田中フミヤがスタートさせた、自身のレーベル「とれま」のアニバーサリー・イベントは今年で5回めを数える。

今回のゲストは、Steve Bicknell、Surgeon、Jay Denhamという現在のミニマル・テクノ・シーンを代表するような海外アーティストに加え、「とれま」の田中フミヤ、Taro、Yoshiki、Keitaがプレイをするというゴージャスな面子が一同に介したスペシャル・イベントだった。会場のクラブチッタ川崎は、1000人ぐらい集客できるぐらいの大きなヴェニューだが、0:00すぎには、フロアがいっぱいに埋まる程の人がつめかけていて、その様子は「とれま」の人気の強さを物語っているようで圧巻だった。フロアに入ると、音の良さに驚かされる。田中フミヤのミニマリズムに対する考え方は、デコーレションにも表現されていて、都会のクラブでは類を見ないくらい高い天井にドレープして緩やかに白い布だけが張られているシンプルなデコレーションとフラッシュライトの照明のみで、凝った映像ヴィジュアルなども一切なし。音を真剣に聞かせる、ハマらせる為の環境づくりは、一音入魂と言われるミニマルだけにサスガ、と言ったところだ。

来日アーティストのプレイのトップバッターを切ったSurgeonは、アニバーサリー・イベントらしくヘヴィーローテーションもののトラックを多用して場を沸かせていた。

続くJay Denhamはシンプルながらもアッパー目なミニマルを重ねながらも、ハイハットを強く効かせてクラウドをトバさせるようなブレイクを多用しながら展開させていたプレイが印象的だった。ブレイクを入れるタイミングの絶妙さと、手を大きく振り上げる激しいアクションは、クラウドを大いに盛り上げていた。

Steve Bicknellのプレイは、尺八の音だけが入った、アンビエントのようなトラックから始まった。JAYのアッパー目のミニマルの世界から、いきなり、DJ KrushやPhotekの世界に変化したようなスタートの仕方は素晴らしかった。全体的には、非常に地味めなミニマルを淡々と重ね繋げていき、展開を構築していくSTEVE BICKNELLのプレイだった。

Steve Bicknellの流れを引き継いで、ラストを飾るのが、真打ち、田中フミヤ。

当然のことながら、彼の登場を心待ちにしているファンで埋め尽くされているせいか、フロアの空気が一気に変化し、期待と歓喜に張り詰めた空間になる。巧みに3台のターンテーブルから出てくる音を重ね、これだとはっきりわかるようなメジャーなトラックを使わないで、その場で作りだされる彼独自の音の世界を追求している姿はまさにアーティストといえるDJぶりだった。適材適所な音の選び方、選曲のセンス、ミニマルだからといって地味すぎず、反対に派手な展開に頼ることもなく、クラウドを踊らせ続けることのできるプレイは彼の才能のなせる技だ。

レーベルの成長とさらなる発展を祝うこのイベントは、多くのDJからリスペクトされ続ける田中フミヤと、そして「とれま」というレーベルの追求するサウンドを、より強くクラウドに認識させることに成功したパーティだった。今後もミニマル・テクノというジャンルをリードし、一貫してアンダーグラウンドな姿勢を貫く田中フミヤと「とれま」の音の方向性を見守っていきたい。

BACK
(C) 1998 Sony Music Entertainment (Japan) Inc.