は授業をさぼって映画館に直行した。今はもうない横浜・馬車道の東宝会館。超満員の劇場の一番前の席で首をアゲながら観たトム・クルーズは最高に、死ぬほどカッコよかった。劇中で流れる曲はすべてメロディをなぞれるほど聞き慣れたものだった。大好きだったラヴァーボーイ「ヘヴン・イン・ユア・アイズ」の挿入部分がどうしても分からず、お店のBGMでちょっとだけ使われていたことは3回目の鑑賞でやっと判明(全部で4回は観たかな)。日本ではこの作品はお正月映画として公開され、1987年度No.1ヒットになり、サントラは70万枚のセールスを突破し、80sベストセラーの仲間入りした。

  80年代も後半になると『ダーティ・ダンシング』(1987年)、『カクテル』(1988年)など、劇場の観客動員以上にLP/CDの方が売れるという世界共通の逆転現象が起こりはじめた。ブームの反動として映画本編の質の向上を求めたのだろうか、映画はロック/ポップスから距離を置くようになり、サントラブームはバブルのごとく弾け散った……かのように思われた90年代初め。『ボディガード』(1992年)が映画、サントラ共に空前の大ヒット。OLやカップルが映画館に大挙押し寄せ、未だに破られない洋楽サントラ史上初のダブルミリオンも達成した。ホイットニー・ヒューストンに一票を投じた多くのユーザーが、すっかり社会人になっていた“80sMTV世代”だったことは言うまでも、エンなぁ〜〜〜〜〜〜〜い♪
文/安川達也
80年代全米No.1サウンドトラック<ソング>
タイトル アーティスト 全米No.1獲得年月日(獲得週) 全米年間チャート 映画タイトル
コール・ミー ブロンディ 1980.04.19(6週) 1位 『アメリカン・ジゴロ』
マジック オリヴィア・ニュートン・ジョン 1980.08.02(4週) 3位 『ザナドゥ』
エンドレス・ラヴ ダイアナ・ロス&ライオネル・リッチー 1981.08.15(9週) 2位 『エンドレス・ラヴ』
ニューヨークシティ・セレナーデ クリストファー・クロス 1981.10.17(3週) 64位(1981)
98位(1982)
『アーサー』
炎のランナー ヴァンゲリス 1982.05.08(1週) 12位 『炎のランナー』
アイ・オブ・ザ・タイガー サヴァイヴァー 1982.07.24(6週) 2位 『ロッキー3』
愛と青春の旅立ち ジョー・コッカー&ジェニファー・ジョーンズ 1982.11.06(3週) 27位 『愛と青春の旅立ち』
フラッシュダンス〜ホワット・ア・フィーリング アイリーン・キャラ 1983.05.28(6週) 3位 『フラッシュダンス』
マニアック マイケル・センベロ 1983.09.10(2週) 9位 『フラッシュダンス』
フットルース ケニー・ロギンス 1984.03.31(3週) 4位 『フットルース』
見つめて欲しい フィル・コリンズ 1984.04.21(3週) 5位

『カリブの熱い夜』

レッツ・ヒア・イット・フォー・ザ・ボーイ デニース・ウィリアムス 1984.05.26(2週) 13位

『フットルース』

ビートに抱かれて プリンス 1984.07.07(5週) 1位 『パープル・レイン』
ゴーストバスターズ レイ・パーカーJr. 1984.08.11(3週) 9位 『ゴーストバスターズ』
レッツ・ゴー・クレイジー プリンス&ザ・レボリューション 1984.09.29(2週) 21位 『パープル・レイン』
心の愛 スティヴィー・ワンダー 1984.10.13(3週) 25位 ウーマン・イン・レッド』
クレイジー・フォー・ユー マドンナ 1985.05.11(1週) 9位 『ビジョン・クエスト/青春の賭け』
ドント・ユー シンプル・マインズ 1985.05.18(1週) 16位

『ブラックファスト・クラブ』

007/美しき獲物たち デュラン・デュラン 1985.07.13(2週) 35位

『007/美しき獲物たち』

パワー・オブ・ラヴ ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース 1985.08.24(2週) 15位

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

セント・エルモス・ファイヤー ジョン・パー 1985.09.07(2週) 18位

『セント・エルモス・ファイヤー』

マイアミ・バイスのテーマ(TV) ヤン・ハマー 1985.11.09(1週) 27位

マイアミ・バイス』(TV)

