LINER NOTES

ふたたび巡ってきた桜の季節。2004年4月14日のメジャー・デビューから数えること今年で10回。フジファブリックの活動がいよいよ10周年という節目の年を迎える。デビュー当時、23、4歳だった彼らにとって、その後の10年というのは、一人の人間の人生として考えても、まだ見ぬ世界へ漕ぎ出してゆく、とりわけ濃密な時期にあたる。その大切な時間にフジファブリックの名のもとに集った彼らは一丸となり、音楽を創造することで道を切り開き、出会ったリスナーやオーディエンスを巻き込みながら、それ自体が不可思議な生き物のように成長するバンドという場に全身全霊を傾けてきた。
そんな彼らは自らの意志で進化し、変化してきたバンドでもある。これまでリリースしてきた7枚のアルバム、それぞれの作品で見せてきたバンドの異なる表情やアプローチはその証であり、フジファブリックは進化、変化を続けながら、どこかストレンジで、頭から離れない楽曲の魅力にバンドの一貫した個性を見出していった。しかし、2009年12月にメイン・ソングライターにして、ヴォーカル、ギターの志村正彦が急逝。大きな喪失感とともにバンドが存続の危機を迎えるなか、志村の意志と残された楽曲を受け継ぎ、ギターの山内総一郎、キーボードの金澤ダイスケ、ベースの加藤慎一はフジファブリック継続の道を選ぶ。そこには計り知れない重責があったはずだが、新たにヴォーカルの役割を担う山内以下、それぞれが作曲、作詞を行い、顔をつきあわせて、新たなバンド・アンサンブルの構築を試みることで、3人の個性がフジファブリックの更なる進化、変化の推進力になった。2014年にバンドが迎えた10周年は、そんな彼らの勇気ある決断とスタッフのサポート、そして、ファンの愛情があってこそ辿り着いた到達点であり、一つの大きな節目である。
そして、フジファブリックが迎えた10周年のアニバーサリー・イヤーを祝うべく、2作の映像作品『FAB BOX Ⅱ』と『FAB LIVE Ⅱ』が2ヶ月連続でリリースされる。新旧の所属先であるEMI(現ユニバーサル ミュージック)とソニー・ミュージックがレーベルの枠を超えた協力体制を敷いている点が画期的でもある、これら作品は秘蔵のライヴ・アーカイヴから初完全収録となる志村在籍時の4人体制と新たな3人体制のライヴが映像作品化されたものだ。まず、4月14日に旧所属レーベルであるEMI(現ユニバーサル ミュージック)から登場する『FAB BOX Ⅱ』に収録されているのは、2006年12月25日に行われた『Live at 渋谷公会堂』と2008年5月31日に行われた『Live at 富士五湖文化センター』という時期の異なる2公演だ。2006年といえば、それまで叙情的な歌モノに傾倒していた彼らが2005年のセカンド作『FAB FOX』において、サイケデリック・ロックやハードロック、あるいはブラジル音楽など、様々な音楽のインスピレーションを得て、作風を一気に広げたことで、ねじれたポップ感覚を確立。しかし、そうした進化によって生まれた歪みはドラマーの足立房文脱退につながり、その後、様々なサポート・ドラマーとセッションを行いながら、試行錯誤を繰り広げていた時期だ。同年5月にサポート・ドラマーの城戸紘志を迎えた初の日比谷野音ライヴがDVDやライヴ音源としてすでに発表されているが、その年の年末に初のホールワンマンとして単発で行われたのが『Live at 渋谷公会堂』である。このライヴでは翌年1月リリースのシングル「蒼い鳥」が披露されたほか、城戸紘志が生み出すグルーヴが推進力となり、楽曲やその演奏に加わったダイナミズムが4枚のシングルをリリースすることになる2007年の充実した活動を後押ししたことがよく分かる。
