LINER NOTES

楽曲解説はこちら
 2009年のアルバム『CHRONICLE』のその先で途絶えてしまった志村正彦の意志を受け継ぎ、前作『MUSIC』を完成させたフジファブリック。メイン・ソングライターにしてヴォーカル、ギターであった志村の死がもたらした埋めがたい喪失感や悲しみを抱えながら、彼の残したデモを素晴らしい作品へと昇華した3人のメンバーは、志村と共に作り上げてきた音楽の喜びをアンプで増幅させ、ファンのもとへ。昨年7月17日には富士急ハイランドにて彼らのライヴ・イベント「フジフジ富士Q」の開催。フジファブリックゆかりのアーティストやサポート・スタッフ、ファンが一丸となったことで生まれた一体感は残された3人のメンバーをフジファブリックの更なる活動へと駆り立てていった。

  しかし、メイン・ソングライターにして、ヴォーカル、ギター不在のフジファブリックが前作で作り上げた大文字の『MUSIC』をどのように、そして、どこに向けて放つのか? メンバー自身にすら行く先が分からぬまま、内から沸き上がる音楽、その流れを頼りにフジファブリックは再び走りはじめた。

「『フジフジ富士Q』以降、明確な方向性はなかったんですけど、やっていこうという思いのもと、その一歩として昨年10月にスタジオに入ったんです。そこではメンバー間の照れもあったんですけど、なにより3人でスタジオに入るのが単純に楽しかったので、そこから曲を作ろうということになりました。ヴォーカルとドラムがいないバンドではあったんですけど、ここから先、どんなことにもチャレンジ出来る、可能性のあるバンドなので、それぞれが曲を書いて、書いた人が歌うというところから手探りを始めたんです」(山内)

  しかし、志村とバンド・メンバーには長い年月をかけて、音楽を通じた深いコミュニケーションを重ねてきた経験がある。そして、その蓄積は、彼らが作り上げてきたフジファブリックの揺るぎない個性と3人がそれを発展させてゆく大きな可能性そのものだ。

「志村のことは思い出すって感じじゃなく、常にそこにいるんですよ。そして、僕らがやろうとしていることは、これまで彼のやってきたことを継承するというよりも、今まで一緒にやってきて、みんなのなかで培われた共通言語や認識があって、そのうえで、“こうなったら、楽しいことだけをやっていきたい”という思いに突き動かされているっていう、そんな感じですね」(金澤)

  3人はそれぞれが持ち寄ったデモの試聴会、スタジオでのプリプロダクションを経て、30曲近いデモから12曲を厳選。その後のレコーディングでは、近年、サポートを務めている東京事変の刄田綴色がドラマー、過去作品を手がけてきた高山徹と浦本雅史がエンジニアでそれぞれ脇を固める一方、前作の「会いに」でリードを務めた山内がヴォーカルとして立ち、真心ブラザーズの桜井秀俊が作詞のアドヴァイスを行った。

  そして、ここに完成したフジファブリックの6作目となるニュー・アルバムはその名も『STAR』という。夜空で見守るように輝き、道しるべとなる光。陽がまた昇るように、何があろうと暗闇を明るく灯し、明日への希望や彼らが未来に向けて放つ音楽の行く先を照らし出す。

「今回のアルバムは後ろ向きではない、楽しい感じの作品になればいいなと思ってましたし、実際にレコーディングを通じて、サウンドと歌詞は自然とそうなっていきましたね。それに『TEENAGER』以降、バンド全員が一丸となって前向きな作品を作っていこうとも話し合っていたし、『MUSIC』を経て、その延長線上で僕たちは音楽を作っているつもりなので」(加藤)

  緩急のついたポップ感やテンポ、歌ものからリフもの、ロックの縦ノリにダンサブルな横ノリ……そうしたヴァリエーションに彩られた全12曲は、まだ見ぬ、しかし、同時によく知っているフジファブリックのものだ。

