2月から3月にかけて24ケ所にもわたる大規模なヨーロッパツアーを大成功に終わらせたDJ KRUSHが久々に日本のステージにその姿を現した。

冷たい春雨が降る中この夜新宿リキッドルームで行われたイベント「No Protection」のステージにDJ KRUSHが現れたのはAM02:20頃。

それまでブースを務めたMoochyを引き継いだKRUSHは、まずMoochyの方へ右手を挙げ彼への拍手をオーディエンスに促す。

会場にはスモークが炊かれる中、尺八の音が鳴り、その瞬間から会場はKRUSHの世界に塗り替えられた。スモーキーなダウンテンポなビートに様々な管楽器や民族楽器の音が絡み合う。後半にはケーナらしき楽器が奏でる「El Condor Pasa(コンドルは飛んでゆく)」の一部が出てきたり、またブルガリアン・ヴォイスらしき女性コーラスがレイヤードされたり、更に中盤ではかつてノーマン・クックが在籍したビーツ・インターナショナルによるSOSバンドのカバー「ダブ・ミー・グッド・トゥ・ミー」のアカペラが効果的に使われたり...。それはKRUSHの懐の深さと、音への飽くなき探究心の強さを感じさせた。

何と言っても印象深かったのは、この日の60分ちょっとのKRUSHのセットにおいて、彼は1度もスネアを擦らなかったこと。途中トランペットのみのブレイクからビートを入れるときにも、敢えてアタマでキックを擦ったりせずに、さり気なくカットインさせる。派手なスクラッチを敢えて避け、シンプルなMPC-20のディレイのエフェクトや持続音のスクラッチなどを上手く盛り込むことで、全体的な彼の世界観は返ってより鮮明にその姿を聴くものの心に映し出すように感じられた。

大きな歓声の中、セットを終了したKRUSHは一礼し、次のDJ、Tsuyoshiの方へ右手を挙げ彼への拍手をオーディエンスに促してステージを後にした。