80年代プレイバック 3
1983年 『角川映画』『大映ドラマ』?青春はいつも時をかける!
映画館で“角川映画”を楽しみ、ブラウン管では“大映ドラマ”から目が離せない。トレンディ映画・ドラマの前夜。それは天国にいちばん近い“か・い・か・ん”のときだった!?
斬新なメディアミックスで低迷する映画界に風穴を開けた“角川映画”。
 
  1970年代から80年代にかけて日本映画界を席巻した“角川映画”。その第1弾作品『犬神家の一族』は、1976年10月に公開されるや大ヒットし、低迷していた邦画シーンの起爆剤となった。書店では、母体角川書店発行の原作・横溝正史フェアを大展開、さらにテレビやラジオへ大量にCMスポットを投下する宣伝作戦も大成功。翌年公開の『人間の証明』は、出演者ジョー山中が歌う主題歌もヒット、キャッチコピーも大流行した。角川映画はこの初期2作で映画・出版・放送・音楽が一体となるメディアミックス(死語)を確立。以降も次々にセンセーショナルを話題を提供、大旋風を巻き起こしながら、僕らの80年代に突入していったのだ
テレビに出ない80sスーパーアイドル“角川3人娘”。
 
  “角川映画”は、80年代に入ると次々に純粋培養の役者を本格的にスクリーンデビューさせた。薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子のいわゆる“角川3人娘”の登場だ。良い意味で原作を崩壊させて彼女たちのキャラを前面に立たせた映画は軒並み大ヒット。彼女たちは、あくまで映画がベース。希少価値の高いスクリーンアイドルをテレビで観る機会は皆無に等しかった。だから僕らは映画館に足を運んだ(まんまとメディアミックスに躍らされていたらしい)。薬師丸ひろ子&原田知世の最強2本立ては、有り難いを超えた、大好物。『探偵物語』&『時をかける少女』は、『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』とどっちをみようか迷ったあげく、結局、全部観た。『メイン・テーマ』&『愛情物語』も『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』のポスターを前に悩んだあげく、「愛ってよくわからないけど、傷つく感じが素敵……」のチェリーボーイを混乱させる薬師丸ひろ子の宣伝コピーに負けた(やっぱり躍らされていた)。彼女たちの歌った同名主題歌のドーナツ盤もしっかり買い、僕らはヒットチャートのばく進に貢献している(踊りすぎ)。

  今さらあらたまって言うのもなんだが、彼女たちは飛び切り美人でもめちゃくちゃかわいいわけでもなかった。さらに中学生でも分かるほど演技がうまいわけでもなかった。でも、薬師丸ひろ子にはドキドキするボーイッシュな荒削りさ、原田知世には子犬のような放っておけない素朴な魅力がスクリーンからあふれ出ていた。“3人娘”の中で、どう見ても一番美人で演技もピカイチだった渡辺典子が2人に比べて不人気だったのは、“美形は必ずしも人気を約束されない”という80sアイドル方程式にはまってしまったからだ。そして、時を同じくして、小泉今日子、堀ちえみ、南野陽子ら80sな“華”たちがこぞって出演した伝説のテレビドラマシリーズも、僕らを夢中にさせた。
炸裂するナレーション&洋楽カバーの“大映ドラマ”マジック!
 
  80sゴールデンタイムのお茶の間を賑わせた“大映ドラマ”。今にして思えば、番組製作会社名がそのまま世間に認知され、ブランド化するという珍しい現象だったが、やはりそこにはヒットせずにはいられないワケがあった。

まずは、次のナレーション文を声を出して読んでみてほしい。さぁ、どうぞ!

「この物語は、ある学園の荒廃に戦いを挑んだ熱血教師たちの記録である。高校ラグビー界においてまったく無名の弱体チームが、荒廃の中から健全な精神をつちかい、わずか数年で全国優勝をなしとげた奇跡を通じて、その原動力となった信頼と愛をあますところなくドラマ化したものである」

さあ、どうでしょうか。思わず拳を握りしめた方。胸がこみあげてきた方。もしくはイソップの泣き顔が浮かんできた方(笑)。そして「ヒーロー」のメロディが流れてきた方。あなた方は『スクール★ウォーズ』世代、そう立派な“大映ドラマ”ジェネレーション!

  この頃の“大映ドラマ”の始まりはいつも大げさなナレーションだった。バックには人気洋楽を日本語カヴァーした主題歌が聴こえてくる。このテンションの高いオープニングだけで妙に期待が膨らみブラウン管から目が離せなくなる。という大映マジックが番組開始から3分で炸裂! 物語の主人公はほとんどが少女(泣き虫先生は例外)。生い立ちや育った環境になぜか恵まれず、過酷な運命な背負いながらも夢の実現のために生きる姿。励ます男性や、見守る友人がいる一方で、その行く手を妨害する悪人たちも多い。いじめ、病気、事故……何度もおそいかかるドン底の不幸の中で、主人公がひとすじの光を見いだした時にながれるのがまたあの主題歌……こみあげる感動! 否応にもはまったね。
僕らのKYON2にいったい何か起ったか?
 