「今、振り返ると、去年7月に「フジフジ富士Q」が終わってから、僕たちは今回のアルバムに向かっていたんだなって思うんですよ。3人でコミュニケーションを取りながら、“次に発するサウンドや言葉はどういうものがいいのか?”ってことを常に考え続けていたので、バンド内にぶれはないですし、今回の作品からバンドの活動がすでに始まっていることはアルバムを聴けば、分かってもらえるんじゃないかと思いますね」(山内)

text by 小野田雄

楽曲解説
※アルバム収録曲についてのエピソードなど、毎週3曲ずつスタッフが紹介していきます。(今後、毎週水曜日更新予定)

01. Intoro

元々は「Intro」と「STAR」で1曲だった、というか、「STAR」を作っているときに、「いきなりギターリフで始まるよりも、浮遊感のあるイントロを付けたい」というソウ君のアイデアで生まれたのがこの「Intro」。当初はこの部分も含めて「STAR」だったのですが、「何度も繰り返し聴きたいときに、毎回毎回イントロを聴かせるのも優しくないので」ということで2曲扱いになりました。「STAR」レコーディング時のスタジオ卓で発生したノイズのアクシデントが、エンジニア高山さんのMIXマジックにより、まるで宇宙からの交信のようなスぺーシーで不思議な効果を生んでいます。

02. Intoro

アルバムに向けてのプリプロ作業を始めていた今年の2月頃に生まれた曲。「ライブのオープニングにふさわしい、ドーンと始まる曲を作りたい」というソウ君の思いをそのままぶつけて出てきたインパクトのあるギターリフやメロディを、プリプロのスタジオで曲に仕上げていきました。この曲が出来てからアルバムの方向性がどんどん見えてきた、という象徴的な曲で、タイトルトラックとしてもアルバムの幕開けを飾るポジションとしても、全員の意見が一致した曲でもあります。曲中で拍子とテンポが変化する、フジファブリックらしいユニークな展開を見せますが、これにより加速する疾走感がより効果的に伝わっていると思います。冒頭の「星を目指そう 猿と目指そう」というフレーズには、最初にソウ君が持って来た仮歌段階からほぼ近い形で詞が乗っていました。「“猿”というのは人間の祖先というか、その言葉が表すようなプリミティブな存在感や感情を曲に込めたかったんです」とソウ君。ジャケットやアー写に使われている写真では、その言葉にインスパイアされたデザイナー北山さんのアイデアで、メンバーが白いバナナをシュールに保持しております。

03. Intoro

「ピアノがありながらロック出来るのは僕らの強みの一つだと思うので、ここではその強みを凝縮した曲を作りたかったんです」というダイちゃん作曲による軽快なピアノロックナンバー。全体を通してピアノがリズムを刻み、疾走感あふれるプレイで駆け抜けながら、グルーブにのせた歌とバンドアンサンブルが絡むという素敵な曲なのですが、「記念写真」同様鍵盤で作った曲にありがちな、ブレスをする間もなく歌い続けなければならない、というボーカル泣かせの曲でもありました。歌詞に関してはダイちゃんがテーマ設定をしつつ、加藤さんが情景描写や具体的な表現を加えていく、という共同作業を繰り返して完成。ちなみに歌詞には「スワン」は出てこないんですが…。「白鳥って秋から冬にかけてやってくると思うんですけど、この曲の持つ季節感とか、やってきては何かを運んで連れ去っていくような、そんなイメージから“スワン”というタイトルが浮かんで付けてみました」(byダイちゃん)

04. ECHO

大きな喪失を乗り越えて、それでも前へ向かって歩き出す想いを歌に託した1曲。去年の秋のデモ聴き会でソウ君が持って来たメロディーを、リハーサルスタジオで皆で合わせながら曲として完成させ、その後長い時間をかけて歌詞を練り上げていきました。
「いろいろな受け取り方をされる曲だと思うんですけど、この曲を通して書こうと思ったのは、生きていく中では様々な出会いと別れがあって、それを繰り返しながら進んで行くという。考えても答えはないし、止まっている場合ではない、前へ進んで行くしかないな、という思いをそのままぶつけた曲ですね」とソウ君。フジファブリックのボーカルとして自分が歌う、という意志をはっきりとメンバーとスタッフに伝えたのは、”ECHO”が出来たときに「この曲は自分にしか歌えない」と強く思ったのがきっかけだそう。シンプルに言葉を聞いてもらいたい、という気持ちが大きかったので、アレンジ的にもなるべく一発録りに近い、バンドとしてもストレートな表現を心がけた曲です。

