RAINBOW2000

 1996年の夏にスタートして以来、全国のテクノ・ファンが夏が来る度に待ちわびることとなったビッグ・イベント、レインボー2000。今年の夏は諸事情により、恒例の富士山での開催は中止となってしまったが、昨年から使われだした石川県は白山の瀬女高原スキー場において、そのパワーを凝縮した形での開催となった。
 ケンイシイや田中フミヤをはじめとしたスーパーDJ陣が出演し、天候にも恵まれて多いに盛り上がった昨年度の白山。今年の目玉は何と言ってもジェフ・ミルズ。ジェフはこれまでにも数回来日し、リキッドルームをはじめとした様々なクラブでのプレイを披露してくれてはいたものの、野外のイベントでどういったプレイを見せてくれるのか興味が尽きない。他にもフルークのライブもあり、ヨージ・ビオメハニカや、キューヘイ、キヒラ・ナオキなど、国内でお馴染みのDJ陣がジャンルを飛び越えて集まるということで、全国から多くのテクノ・ファンが集結した。
 とにかく山の中であることを感じさせる白山の会場。富士の会場と比較すると、標高は至って低いにもかかわらず、緑の森林に囲まれたその雰囲気は、否が応でも開放感を満喫させてくれる。そして天候は申し分のない快晴。イベントがスタートした22日のお昼頃は、そんなのんびりした雰囲気とワクワクした期待感が入り交じって、これから繰り広げられる情景にみな胸をはずませていた。

DUB SQUAD 浅野太鼓による生太鼓の演奏から始まり、ゴマ、ユニらのトランス、ショーコーF、サワといったDJ陣がアッパーなプレイでグラウンドに人を惹きつけてきたところで、まず最初にグラウンドをヒートアップさせたのがダブ・スクワット。辺りも暗くなってステージからの照明が映える中、彼等の野太い低音とファンキーなビートは、人々の心を一気にワシ掴みにした。3人の織りなすグルーブは、ブレイクビートを主体としながらも、ひとつのジャンルでは括ることのできないオリジナルなものだ。ライブの醍醐味を思う存分発揮した、素晴らしいステージだった。
YOJI BIOMEHANIKA 続くクラナカ+1994が思いっきりディープな世界を展開した後、ヨージ・ビオメハニカのプレイでこの日の頂点に達する。当初プレイ予定だった中村直が急遽体調を崩しキャンセルになってしまったのだが、その穴を埋めるに充分すぎるハイ・テンションなプレイ。お馴染みのクレイジーなルックスとパフォーマンスで、グラウンドをどんどん盛り上げていく。懐かしのコズミック・ベイビーや、彼自身がリミックスしたT99の「アナスターシャ」なども飛び出し、新旧織り交ぜた選曲に観衆は大はしゃぎ。これぞまさにニュー・エナジー。ヨージの一挙一動に大きな雄叫びを持って答える観衆。たっぷり2時間、オリジナリティー溢れる貫禄のプレイを、ヨージは見せつけてくれた。
 その勢いが頂点に達したところで、細野晴臣率いるイーサーバイブが登場。一転して神々しい雰囲気に満ちたステージとなり、ヨージのプレイで火照った体を一休みさせ、しばしチルアウト。 ETHER VIBE
 イーサーバイブのステージ終了後、いきなり細野晴臣がプロデュースした森高千里の曲が流れ出す。次のDJ、キヒラ・ナオキの仕業だ。いかにも彼らしい、ユーモアに溢れた演出。そこからアッパーなテクノへとシフト。常に幅広い選曲をこなしているキヒラは、この日も明るめでハウシーな曲からミニマルもの、アシッドっぽい曲、そしてブレイクビーツへと展開させる。中盤にはプロディジーの初期の名作チャーリーまでプレイし、このお祭り騒ぎに拍車をかけた。普段は真剣な表情でターンテーブルに向かっているキヒラだが、この日ばかりは満面の笑顔を浮かべ、実に楽しそうにプレイしていたのが印象的だった。
FLUKE ブレイクビーツで幕を閉じたキヒラのプレイに続くは、ライブバンドとしての評価も高いロンドンの大御所、フルークの登場だ。88年に結成され、バレアリック時代から活躍し、ビヨークやニューオーダーのリミックスも手掛けてきた古株の彼等。最近ではブレイクビーツ・シーンにおいて重要な存在となってきている。機材担当1人にMC(ヴォーカル)が2人という3人構成で、ライブでのパフォーマンスを重要視したステージングだ。導入部を経て、思いっきり腰のあるビートが炸裂し、ビキビキしたアシッド感覚のベースがうねる。ヒップなウエアを身に纏った女性ヴォーカリスト・レイチェルが、ステージ最前線まで繰り出して観衆を煽る。それに答えて大盛り上がりのグラウンド。ライブならでわのコール・アンド・レスポンスだ。そのサウンド自体もさることながら、レイチェルのステージを所狭しと駆け回るステージ・パフォーマンスがひときわ鮮烈に映った、素晴らしいライブだった。
JEFF MILLS フルークが演奏を終了しステージから去っていくと同時に、その背後にある壇上の暗闇から、スッと一つの影が浮かび上がった。ジェフ・ミルズだ!フルークに対する人々の喝采は、そのままジェフ登場への歓喜の叫びへとシフトした。穏やかなストリングスからスタートした彼は、そこに徐々にビートをフェードインさせていく。一瞬固唾を飲んだ観衆は、再び絶叫した。パーパス・メイカーからの4枚目、「Cubango」だ。最初っからブッ飛ばしていくジェフ。それ以降、あれもこれもと、まさにジェフ・ミルズのヒットパレードが繰り広げられる。ヒット作の多い彼だけに、ネタは一向に尽きない。その目にも留まらぬ素早い手さばきで、次から次へとミックスしていき、独自の旋律を紡ぎだしていく。そして誰もが感じ、確認したであろう事実。ジェフの曲は、ジェフ本人がプレイした時が一番かっこいい。曲そのものに説得力を与えられ、その瞬間何故その曲が作られたかという理由が解明されていく。