  “大映ドラマ”のもうひとつの特徴は、視聴者が求めているわけでもないのに、主人公たちが多かれ少なかれ物語の設定を説明してしまうことだ。『少女に何が起こったか』で一流音楽家を目指す野川雪(小泉今日子)は、本当にスゴかった。「お父様とお母様が出会い、恋に落ち、そしてお爺さまの怒りに触れ、北海道に落ちのびて……」とほぼ毎回自身の出生を披露しながら鍵盤に向かうのだ。だから途中からドラマを観ても彼女の背景はしっかり分かるのだが、これを毎回聴かされると少し食傷気味。でもカワイイKYON2だから許せたのだ。ちなみに未来のピアニスト雪に扮したKYON2は、「こんな紙のピアノじゃ指も沈まない!」と80年代ドラマ史上に残る台詞も残している。当時人気絶頂の“渚のハイカラ人形”なKYON2に向かって石立鉄男が放つ「やい、薄汚ねえシンデレラ」もインパクトもスゴかった。それでも“大映ドラマ”シリーズ最多出演者の松村雄基の眉毛の濃さと、ほぼ全作に出演していたと思われる岡田奈々の笑顔が一番忘れられない。この反動なのだろうか、まもなく日本のテレビ界は、おシャレでスタイリッシュな男女関係を描いた“トレンディドラマ”時代を迎えようとしていた。そう、男女7人がCHA-CHA-CHAな気分で。
文/安川達也
80年代公開の主な“角川映画”
放映年・月〜 タイトル 主演 「主題歌」歌手
1981年 7月 ねらわれた学園 薬師丸ひろ子 「守ってあげたい」 松任谷由実
1981年10月 悪霊島 鹿賀丈史 「レット・イット・ビー」 ザ・ビートルズ
1981年12月 セーラー服と機関銃 薬師丸ひろ子 「セーラー服と機関銃」 薬師丸ひろ子
1982年12月 汚れた英雄  草刈正雄 「汚れた英雄」 ローズマリー・バトラー
1983年12月 幻魔大戦(アニメ) 古谷徹(声) 「光の天使」 ローズマリー・バトラー
1983年 7月 探偵物語 薬師丸ひろ子 「探偵物語」 薬師丸ひろ子
1983年 7月 時をかける少女 原田知世 「時をかける少女」 原田知世
1983年12月 里見八犬伝 薬師丸ひろ子 「里見八犬伝」 ジョン・オバニオン
1983年 5月 晴れ、ときどき殺人 渡辺典子 「晴れ、ときどき殺人」 渡辺典子
1984年 7月 メイン・テーマ 薬師丸ひろ子 「メイン・テーマ」 薬師丸ひろ子
1984年 7月 愛情物語 原田知世 「愛情物語」 原田知世
1984年10月 いつか誰かが殺される 渡辺典子 「いつか誰かが…」 渡辺典子
1984年12月 Wの悲劇 薬師丸ひろ子 「Woman“Wの悲劇”より」
薬師丸ひろ子
1984年12月 天国にいちばん近い島 原田知世 「天国にいちばん近い島」 原田知世
1985年 6月 結婚案内ミステリー 渡辺典子 「野ばらのレクイエム」 渡辺典子
1985年 9月 二代目はクリスチャン 志穂美悦子 「二代目はクリスチャン」 原田知世ほか
1986年 4月 キャバレー 野村宏伸 「レフト・アローン」 マリーン
1988年 8月 ぼくらの七日間戦争 宮沢りえ 「SEVEN DAYS WAR」
TM NETWORK
80年代放映の主な“大映ドラマ”
公開年・月〜 タイトル 主演 「主題歌」歌手
1983年 10月 スチュワーデス物語 堀ちえみ 「ホワット・ア・フィーリング -What a feeling-」 麻倉未稀
1984年 不良少女とよばれて 伊藤麻衣子 「NEVER」 MIE
1984年 スクール★ウォーズ 山下真司 「ヒーロー -Holding Out For a Hero」 麻倉未稀
1984年 青い瞳の聖ライフ フローレンス芳賀 「DESERT MOON」 谷山浩子
1985年 少女に何が起ったか 小泉今日子 「摩天楼ブルース」 東京JAP
1985年 スタア誕生 堀ちえみ 「ハートブレイカー」 葛城ユキ
1985年 乳姉妹 渡辺桂子 「RUNNAWAY」 麻倉未稀
1985年 ポニーテールはふり向かない 伊藤かずえ 「NEVER SAY GOOD-BYE」
小比類巻かほる
1985年 ヤヌスの鏡 杉浦幸 「今夜はANGEL」 椎名恵
1986年 花嫁衣装は誰が着る 堀ちえみ 「愛は眠らない -Have you never been mellow-」 椎名恵
1986年 この子誰の子? 杉浦幸 「悲しみは続かない」 椎名恵
1987年 アリエスの乙女たち 南野陽子 「A・r・i・e・s」 柏原芳恵
1987年 プロゴルファー祈子 安永亜衣 「THE WIND」 椎名恵