一方の『Live at 富士五湖文化センター』は2008年のアルバム『TEENAGER』ツアー追加公演として、セッティングされたもの。『FAB FOX』で展開されていた非日常のサイケデリックは、その後の長期に渡るレコーディング・セッションを通じて、『TEENAGER』においては日常のカオスへと発展。その後の全23公演に渡る長いツアーでカオスを血肉化していった彼らが追加公演で立ったのは、音楽を始めたばかりの志村が15歳の時に夢見た地元富士吉田の音楽ホール。実に12年越しに実現させた地元凱旋ライヴであり、その際には敢えて地元の友達や家族を招待せず、会場を埋めたいという彼の意向があったという。この時の志村は喉に出来たポリープの手術前で、コンディションは必ずしも万全ではなかったが、彼が高校時代に同会場で行われた合唱コンクールで歌った「大地讃頌」の音源を出囃子に用いたオープニングから上京したての18歳の時に書いた「茜色の夕日」で迎えた感情のピークに至るまでの流れには奇跡的なライヴの魔法が体感出来る。
続いて、5月21日に現在の所属レーベルであるソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズから登場する『FAB LIVE Ⅱ』に収録されているのは、昨年5月19日に行われた『フジファブリック HALL TOUR 2013 "VOYAGER" at NHKホール』と同年11月23日に行われた『FUJIFABRIC LIVE TOUR 2013 "FAB STEP" at Zepp Tokyo』の2公演。2013年は志村亡き後、喪失感と新たな3人体制への戸惑いを抱えながら、2010年の『MUSIC』と2011年の『STAR』という2枚のアルバムを果敢にリリースしてきたフジファブリックがアルバム『VOYAGER』とともに上昇気流を掴んでゆく、そんな一年だったのではないかと思う。その足がかりとなる初のホール・ツアー『VOYAGER』には54-71のドラマー、BOBOと空間を埋めるノイズ・ギターの名手、名越由貴夫をフィーチャー。メンバー3人によってモダナイズされたバンド・サウンドとLEDの立体照明をはじめとする舞台演出とのマッチングが止まらずに進化し続けるバンドの姿を鮮やかに映し出している。
一方の『FUJIFABRIC LIVE TOUR 2013 "FAB STEP" at Zepp Tokyo』は全9公演のツアー最終日。3人体制で重ねてきたライヴのダイレクトな反応に背中を押され、ライヴの新たな起爆剤となる初のEP「FAB STEP」を10月にリリース。"ダンス"をコンセプトに、それぞれの解釈で制作に臨んだ楽曲がバンドにおける3人の個性を際立たせると同時に、この最終公演では、BOBOを交えて生み出されたグルーヴがライヴに新たなピーク・ポイントをもたらしている。そして、高い演奏技術を誇るバンドにあって、成長著しいのは、ヴォーカルの山内だ。歌う喜びが自信に繋がり、さらにはギターを弾きながら歌に向き合う彼なりのアプローチがいよいよ確立しつつある、そんな手応えが感じられるパフォーマンスが堪能出来るはずだ。
そして、『FAB LIVE Ⅱ』でうかがい知ることが出来る近年のフジファブリックという場には、気が付けば、長年のサポーターからここ数年でバンドの存在を知った10代まで、様々な層のリスナーが集うようになった。そこにはリスナーそれぞれの思い入れ、楽しみ方があり、メンバーの意志を超えて、自由に躍動するバンドの姿がある。そうした現在の状況があるからこそ、時期も編成も異なる映像作品『FAB BOX Ⅱ』と『FAB LIVE Ⅱ』によって、新たなファンには志村在籍時のフジファブリックとその歴史の一端を知る絶好の機会になるだろうし、長年のサポーターにとっては、バンドの過去と現在をつなぐことで、時を超え、一貫して流れるフジファブリックらしさを再確認する、そんな瞬間に立ち会うことも出来るだろう。また、初めて、その全貌が明らかになるライヴ映像が世代を超えて共有されることで、そこに渦巻くエネルギーはフジファブリックの未来にも繋がっていくはず。すでに今年2月12日にデビュー10周年のアニバーサリー・イヤーを幕開ける最新シングル「LIFE」をリリースし、その遥か先を走っている彼らが桜の季節を超え、咲かせる音楽という美しい花との出会いが今から本当に楽しみだ。

text : 小野田 雄