JEFF MILLSプレイ開始後、約30分が経過したところで名作「Change of Life」。さらにその約30分後には、盟友デリック・メイによる不朽の名作「Strings of Life」。3台のターンテーブルを自在に操り、リズムマシンTR-909をもミックスしていくお得意のスタイルで、観衆をグイグイ引っ張っていく。特にTR-909を用いたパフォーマンスは圧巻だ。レコードにテンポを合わせてミックスした後、その場でリアルタイムにリズムを打ち込んでいき、音を抜き差ししていく。機材に明るくない方に具体的に説明すると、彼はそのステージ上で、即興演奏にて作曲していたのだ。使っているのはリズムマシン1台。機材を扱ったことのある人でも、たった1台のリズムマシンだけで、これほどまでにグルーブ感があってパワフルな演奏が出来るなんて、果たして想像できただろうか?
JEFF MILLS全てにおいて神業に等しい彼のプレイは、何と3時間にも及んだ。徐々に日も昇ってきて、辺りがすっかり明るくなった午前5時45分。TR-909のビートを残して彼のプレイは終了した。次にプレイするキュウヘイがブースに立ち上がると、2人は握手を交わし、多いなる喝采に見送られながらジェフはステージを去った。
Q'HEY キュウヘイはジェフが残したTR-909のビートを、徐々にスピードダウンさせながらプレイをスタートした。既にすっかり明るくなった会場で、彼はミニマルながらもトランシーな選曲を繰り広げていく。石野卓球の「Polynasia」等のヒットチューンも交え、自身の曲「Edge of No Control」で一旦終了。そして一瞬音が止まったところで、静かに聞き慣れたイントロが聞こえてきた。アンダーワールドの「Rez」だ。一昨年のアンダーワールドのライブでの感動を思い起こさせるこのサービスに、観衆も大満足したことだろう。
 ここで今年のダンスプログラムは終了。割れんばかりの拍手をステージ上のマイクが拾い、スピーカーから大音響となって跳ね返ってくる中、最後のライブ・アクト、岡野弘幹&天空オーケストラのステージが始まった。明るく晴れ渡った空にマッチした、おおらかな歌声と生楽器による演奏が、会場全体に響きわたる。このリラックスした空間を、人は思い思いに楽しんでいる。グラストンベリーなどにも出演しているという実力を持った彼等のライブは、アットホームな雰囲気に包まれた、本当に気持ちのいいものだった。
 メインステージのプログラムが終了すると、山を昇るゴンドラが動き始めた。ゴンドラに揺られて到着した地点は、360度のパノラマな世界が楽しめる、絶好のチルアウト・ポイント。アートマンがプレイするアンビエントに身を委ね、眼下の手取川ダムを見下ろす。なんて贅沢なアフターアワーズだろう。ここに来て、改めてこの会場の素晴らしさを実感することとなった。
 その後、昼の12時過ぎまで音楽は流れ続け、24時間以上に及ぶ長い今年のレインボー2000白山−新月−は幕を閉じた。言葉では表せないほど、何ともハッピーで平和で、パワーに満ち溢れた1日だった。
(C) 1998 Sony Music Entertainment (Japan) Inc.
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