セパレート・ライヴス フィル・コリンズ&マリリン・マーティン 1985.11.30(1週) 50位

『ホワイト・ナイツ/白夜』

セイ・ユー・セイ・ミー ライオネル・リッチー 1985.12.21(4週) 2位

『ホワイト・ナイツ/白夜』

リヴ・トゥ・テル マドンナ 1986.06.07(1週) 35位

『上海サプライズ』

グローリー・オブ・ラヴ ピーター・セテラ 1986.08.02(2週) 14位

『ベスト・キッド2』

愛は吐息のように ベルリン 1986.09.13(1週) 27位

『トップガン』

愛はとまらない スターシップ 1987.04.04(2週) 5位 『マネキン』
シェイクダウン ボブ・シーガー 1987.08.01(1週) 9位

『ビバリーヒルズ・コップ2』

フーズ・ザット・ガール マドンナ 1987.08.22(1週) 42位

『フーズ・ザット・ガール』

ラ・バンバ ロス・ロボス 1987.08.19(3週) 11位

『ラ・バンバ』

タイム・オブ・マイ・ライフ ビル・メドレー&ジェニファー・ジョーンズ 1987.11.28(1週) 27位

『ダーティ・ダンシング』

ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー ボビー・マックファーリン 1988.09.24(2週) 37位

『カクテル』

グルービー・カインド・オブ・ラヴ フィル・コリンズ 1988.10.22(2週) 29位

『バスター』

ココモ ビーチ・ボーイズ 1988.11.05(1週) 42位

『カクテル』

愛は翼にのって ベット・ミドラー 1989.06.10(1週) 7位

『フォーエヴァー・フレンズ』

バットダンス プリンス 1989.08.05(1週) 44位

『バットマン』

筆者調べ

 

80年代全米No.1サウンドトラック<アルバム>
タイトル 全米No.1獲得年月日(獲得週) 全米セールス(万枚)
炎のランナー 1982.04.17(4週) 100万枚
フラッシュダンス 1983.06.25(2週) 600万枚
フットルース 1984.04.21(10週) 900万枚
パープル・レイン 1984.08.04(24週) 1300万枚
ビバリーヒルズ・コップ 1985.06.22(2週) 200万枚
マイアミ・バイス(TV) 1985.11.02(11週) 400万枚
トップガン 1986.07.26(5週) 900万枚
ラ・バンバ 1987.09.12(2週) 200万枚
ダーティ・ダンシング 1987.11.14(18週)

1100万枚

バットマン 1989.07.22(6週) 200万枚
筆者調べ
80年代洋画興行収入TOP10
タイトル 国内公開年月日 国内興収(億円)
1 E.T. 1982.12.14 134億円
2 バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 1989.12.19 55億円
3 インディ・ジョーンズ/最後の聖戦 1989.07.8 44億円
4 ゴーストバスターズ 1984.12.2 42億円
5 トップガン 1986.12.6 40億円
6 スター・ウォーズ/ジェダイの復讐 1983.07.2 38億円
7 バック・トゥ・ザ・フューチャー 1985.12.7 37億円
8 フラッシュダンス 1983.07.30 35億円
9 インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説 1984.07.7

33億円

10 レインマン 1989.02.25 32億円
筆者調べ
80年代国内洋楽アルバムセールスTOP10
タイトル アーティスト 国内発売年月日 国内売上(万枚)
1 スリラー マイケル・ジャクソン 1982.12.10 158万枚
2 フラッシュダンス サウンドトラック 1983.06.25 106万枚
3 フットルース サウンドトラック 1984.04.21 92万枚
4 メイク・イット・ビッグ ワム! 1984.11.21 82万枚
5 愛の瞬間 フリオ・イグレシアス 1982.10.21 81万枚
6 トップガン サウンドトラック 1986.07.21 73万枚
7 トゥルー・ブルー マドンナ 1986.07.25 71万枚
8 グレイテスト・ヒッツ アラベスク 1981.05.21 68万枚
9 BAD マイケル・ジャクソン 1987.08.31 62万枚
10 ライク・ア・ヴァージン マドンナ 1984.11.28 59万枚

筆者調べ