05. 理想型

ソウ君の詞曲による、いかにもソウ君らしいナンバー。「この曲では、ガッガッガッっていう叩き付けるリズムをみんなで一斉にやったら面白いんじゃないかっていうアイデアがあって。そこに拍子抜けしたリフを乗せることで、パワフルであると同時に浮遊感を感じられる曲を表現しました」
ソウ君が“拍子抜けした”と表現する印象的なリフは、ギターとマリンバがユニゾンしているのですが、マリンバ役はダイちゃん。鍵盤の並びと同じという理由で毎度(”Strawberry Shortcakes”以来ですが)マリンバを叩く羽目になるのを、「これってパーカッションの人がやるべき楽器じゃないかなぁ〜?」と素朴な疑問を呈しながらも、エンジンがかかってきたREC後半はかなりノリノリで、おかしなテンションが現場に立ちこめました(笑)
「僕の理想型は〜」とデモのときから乗っていたフレーズをそのまま生かしたサビは、キラキラとしたスぺーシーなサウンドがとてもキャッチ―な仕上がりです。

06. Splash!!

こちらもソウ君の詞曲。フジファブリックといえば!という、インパクトのあるリフで全編押しまくるような、ライブで皆で盛り上がれる曲を、というイメージで作った曲です。疾走するギターリフとキーボードが絡み合い、骨太のベースラインがそれを支えるカッコいいサウンド。「サイダー振ったらすっ飛ばしてよ 焦点合ったらぶっ飛ばしてよ」と歌うボーカルも、あえて少し歪んだ質感に仕上がっています。「歌詞はサウンドの勢いそのままというか、炭酸飲料があったらすぐに振りたがる人、輪ゴムがあったら引っ張って人に向けたがる人…子供の頃、周りにいた、そんな友達の記憶を思い出す内容ですね」
先日のROCK IN JAPAN FES.でも、音源にはないフリーキーな長いイントロと共に披露しましたが、今後のステージでもライブならではの醍醐味を見せてくれそうな曲になっていくと思います。実際はコンパクトな曲なのですが、ライブバージョンはきっと別モノです(笑)

07. Intoro

加藤さん詞曲によるシンプルなアコースティックナンバー。「家でアコギを弾きながら、曲と歌詞を一緒に作っていったんですけど、デモ試聴会の時にみんなが『このままでいいね』って言ってくれたんですよね」と加藤さんが言っていましたが、最初に聴いたデモから歌詞がほとんど完成型だったという意味ではこのアルバム唯一の曲です。それほど加藤色が強い曲にもかかわらず、実際の演奏には参加していない、というところがまた加藤さんらしい(笑)。「や、もう、自分のベースが入ってなくても曲として十分に成り立っていたので、そこに自分が入ってもしょうがないと思ったんですよね」
レコーディングのときは、コントロールルーム側でソウ君ダイちゃんの演奏を聴きつつゆるーく指示を出す、という、“プロデューサー加藤”になりきっておりました。

08. Intoro

移籍後の新作に向けてデモ聴き会を始めた2009年のタイミングから存在していたソウ君曲。当時からタイトルは「君は炎天下」で、そのインパクトはそのまま生かしつつ、3人で新たな歌詞を組み立てていきました。「これまでやったことがないことに挑戦していくっていうのも今回のアルバムのテーマとしてあって、3人で歌詞を書くというのもそのひとつだなと思ったので、以前から存在していてイメージが共有出来ているこの曲を題材に、『どんどんはみ出していこう』っていうベクトルで作業していきました」とソウ君。アイリッシュなサウンドが印象的ですが、バンジョーやマンドリンの音色が好きなソウ君が様々な音色の楽器を重ねていって、最終的に今の形に落ち着きました。音数の多さではこのアルバム随一で、バンジョーが採用されたのはフジファブリック史上初とか? ダイちゃんはAndesという楽器でもクレジットされていますが、これはピアニカのようなルックスなのに吹くと笛のような音が出る珍しい楽器です。

09. Intoro

すでにあちこちで話題になっていますが、この曲はとにかく加藤さんの突き抜けた歌詞が強烈な、アルバムの中でも異色な存在です。「元々は全然違う歌詞を書いてたんですけど、ちょっとセンチメンタルな感じで、アルバムの他の曲と温度感が近いかなという話になったときに、(真心ブラザーズ)桜井さんからのアドバイスもあって、肩の力を抜いて全く別方向の歌詞を試しに書いてみたら皆に面白がってもらえた感じですね」
スタジオから家に帰る電車の中でほぼ書き上がっていたというからものの15分くらいでサラリと書いた計算になります。恐るべし。
ならばサウンドも歌詞の世界観?に沿って、ということで、エンジニア高山さんのアイデアでドラムの音色が180度変化。なんと生ドラムが「シモンズ」というシンセドラムの音になり、メンバーは「メカトシちゃん」と呼んでいます。メロディーはダイちゃん作曲らしく、サビではじけるカラフルなポップさが印象的。ライブでの反応が今から楽しみな曲です。

10. Intoro

ソウ君作の美しいメロディーに、ちょっと意外な組み合わせのアナログシンセとスライドギターが印象に残る曲。まるで雨音のようなシンセイントロから始まります。プリプロ当初はもっとストレートなアレンジで、テンポももう少しスローな曲でしたが、こういう王道なメロディーに、ひとクセあるシンセアレンジを組み合わせることで、フジファブリックらしい絶妙なバランスが醸し出せたのでは、と思います。
「今回のアルバムでは一番足が止まる曲というか、迷いが表現されている曲ですね。実際そういう心境の時に作られた曲ですし、ここでは心が自分に呼びかけているんですけど、自分は誰かに聞いてみたいけど、聞くことが出来ない、そんな心境を歌っています。迷っていたとしても、そういう気持ちを素直に表現することも大切だと思うんですよ」とソウ君。この曲の歌詞が出来てから、ようやく「ECHO」の歌詞に正面から向かっていくことが出来たそうです。

11. Intoro

「この曲は…愉快な曲ですね。体が自然に揺れるリズムやグルーヴの曲が出来たらいいなっていう思いから生まれた曲なんですけど、そこにメロディーを乗せてみたらすごいポップなものになっていったので、さらに躍動感のある歌詞やホーンセクションが入ったらどうなるのかな?ということでどんどん進化していきましたね」と作者のソウ君が言うように、これまでのフジファブリックにあるようでなかった新境地の1曲。東京スカパラダイスオーケストラからホーンズ3(NARGOさん、北原雅彦さん、GAMOさん)に参加していただき、16ビートのギターカッティングとも相まって、ハッピーなドキドキ感が全編から溢れる仕上がりになりました。
2009年末、移籍第1弾アルバムに向けての打ち合わせをしているときに、志村君が「あえて今だからこそ、小沢健二さんの『LIFE』みたいなアルバムを作ってみたい」と言っていたことがあったのですが、その思いが受け継がれた曲になったのではないか、とひそかに思っています。

12. Intoro

いかにもダイちゃん作詞作曲ということが伝わるロマンチックな作品。レコーディングの際、エンジニア高山さんから、ドラムとベースを倍速で録ってみて半分のスピードに落としたらどうかな?という提案を頂き試してみたところ、重低音の不思議な残響が空間を支配する、時空を超えたような感触の仕上がりとなりました。イントロやエンディングに入っているノイズも、1曲目の「Intro」と呼応する、宇宙空間を意識したような作りとなっていて、この曲のミックスが上がったときに、アルバムの締めくくりにふさわしい曲になりそうだと全員が確信したのでした。タイトルは、宇宙の”cosmos”と花のコスモス、両方の意味が込められているのではないかと思います。
ボーカルはあえて張らずにファルセットの柔らかい響きを生かし、この曲の持つ浮遊感やドリーミーな世界観と寄り添う仕上がりとなっています。
TOP